63 光の行方
後片付けが終わり、俺はルカやナリと住んでいた部屋から荷物をまとめて家に戻ることにした。
ナリ曰く、ルカの希望で今日、皆で遊園地に行くことになったらしく、部屋には誰もいない。
部屋にいたのはたった一か月ぐらいであるが、この部屋での思い出の密度は高く、去り際、出来事を思い返した。
光、ナリ、ルカと一緒に過ごして、相手の想いや感情を知り、ほんの少し前の、恒星がいなくなって感じていた死にたいという気持ちは消え去っていた。
これはスタートで、この先もそれぞれの道は続いていく。
運命に翻弄される日々はおしまい。
例え、もうこの世にいなくても…そして距離が離れていようとも、嬉しさも、悲しみも、その時に感じた感情を共有し、俺たちは数珠つなぎのように結ばれている、と実感する。
出会えたことが奇跡で、この感情を得た俺は…もう、孤独じゃない。
だから、ここを去ることは終わりなんかじゃない。
そう思って部屋を出て、扉を閉めた。
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自宅マンション前に戻ると、そこに光がいた。
近づいて、声をかける。
「光、いつからそこに…寒くない?」
光は微笑んだ。
「待ってました、海斗さん」
光はお昼を食べていないと言うので、自宅に荷物を置き、着替えをした後、車で以前、美桜さんに紹介してもらったカフェに向かった。
「どうかな、口に合うかな」
黙って食事している光に聞いた。
光は頷いた。
そして少し考える様子を見せた後、「…恒星君の家にいた時の思い出を…思い出す味です」と言った。
「そっか」
そう思うかなと感じてこの場所を選んだので、素直に嬉しくなった。
お店は入った時にはお昼で賑わっていた店内も少しずつ人が少なくなり、今は閑散としている。
「それで…どうしたの?」
俺は何も言わない光に聞く。
「聞かれないかと、思ってました」
「何か…あるから待っていたのだろうかと思って。…答えたくないなら、答えなくても、いいよ」
光の様子を伺いつつ、俺はゆっくりと伝えた。
「ナリとルカに楽しんでほしくて、でも、一人でいたくなくて」
そう光は言った。
穏やかに話す中に、光の感情が少し漏れて、俺は光の顔を見た。
少し微笑み、嬉しそうな、愛しい何かを見ているような様子だった。
光は…ルカの気持ちを知っている?
「あと海斗さんにもこれを渡そうと思いまして」
光はA4サイズの茶封筒をバックから取り出してテーブルの上に置き、俺の疑問は質問する機会を失った。
「マスタデータの中をUSAの研究部門に送りまして、確認してもらいました」
俺はテーブルの上の書類を開いた。
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対象遺伝子による無精子症の原因と対応案…
原因:……
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俺はさっと目を通して、「これ…」と言った。
「はい、マスタデータに入っていた基礎研究、私自身の研究の結果とあわせての考察です。勝手に調べてすみません…受け取ってもらえませんか?」
「…ありがとう。あの、もう一方の問題の解決の目途についても…聞いていいかな」
俺はお礼を告げ、光の身体の問題について聞いた。
光は何も答えない。
「そっか…」
「海斗さん…私は…今の私のままでいたい…変わらない私のまま、皆といたいのです」
光は呟いた。
ふっと俺はまた母の手紙を思い出した。
光が、母の”病気になる前の私のままの姿で覚えていてほしい”という姿と被る。
君は母と同じく自分を受け入れて、そしてきっと決意しているんだろう。
「そっか……うん…わかった…」
光はくすっと笑って言った。
「海斗さん…さっきから同じ返事ばかりです」
デジャブのようなやりとりを感じながら、俺は少し笑った。
「…うん。光の意見…意思を尊重したいなって…俺は俺で君は君で…遺伝子は少しは一緒なのもしれないけど…別の人だからね…」
光が微かに頷いた。
「海斗さん、ありがとう。…ナリもルカも…私の気持ちを大事にしてくれていると感じる。私ね、生きて、ここにいると今、強く感じてる」
光の携帯が鳴った。
「あ…うん、そうなんだ、うん、わかった。そうであれば…戻ろうかな。うん、ちょっと待っていて」
携帯を切って光は言う。
「抜け出してきたんですが、夜のイルミネーションは一緒に見ようって」
そして舌を少し出して、笑った。
俺は光を遊園地に送り届けて、自宅に戻った。
部屋のカギを開けようとしたとき、気が付いた。
カギが…開いている?
恐る恐る扉のノブを握り、開けようとした時、「海斗さん、開けないで!」と後ろからバタバタと走る足音と声が聴こえた。
それと同時に、目の前の扉は勢いよく開き、部屋から何かが飛び出してきた。
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