第13話 柴犬と愉快な仲間たち
そんなやりとりの最中、「ちょっといいか?」と、声をかけられた。
見ると、全員帰ったとばかり思っていたが、二人だけその場にとどまっている奴らがいた。
一人は、ボディラインがわかる全身黒ずくめの服を着たポニーテールの女性で、高身長。鋭い目つきでこちらを睨みつけている。
ミニスカートからのぞく太ももには、ぐるりとクナイが巻かれている。
な、なんかちょっと怪しいな……。
そもそも全身黒ずくめというところから普通じゃない……。
で、もう一人は……。
目つきの鋭い高身長の黒ずくめの女性とは対照的に、こちらの少女はどこかおどおどとした様子で頼りなく、身長もうんと小さかった。
パーマがかった茶色い髪を肩口で揃え、おとなしそうな様子とは裏腹に、背負っているリュックサックはうんと大きく、その横にはフライパンやらおたまやらがぶらさがっている。
両手には分厚い手袋をはめており、どこか眠たそうな表情でこちらを見据えている。
フライパンを持ってるし、料理人か?
その少女と目が合うと、サッとそっぽを向かれてしまった。
う~ん……。あんまり人付き合いとか得意な子じゃないのかな……。
どう対処していいのか迷っていると、最初に声をかけてきた黒ずくめの方が口を開いた。
「そこにあるパーティーメンバー募集の貼り紙、あれを貼ったのはお前か?」
黒ずくめの女が、俺ではなく、ソフィアの方を見て問いかける。
ソフィアは、こほん、と咳払いをすると、自慢げに俺を持ち上げて、
「そうですとも! 私はソフィア・ヴィヴィラドル! そしてこの方が、フェンリルのタロウ様です!」
「……は、はじめまして、フェンリルです」
黒ずくめの女性はじっと俺とソフィアを見比べると、
「……ふむ。了解した。犬をフェンリルだと思い込んでいるソフィアと、自分のことをフェンリルだと思い込んでいる犬のタロウだな。あたしはツカサ・リュヒルだ。よろしく」
「全然よろしくできませんよ! なんなんですかその覚え方! 訂正してください!」
「あっはっは。すまないすまない。冗談だ。テイマーのソフィアと、その使い魔のタロウだな。だが、先に犬をフェンリルだなんて荒唐無稽な冗談を言ったのはそっちだぞ」
「い、いや、だから冗談では――」
ソフィアが訂正しようとしたところで、慌てて小声で忠告する。
「ちょっと待てソフィア。そのことはもういい。ここでこの二人を逃すとパーティーメンバーの確保は難しくなる。ここは素直に話を合わせておこう」
「……タロウ様がそれでいいのなら」
ソフィアはどこか不服そうだったが、改めてツカサに向き直り、
「それで、ツカサさんは私たちのパーティーメンバーに入りたいと、そういうわけですか?」
「あぁ、そうだ」
俺が言うのもなんだが、あの誘い文句で寄って来るのはろくな奴じゃないと思うぞ……。
俺の気も知らず、ソフィアは続ける。
「それで、ツカサさんのご職業はなんですか?」
「あたしか? あたしは暗殺者だ。毒や暗器なんかの知識には長けているぞ」
「暗殺者、ですか? なんだかすごそうですねぇ」
いやいやいや、暗殺者が面と向かって『自分は暗殺者です』だなんて言ったらアウトだから! つーか暗殺者って職業なのか!?
ツカサと名乗った女性の発言に、たまらず口をはさむ。
「な、なぁ、ツカサ。暗殺者っていうのは、その……こっそり人を殺したりする、あの暗殺者のことか?」
「あぁ、そうだ! こっそり人を殺したりする、あの暗殺者だ!」
う、うわぁ……。随分堂々とした暗殺者もいたもんだ……。
「そ、そういうのって、黙っておいた方がいいんじゃないか? ほら、暗殺者なんだし」
「悪いが、それはできない。私は卑怯なことはできないたちでな」
うん。暗殺者向いてないと思うよ?
「な、なんで暗殺者になろうと考えたんだ?」
「かっこいいからだ!」
そんなキラキラした目で言われても……。
「じゃあ、どうしてうちのパーティーを選んでくれたんだ?」
「他はどこも断られたから、しかたなくだ!」
正直が過ぎるぞ☆
だ、だめだこいつ……。まともじゃない……。
けど、よくよく見れば結構筋肉質だし、意外と鍛えてるのか……?
うーん……。俺たちも贅沢が言えるような立場じゃないし、戦力になるなら多少のことには目を瞑るか……。
どうするべきかとうなり声を上げていると、もう一人の小柄な少女が申し訳なさそうにひょこっと手を上げた。
「ボク、お腹が減った」
そっかー。それは大変だね!
「えっと……。それで俺たちに何をしろと?」
「ご飯食べたい。あと眠いから宿も借りてほしい。できればシャワーも浴びたい」
マ、マイペースがすぎる……。
これがこの世界での常識なのか? いや、そんなわけないよな……。
けど自己紹介とかする前に、初対面の相手に飯と宿を求めたりするか?
少女の言動に動揺する自分を押し殺し、必死で苦笑いを浮かべ、
「そ、その前に自己紹介とかしてほしいなー」
「ボクはエマ・ロイ。料理人。お腹減った。眠い」
「…………」
「……?」
あ、自己紹介それだけなのね……。
「エマも、俺たちのパーティーに入ってくれるってことでいいのか?」
「そう。料理ならできる。あとお腹減った」
さっきからめっちゃお腹減ってるみたいだけど大丈夫?
作った分全部自分で食べちゃったりしないよね?
そういや、俺もこっちの世界に来てからまだベーコンの切れ端しか食ってないし、腹が減ったなぁ。
……つーかさっさと働かないと、もしかして今日飯抜きなんじゃ……。
ま、戦闘の役には立たないけど、専属の料理人がいるっていうのはいいよなぁ。俺、前の世界ではエナドリとコーヒーとカップ麺しか口にしてなかったから、久しぶりにうまいもんが食べたいなぁ。
正直すぎる暗殺者に、腹を減らしたマイペースな料理人……。
どっちもクセが強いけど、来てくれただけマシか……。
「よし! じゃあ二人とも、これからよろし――」
「ちょっと待ってください!」
ソフィアが俺の言葉を遮り、二人の前に身を乗り出した。
「ど、どうした、ソフィア?」
「この二人を私たちのパーティーに加える前に、タロウ様と行動を共にするにふさわしいかどうか、見極めさせていただきます」
「見極めるって……。別にそんなことする必要ないんじゃないか? 俺もまだそこまで強くないし……」
「別にお時間は取らせませんよ。たった一つ、質問に答えていただければそれでいいんです」
「質問?」
「えぇ」
ソフィアは、こほん、と咳ばらいをすると、二人をキッと睨みつけた。
「では、お二人に質問です」
その有無を言わせぬソフィアの迫力に、二人はごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、あぁ。何でも聞いてくれ」
「不安……」
すると、ソフィアは俺をひょいっと持ち上げ、ツカサとエマに見せつけるよう、ぐいっと突き出し、こうたずねた。
「お二人は、タロウ様を見てどう思いますか?」
その素っ頓狂な質問に、ツカサもエマも、そして俺も、一瞬固まってしまった。
だが、ソフィアの方はというといたって真剣で、それに気づいた二人は恐る恐る口を開いた。
「なかなかいい毛並みだと思うぞ。それに、犬は訓練次第で暗殺を手伝わせることもできるからな」
「犬は好き。狩猟犬にすれば食べ物が手に入る。それにかわいい。わしゃわしゃしたい」
二人の答えを聞いたソフィアは、ふぅ、と小さく息をつくと、カッ、と目を見開き、今日一の大声で宣言した。
「二人とも合格ッ!」
「何基準だよ……」
「犬好きに悪い人はいません!」
「たった今、暗殺を手伝わせようとしてた奴がいただろうが……」
「それも魅力の一つです!」
「さすが俺の信者第一号……。とことん全肯定だな……」
ソフィアは改めて二人に向き直ると、
「というわけで、これからよろしくおねがいしますね。ツカサさんに、エマさん」
「あぁ。よろしく頼む」
「よろしく。ちなみに今日のご飯は何時から?」
ふ、不安だ……。




