64 最後の伝言 Ⅰ
ガタッ
目の前の扉が開き、飛び出して何かがキラッと光り、俺は瞬間的に斜め後ろに下がった。
飛び出してきたのは…義理弟の陸斗だった。
手には、包丁を持っている。
「海斗さん、大丈夫ですか?」
そう言って後ろから現れたのは、…美桜さんだった。
何で…美桜さんが…
でも…とにかく、陸斗をなんとかしないと…
陸斗は一言も言わずに不敵な笑みを浮かべて、ゆっくりと近づいてくる。
マンションの一番端の部屋なのをいいことに、陸斗は道を阻んだ。
ジリジリと距離を詰められる。
俺は玄関に置いてあった傘を持ち、咄嗟に美桜さんの手を掴んで、自分の部屋に飛び込んだ。
陸斗も後を追ってくる。
「かいとぉ、自分から逃げられない場所に入るとはな!」
陸斗は部屋のカギを閉めて、叫んだ。
俺は美桜さんを自分の背後に回して、「…何でこんなことをするんだ、陸斗」と聞いた。
「地獄に落ちるのは俺だけじゃない、お前もだよ、海斗。お前がいなければ……家も全て壊してやればいいんだ…西園寺の苗字のまま、俺はお前を殺して、死ぬ」
そう叫んで、包丁を振り回した。
「かいとぉぉ、もう逃げられないよ」
笑いながら、陸斗は俺に近づいて包丁を振り上げた。
そして後ろにいたはずの美桜さんがすっと横に動き、陸斗の脇腹をバックで思いっきり押した。
押された陸斗は脇腹を片手で押さえた。
「いってぇーーな、この、アマ、何しやがる。海斗、海斗、海斗って、お前は皆に守られて、ほんと良いご身分だよなーーーあ、お前から、でいいや。」
喚き騒いで、陸斗は俺から照準を美桜さんに切り替えたようだった。
美桜さんに包丁を向けて、そのまま刺そうと向かっていった。
俺は二人の間に入り、包丁が俺の左腹あたりにあたった。
「海斗さん!」
美桜さんが名前を呼ぶ。
ただ幸いにもオーバーサイズの洋服の左端部分にあたっただけで、そこに俺の身体の存在はなかった。
陸斗は勢い余って前のめりになった。
その瞬間、俺は右足で陸斗の身体を思いっきり蹴った。
陸斗は包丁を落として、後ろに倒れた。
「くそっ!」
陸斗が叫ぶ。
「海斗さん、大丈夫ですか?」
美桜さんが俺に聞くので「大丈夫、…だけど…」というと美桜さんは素早く返事をくれた。
「よかった。じゃあ、後は…」
美桜さんは俺の後ろから倒れた陸斗の方に自ら近づいていった。
「…間に合ってよかった…。私が用事があるのは、陸斗さん、あなたです」
そう美桜さんは陸斗に話しかけた。
うなだれていた陸斗は美桜さんに顔を向けた。
「何言ってんだ、お前」
「…陸斗さん、あの…少しだけ話を、聞いてください。…陸斗さんは勘違いされています。西園寺議員が離婚しても、陸斗さんは西園寺家の一員です」
美桜さんは陸斗にゆっくりと話し出した。
「お前、何の話してんだよ」
美桜さんは必死になって、陸斗に話しかけた。
「…議員の離婚によって、陸斗さんは西園寺家から追い出されると思っていらっしゃるようですが…そんなことを議員は考えていないということです。議員は今まで通り、陸斗さんを息子として…西園寺家を支えてほしいと思っています」
美桜さんが話終えた後、陸斗は目を大きく開いて、美桜さんを見た。
「なんで…お前がそんなことを…」
「陸斗さん、事務所にも昼間乗り込んでいらっしゃっいましたよね、その様子を受けて秘書の森下さんが…相談してきまして…年齢が近い、そして状況を知っている私が陸斗さんに話をすることを引き受けました…正直、森下さんはこの件に対してよく思っていません。陸斗さんが事件を起こして公になれば、それで手が切れればそれでもいいと…でも議員は違います」
美桜さんは苦々しい顔をして、陸斗に話し続けた。
陸斗は美桜さんを見ながら、話しに聞き入っていた。
「議員は他の兄弟の方と同じく陸斗さんを信頼し、ずっと家を支えてほしいという願望をお持ちなのです」
「…てっきり母と一緒に切られるのかと…」
陸斗の目から涙が零れた。
腕で涙を拭い、「それでも…海斗、お前の周りは…お前のことをよくわかっているやつばかりで…俺はお前が嫌いだ」と言った。
俺の周りには、俺のことをよくわかっているやつばかり?
今、陸斗が行った言葉が反芻した。
陸斗はぶつぶつと「くそっ、そうか…俺はまだ………」と漏らした。
そして顔に手を当てて、陸斗はアッハッハと笑い出した。
「…陸斗、何の話をしているんだ?」
俺は気になって聞いた。
「あぁ、言い忘れてたな、お前の友達だよ…あの恒星とかいう」
俺は陸斗に向けて視線を向けた。
陸斗…恒星を殺しのはお前……?
身体の中の血が沸騰した。
目の前の陸斗が…心底、憎く感じた。
自分の足元には包丁がある。
俺はゆっくりと手を動かし、包丁を握った。
父が許しても、俺は絶対に許さない。
例え、義理弟であろうと、全てを失おうとも。
俺は包丁を陸斗に向けて振り上げた。
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