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月にキス-IdentityCrisis Rebirth  作者: MERO


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53/70

52 いざ、戦場へ

<この回の登場人物>

西園寺海斗(さいおんじかいと)

 この物語の主人公(33歳男性)、父の持つクローン研究のマスタデータ取得しようとしている。


成田廣重(なりたひろしげ):コードネーム:ナリ

 西園寺海斗の同級生(33歳男性)、かつての光の恋人、現在も光を好き。計画実行のため、コードネームをナリとした。


西園寺創真(さいおんじそうま)

 海斗の父、政治家。邪魔物は排除し、西園寺グループの繁栄に固執している。


森下(森下)

 父の側近。感情を見せることはめったにない。


絵梨(えり)

 森下の娘(21歳)、父に反発している。

 海斗からその反発は秘書になって返せばいいと言われて、秘書になることを承諾する。


<今までお話(要約)>

二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。

クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。

海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院の研究室にあるクローン研究情報を取得した。兄によると研究のマスターデータは政治家の父の議員会館にある執務室にあるということが判明したため、父に接触した。

その結果、森下の娘の絵梨を通して議員会館へ入館パスを手にし、研究資料の奪取を企てる。

 絵梨は秘書を引き受けるというので、俺は父と森下に連絡し、議員会館へ行く予定を調整することとなった。

 そこまで対応し、俺は一旦、ナリがいる家に戻った。


 俺が家に戻った時、金曜日から生活していると連絡をくれたナリの靴は玄関になく、今は外出しているようだった。

 部屋に荷物を置いた後、暗いリビングに戻るとちょうど扉が開く音がする。

 どうやらナリが帰ってきたようだ。


「ただいま~」

 玄関からナリの声が響く。

 ナリはリビングまできて「海斗、いるんだろ?電気ぐらいつけろよ」と言って、スイッチを押した。


「おかえり。俺も今、帰ってきたばかりだよ」

 俺はナリに言う。


「そっか」

 ナリは数日前に会った時とは変わって、普通(・・)にふるまおうとしているようだ。


「あのさ……」

 ナリが俺に声をかける。

 俺は立ったまま、ナリを見た。

 ナリはくせっ毛の髪の毛を触りながら、続く言葉を考えてるようだ。


 俺は少し近づいて、ちょっと笑った。

「やっぱり男二人だけだと微妙?あーー、そういや、ビール買ってないな」


 ナリは俺の言葉に答えずに、リビングの椅子に勢いよく座った。

「西園寺ブシ復活ってとこ?」

 

 俺はフっと笑って、椅子をゆっくり引きながら「かもね」と言い、座った。

「さてと…準備は整った。作戦について、話そうか」


****


「つまり、海斗が議員会館に入っている間に、騒ぎを起こして議員室にいる全員を外に出させるということと、そしてその後で西園寺議員とその秘書が議員会館に来るタイミングを知らせるということでいい?」

 俺の作戦を聞いて、ナリは自らの理解について口に出した。

 

「そう、理解早くて助かる」


 光の情報によれば、研究資料は議員会館内にある議員それぞれに割り当てられる議員部屋、つまり東京事務所の棚に置いてあるという。


 議員会館は厳重なチェックを受けるから外から何かの持ち込みはできないが、入館までしてしまえば比較的自由だ。

 一瞬だけ議員会館内の父の東京事務所の人間が一人もいない状況さえ、作ってしまえば研究資料自体の入手は問題ないだろう。

 

 ちょうど父から義理母の息がかかった秘書の情報が送られてきた。

 父は俺を隠れ蓑にして、秘書の入れ替えを企てているのだ。

 自分の手を汚さずに人にさせる、本当に嫌というほど父の性格を目の当たりにしながらも、俺はこの機会に便乗して研究資料を回収しようと計画を考えた。


「あの階の廊下のスプリンクラー動せないかな…一部だけでもいいけど…誤作動でも起きればきっと全員、状況が判明するまであの場所から離れるだろうから」

 俺はナリに言った。

 

「…情報はもらえるだろうけど、最終的にはこっちから俺が操作できるかどうか、かもしれないけどな」

 ナリは俺に言う。


「頼むよ、ナリにかかってる」


 いつになく真剣な俺に、ナリは俺の目を見て、頷いた。

「あぁ、わかった、努力する」


 そして次は父と森下がいつ議員会館に来るのか、それは重要なポイントだ。

 それが研究資料がなくなったことが発覚するタイミングになるわけだから。


 その時に俺は絶対に父と会わないようにしたい。

 直後に会えば、父は俺の反応がおかしいことに気が付くだろう、そういうことに長けた人だ。この前の会話からすると、今の時点で何かしら企んでいると思われているわけで、確実に疑われる。それは避けたい。

 最終的な確認はともかく、直後は電話で話せばいい。

 

「喉乾いたな、ビール買ってくる」

 俺はそう言って席を立った。


****


 計画の日はすぐにやってきた。

 クリスマスを過ぎた平日。俺は休暇を取って、絵梨とともに議員会館で挨拶することになった。


 もちろん、父と森下はいない。

 この時期、そうでなくても支えてくれている関係各所への挨拶回りが重要で、本来であれば、俺もそちらに帯同すべき状況なのだ。

 森下から別の秘書を紹介してもらい、その秘書を経由して、議員室に入り、絵梨を関係者に紹介する役目、それが俺だ。

 旧知のメンバーは何度か父主催のパーティで挨拶もしていて、顔見知りである。

 さらに父から水面下で話を通しているから何も不自然ではないだろう。入れ替え対象となる秘書以外は。

 

 これは俺が試されているともいえる。

 父がいなくてもこのメンバーと話をあわせてうまくやっていけるかどうか、そういう試験。


 スーツを着て、議員会館前で絵梨と待ち合わせた。

 電車でやってきたのか、駅方向から絵梨は歩いてきた。

 先日のラフな恰好から変わって、自分と同じく、スーツ姿だ。

 リクルートではなさそうだが、極力、抑え目の一般的なもの。きっと森下の助言だろう。


「海斗さん、お待たせしました。本日は宜しくお願いします」

 お辞儀をして挨拶した。


「こちらこそ、宜しくお願いします。」と言った後で俺は笑って、「絵梨さんらしくない。大丈夫、何かあれば俺がフォローするから、安心して」と伝えた。


「父は海斗さんを信用しろと言いました。…でも海斗さん、別にその立場に固執していませんよね?そんな風に思っている海斗さんに父が信頼を置いていることが不思議です」

 

 森下が俺を信用しろ…か。

 ここで秘書の話がなくなったら困るのは父と森下だから、とも思うが…森下とは奇妙な連帯感を俺も少しは感じている。

 父に忠実な執事であり、秘書。さらに母がいなくなってからの世話係。

 森下は俺が父が望んだ通りに行動すると信じているのだ。

 それは父が俺に対してNOと言わせない方法で従わせているにすぎないだけなのだが。

 そして俺も父に忠実という点において、森下を評価している。

 

「そう?ある意味、似たもの同士だからね」

 絵梨に向かって俺は言った。絵梨はわかったようなわからないような不思議な顔して、目を何度か瞬きさせた。


「さて、向かおうか」

 守衛に声をかけて、事務所にいる秘書に出てきてもらい、入館に伴う手続を始める。


 そこで似たもの同士と言った後、内心、今回の自分の行動が父にも森下にも筒抜けの気がし始めて、俺は気持ちを引き締めた。

見に来てくださって、ありがとうございます✨

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