50 不穏な動き
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公(33歳男性)、父の持つクローン研究のマスタデータ取得しようとしている。
西園寺創真
海斗の父、政治家。邪魔物は排除し、西園寺グループの繁栄に固執している。
森下(森下)
父の側近。感情を見せることはめったにない。
義理の母
海斗の弟の陸斗の母。
<今までお話(要約)>
二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。
クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。
海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院の研究室にあるクローン研究情報を取得した。兄によると研究のマスターデータは政治家の父の議員会館にある執務室にあるということが判明したため、父に接触を試みようとする。
金曜日、ナリが来る前に、俺は久々に実家に帰った。
父に接触するためだった。
森下に聞いたら、父は会食で20時過ぎに帰ってくると言う話だった。
久々の実家で2階にある自室で過ごしていると、窓の外から大声が聞こえた。
「何で私がこの家に帰ってきちゃいけないのよ!ここは私の家よ!」
窓を開けなくても敷地内に聞こえる大きな声。
部屋を出て、階段のある吹き抜けから1階の玄関を上から見下ろす形で見た。
そこには森下と義理の母がいた。
「カードキーが使えないわよ!森下!この扱いは何なのよ!この家の妻なのに、なぜ自由に入らせてくれないの!!」
叫んでいたのはどうも義理の母だったようだ。
森下は義理の母を見て、「気のせいではございませんか。カードキーをお借りしてよろしいでしょうか。」
義理の母から家のカードキーを預かる森下は顔色一つ変わらない様子で受け取っている。
「それで、蒼真さんはどこにいらっしゃるの?」
森下はその声を聞いて、義理の母の顔を見た。
「奥様こそ、予定を把握していらっしゃないのでしょうか。本日は蒼真様は挨拶周りでこちらには帰ってくるのかわかりません」
冷たく、問い詰めるような言い方で森下は返した。
その様子に義理の母は一瞬、たじろいだが、「私が来ると伝えたのに、調整してくれなかったのね」と言い、森下に向かってさらに「森下、頼んでいた資金の準備はどうなっているの?あれから連絡が一切ないけど」と突っ込んだ。
森下は「数日前に、ご用意してお振込みいたしましたがおかしいですね。」と淡々と言う。
義理の母はじろっと森下を睨み、「そう、いいわ、確認するから」と言い、その場で電話を取り出した。
「陸斗、今から言う銀行の口座残高を確認してもらっていいかしら。そうよ、…はい?何言ってるの?言う通りにしなさい!」
どうも電話口の陸斗とも何やらうまく話ができていないらしく、義理の母は怒りながら電話を続けた。
「もう!どいつもこいつも!お前はほんとに役立たず、母さんの言うことが聞けないの?良いわ、陸斗の口座から資金を貸して頂戴、そうよ、後であなたから蒼真さんに話せばいいこと、資金の移動は私の方で対応するわ」と言い切った。
電話口で陸斗の大きな声が聞こえたが、義理の母は気にせず、電話を切った。
振り返り、森下に「陸斗が立て替えてくれるって」と言って義理の母は鼻で笑った。
「さて、今日の所はもう帰るわ、森下が言っていたことが本当なのかどうかはまた後日に確認させていただくわね。嘘ついてたら…」
義理の母はそこまで言って、森下の首元に手を伸ばし、首のギリギリ手前で伸ばした拳を握った。
そして笑顔で「蒼真さんに言って、首にしてもらおうかな?」と呟いた。
森下はそんな義理の母の態度にも臆せず、少しお辞儀して扉を開けた。
「お気をつけて、お帰りなさいませ」
その二人の一部始終を見終わった俺は気づかれないように静かに自室に戻った。
森下は義理の母には帰ってくるかわからないと話していたが、それから1時間後、父は帰ってきた。
父の予定を森下が知らないわけがないし、父は義理の母と顔を合わせたくない、ということなのだろうか?
父が帰るまでに俺は父が利用している議員会館の議員室にどのように近づこうかと考えていたが、この状況を利用したらどうだろうかと考えを巡らせた。
森下にお願いしていたとおり、父が帰宅後、少ししてから俺は父との面会のため、応接室に呼ばれた。
「失礼します」
俺は応接室の前でノックをし、挨拶して扉を開けた。
父はソファーに座り、腕を組んでいた。
「海斗、一体、どうしたんだ?お前から私の所にくるなんて」
俺はソファー近くまで進み、「挨拶回り、忙しそう中、時間を頂きまして…」とそういった時、父は「早く要件を言わないか」と一蹴した。その様子に俺はたじろいだ。
「何だ?何も言わないのか?」
父は俺を挑発した。
父の目をまっすぐに見て、俺は「いえ、忙しそうですね、外回り。ところで…内部は問題ないのですか」と声をかける。
「何のことかわからんが」と父は視線を外して少し笑いながら俺に言う。
「さっき、お義母さん、見ましたよ。だいぶご立腹のようでしたが」
そういった途端、父の視線が突き刺さった。
父は俺を睨んだ。
「海斗…お前…何を言いたい」
「そういえば、お義母さんの息のかかった秘書いましたよね?ああいうの、大丈夫なのかなと単純に気にしているだけですよ、これからを考えるなら、今のうちから変えたほうがいいと思っているもので」
父は俺に対して警戒しているようなそぶりを見せたので、俺は話を微妙にずらして父の様子を伺った。
「………」
無言で俺を父は睨んだままの状態なので、俺は肩の力を抜いてふっと笑って言った。
「ちょうどいい機会だと思うんですよね、東京の事務所のメンバー、父の議員室でこれを機に紹介してもらいませんか」
「………お前は何を考えているんだ?海斗?」
俺の言いぶりに父はさらに疑問を持ったようだ。
そんな父に俺は反応せずに「西園寺家のこれから、ですけど」と淡々と答えた。
「お前がそんなことを考えているとは思えんがな…何を企んでいるんだ?」
今までの行動のツケのせいか、父に再度、質問された。
そこで俺はため息をついて、父に返した。
「お父さん、いいんですか、このままで?私がやる気になっている時なんて早々ありませんよ」
父は怒り口調で話したと思ったら、急に話を変えた。
「…お前に言われなくても考えてる!…だがな、1点問題があるんだ。……そうだ、ちょうどいい、お前に任せるかな…」
「森下!」
父は応接室の扉の前で待っているであろう森下に声をかけた。
森下はすぐに部屋に入ってきて、お辞儀をした。
「娘の件、海斗に任せてやってくれないかな」
父は森下に視線をやり、そう伝えた。
森下は再度、一礼した後で「…そうですか、わかりました。では、明日、こちらに呼びます」と父に言った。
「あぁ、そうしてくれ」
そして父は俺の方に向きなおした。
「海斗…お前が依頼事項をきちんと遂行すれば、秘書が入れ替わる。どういう意味かわかるな?つまり代わりの秘書の手配をお前に任せるということだ。新しい秘書が事務所に行き、挨拶をすればお前の勝ちだ。詳細は明日、森下に聞いてくれ」
父はまるで挑戦状を突き付けるような話しぶりで俺に依頼した。
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次回更新は遅くて今週の土日を予定しております。
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