49 それぞれの胸中
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公(33歳男性)、父の持つクローン研究のマスタデータ取得しようとしている。
以下、3年前の事件で日本戸籍を消失、偽物のパスポートで日本に入国した。
成田廣重:コードネーム:ナリ
西園寺海斗の同級生(33歳男性)、かつての光の恋人、現在も光を好き。
計画実行のため、コードネームをナリとした。
<今までお話(要約)>
二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。
クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。
海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院の研究室にあるクローン研究情報を取得した。光はウイスル感染で亡くなった遺伝子を元に作られており、ウイルス感染時、本来であれば女性として妊娠・出産をすることでウイルスも流れ出る計画であったが、光の身体は妊娠できない、そしてその影響で妊娠至る行為自体が苦痛でナリと恋人同士に戻れない理由が判明した。
またクローン元の遺伝子は海斗の親戚であった。海斗にまで男性にのみ無精子という症状が引き継がれて兄と自分の身体にまで影響が及んでおり、それも光は理解していた。
そんな状況を知らないナリとルカは懸命に光に伝えようとするが、発熱が収まらず、心配を募らせていた。
ナリは俺とルカが住んでいるマンションにルカの荷物を取りに来た。
ルカから指定された荷物を探し、何も言わずに持っていこうとするナリに、俺は玄関で「…大丈夫?」と聞いた。
ナリは顔を上げて俺を見た。
「…大丈夫だよ」
目はうつろで声は沈んでいた。
大丈夫…じゃなさそうだなと思った。
きっと光の発熱がまだ引かないんだろうと思った。
「…金曜にはここに来るから、そのあと、今後について話そう」
ナリは珍しく感情のこもらない口調で俺に言う。
今は何も聞くなと…そう、ナリに言われているように感じた。
その様子に俺は光を思い出していた。
"和風洋風"での光は…自分から反応していなかったが、ナリの好意には否定はしていなかった。
ずっと光はナリを大事に想っていて、好きな気持ちを隠してナリの前で好きかどうかわからないフリを続けている。
そう感じて、俺は光の感情に苦しくなった。そしてその場で床に膝をついた。
ナリの後ろ姿に、"光は…お前を誰よりも大事に想ってるんだよ!"と叫びたくなった。
ナリは玄関を開けて今すぐ外に出ようとしていた。そこで、ふいにナリが振り返った。
「海斗?…どうした?お前、体調悪いの?」
ナリは膝をついている俺に向かって心配そうに聞いてきた。
俺は立ち上がり、ナリの前に立ち、「…ナリはさ、何でそんなに周りばっかり気にしてるんだ?今、ナリが気にするべきは光で…光をよく見ろよ」と俺は強く主張した。
ナリは一歩後ろに下がった。
心配しているにも関わらず、前触れもなく急に俺がナリにくってかかったから、当たり前の反応といえば、当たり前だ。
「……そんなの、わかってるよ、でも…」
「でも…なんだ?…ナリの…光への想いってそれぐらいだったのかよ!まだ光は亡くなったわけじゃない。それなのに…なんなんだよ…お前がそんな感じだったら、どんな思いで日本を出て…命をかけて…救おうとした光が……」
俺はそこまで言って、ナリの両肩を持ってうなだれた。
ナリは息を大きく吐いて俺の名前を呟く。
「海斗…」
俺は顔を上げて、ナリと目を合わせて、「ナリがどう思ってるのか、今日、何があったのかそれは…今、どうでもいい。光が何のためにここまできたのか、ナリを…ルカを…どれほど大事に思っているってわかっているのか?…それは忘れるなよ…」と俺はナリの肩を揺らして懇願した。
ナリは俺の手を掴み、肩から外した。
「あぁ…海斗。そうだな、お前の言う通りだよ」
「次会う時、そんな顔しているなら、協力はごめんだからな」
俺は冷たく言い放った。
ナリは哀しそうな顔の中、力なく少しだけ笑って、「…ああ、わかった。約束する」と言い、部屋を出た。
ナリが行った後で俺はひどく自分の行動に落ち込んだ、俺は何もできない、その上、ナリに自分の感情をぶつけたことをー。
そして光の気持ちを…そして状況を…あやうく発しそうになったことをー。
ナリは落ち込んで当然だろう。これは俺がナリに怒るようなことじゃない。
でも、どうしても言わずにはいられなかった。
****
俺は一人で住むには広いマンションで、平日を一人過ごした。
寂しさは不思議と感じなかった。
むしろ、一人になって考える時間ができて、頭の中を整理することができてよかったと思う自分がいる。
なぜなら、ここまでに自分のことも含めて、あまりの情報量に頭が追い付いていかなったからだ。
兄と俺の遺伝子による無精子症……これには、驚くよりも自分自身、不思議と納得してしまった。
もしかしたら…先に検査をしていて結果を知っていた為かもしれない。
兄は人一倍あの家の重圧を感じていたようだったから、きっといち早く抜けてよかったと安心していたのではないかと思う。
そして…俺は…まだ家に縛りつけられているというのに…何も解決していないにも関わらず、なぜか解放された気持ちになった。
それはいくら父が俺に家のため、と言っても物理的に難しいということが確定したから、という気分だからなのかもしれない。
父の希望通りの人生を歩まなくていいと、ある意味、復讐を成し遂げた気分だった。
『この家に生まれたなら、子供を成せ』
そう、ずっと言われ続けていて、正直、うんざりだった。
俺はやっと家の呪縛から解き放たれたのだ。
でも同時にどんなに、俺は自分の人生を呪っているんだろうかとも思う。
後ろ向きで本来、憂うような内容に納得している自分。そこには自分自身に対する憐みを強く感じていた。
そのうち、俺は…この身体を後悔する日が来るのだろうか…。
そう思った瞬間、美桜さんの顔が浮かんだ。
やはり別れてよかったのだ…そう、俺は強く、自分に言い聞かせた。
次に浮かんだのが、母だった。そして父の母の身体を作る計画。
どうしても納得できなかった。
父が母を助けたがっていた、と?
一切、病室に来なかった父が?
それも父の議員会館内の事務所に行けば、何か答えが見つかるとでも言うのか…。
ずっと家に戻ってから俺は父を避けていた。
この前は美桜さんに助けてもらったが、次会う時…俺は一人で…父と向かい合わなければならないのかもしれない。
そう、俺は必ず、クローン研究のマスタデータを取得する。
そのデータに、光の、感染したウイルスに関する解決方法について…何等か対処方法が何か情報として残っていればいいのに…と淡い期待を持って、俺は父に対峙したとしても、もう逃げずに挑んで…必ず手に入れると決意した。
見に来てくださって、ありがとうございます。
次回更新は更新できたら、平日、遅くとも来週の土日を予定しております。
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