47 秘密の共有 Ⅲ
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公(33歳男性)、兄の病院にあるクローンの情報を取得するため、古川さんと一緒に同居を始める。
狭山光
前作の主人公であり、クローン研究で作られた唯一のクローン(30歳女性)
西園寺海斗の大学の後輩で現在、ナリと一緒にかつてのアルバイト先で計画を見守っている。
<今までお話(要約)>
二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。
クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。
海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院の研究室にあるクローン研究情報を取得した。そこでクローン作成の遺伝子の元となった人物はウイルス感染で10歳で亡くなっており、研究では遺伝子の組換えでそれらを回避する方法でクローン作成し、その結果を監視するフェーズがあること、光の時々の発熱の原因がクローン元のウイルスであることが判明した。
さらに海斗はそのクローン元の遺伝子から男性にのみ無精子という遺伝子が引き継がれて兄と自分の身体にまで影響が及んでいることを知り、光がこれらの結果についてどこまで知っているのか、自分一人で確認しようと光の元へ向かった。
俺は光の顔を見た。
それに気が付いた光も俺を見た。
その瞬間、合図かのように光は手で目を抑え、涙が頬を伝った。
そして椅子から崩れ落ちた。
俺は咄嗟に椅子から立ち上がり、光を支えた。
-ごめん、ナリ
先ほどナリと約束した1メートル以上近づかないという言葉を思い出して、俺は心の中で謝った。
光の肩を支えながら、光に何か安心させてあげたいと思ったが…どの言葉も気休めでしかない。
2年前の光の心をいつの間にか開いた恒星を思い出す。
……恒星、お前だったら…どうする?
心の中に、浮かんでくるのは、恒星の家。
俺はあの家で意固地になって一人部屋の端に座っていた時のこと。
目の前で食事の準備をしていた恒星は…何も言わずに、俺をいないように扱った。
あれが気遣いだと気が付いたのはずっと後だ。
今、光の中で葛藤しているんだろう、あの時の俺と同じように。
きっと光は何も触れられたくない。
「椅子に、座れる?」と俺は聞いて、小さく頷く光を再び、椅子に座らせた。
-食べることは生きること
断片的に思い出す恒星の言葉。
光は目から流れる涙をゴシゴシと拭いている隙に、俺は鞄から今日、会社でもらったお菓子を取り出した。
そして、ひざの上に1つ置いた。
光ははっとして、ひざの上を見た。
「急にごめん。今日、もらった…多分、チョコ。」
こんな場面でお菓子を渡すことに慣れていないから、俺は単語で区切って言葉を発した。
光はじっとチョコを見ていた。
俺は気にせず、自分の手元に残っていたチョコを1つ開けて口に放り込んだ。
チョコの香りと舌に残る甘さを感じながら、少し冷静になった。
俺はここで動揺してはいけない。
きっと恒星ならここで少し気分を切り替えるようなことを言うはずだ。
また恒星の言葉が蘇る。
光と飲んでいるという恒星が電話してきて俺に言った言葉。
-心配しなくても、大丈夫でーす!センパイが弱み教えてくれたら、言ってもいいけど、だって。
弱み?俺の弱みか…。
「…俺…多分、すごく寂しがりやなんだと思う。恒星の家にいるとき、ほとんど誰からも相手されなくて…構ってほしくて泣いていたんだ」
過去を思い出す。
そうだ、俺は家族団らんの中でどうしていいのかわからず、でも楽しそうな家の空気を見て、俺も入りたい、話したいと強烈に感じたんだ。でも出てくるのは言葉じゃなくて、涙。
話し出した俺を見て、光は目線をゆっくりと上げた。
俺は目が合わないようにして、話を続けた。
「恒星はそんな俺を構ってくれて、ずっと世話してくれてた。…実はさ、恒星がいなくなってから…時々、思い出して泣いてた。女々しいよね」
じっと光は黙って俺の話を聞く。
俺と言えば、話しながら、冷静にいなければと感情が思っているのに、涙が出てきた。
「だから…さ、今、また…近くに…心を許している友人がいるっていう感覚が…俺にとっては心強くて…生きてると自覚できる場所だなって…今、初めて俺は俺でよかったなって…すごく遠回りして恒星もいなくなってしまったけど…そう、思う」
光は片手にチョコを持ちながら、ポケットからハンカチを出して俺に渡してくれた。
自分だって涙をさっきまで流していて、また堪えているように見えるのに…。
「うん…」
光は頷いた。
そして手元のチョコを見つめたかと思ったら、おもむろに紙袋を開けて口に放り込んで、少し微笑んだ。
「恒星君…お母さんみたいだよね…何かを食べる度に思い出す…」と光は呟いた。
俺はその言葉を聞いて、人間かどうかなんて問題ではない。
光、俺にとっては君は大事な友人の一人でそして、俺が安心して何もかも打ち明けられる人なんだ。
俺達は一部の遺伝子が同じで…でも、お互い違う人間だからこそ、こうやって話して気持ちを共有できるんだ。
「君を一人にはさせないよ」そう俺は言った。
光は「ありがとう…海斗さん」と言った。
そして光はそのまま椅子の横に倒れて行った。
俺は「光?…光?」と声をかけたが、反応は薄い。
横になった腕を触ると身体から激しく熱を感じた。
…発熱している。
そこで俺はさらに光が感じているであろう絶望に気が付いて…光の横で身体の力が抜けてへなへなと床に膝をついた。
そうだ…この発熱が遺伝子の元の人間を死亡されたウイルスであれば…光の母親の対応により、回避策がない、という事実を思い出して…俺は…途方に暮れた。
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次回更新は今週の土日を予定しております。
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