45 秘密の共有 Ⅰ
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公(33歳男性)、兄の病院にあるクローンの情報を取得した。光の遺伝子の元となった人と遠縁の親戚であることが判明
以下、3年前の事件で日本戸籍を消失、偽物のパスポートで日本に入国
狭山光
前作の主人公であり、クローン研究で作られた唯一のクローン(30歳女性)で、西園寺海斗の大学の後輩
現在、ナリと一緒にかつてのアルバイト先で計画を見守っている。
成田廣重:コードネーム:ナリ
西園寺海斗の同級生(33歳男性)、かつての光の恋人、現在も光を好き。計画実行のため、コードネームをナリとした。
古川佳奈:コードネーム:ルカ
西園寺海斗の大学の後輩(3歳年下)の女性、事件後からナリが好き。計画実行のため、コードネームをルカとした。
<今までお話(要約)>
二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。
クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。
海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院の研究室にあるクローン研究情報を取得した。そこでクローン作成の遺伝子の元となった人物はウイルス感染で10歳で亡くなっており、研究では遺伝子の組換えでそれらを回避する方法でクローン作成し、その結果を監視するフェーズがあること、光の時々の発熱の原因がクローン元のウイルスであることが判明した。
さらに海斗はそのクローン元の遺伝子から男性にのみ無精子という遺伝子が引き継がれて兄と自分の身体にまで影響が及んでいることを知る。
パソコンを見ながら固まっていた俺の目の前に手がひらひらと現れた。
「かーいと?どうしたの??」
俺はびっくりして、上半身を後ろに反らした。
ルカはいつの間にか横のパソコンで作業をしていた。そして俺の反応をみて、出していた手をひっこめた。
「そんな驚かなくて…これで作業終わり!最後に精神科医のこの教授がエロサイト見てたから、そこに事前爆弾プログラムを仕込んでおいたよ」と俺を気にしつつも、ルカはすっきりした顔で言った。
俺は目の前のパソコンのデータをコピーしたUSBをそっとポケットに入れた。
「こっちも完了した」と言って、パソコンを落とした。
「じゃあ、帰ろう」
ルカはそういって二人で研究室を後にした。
****
金曜日の夜、俺は会社帰りに一人でレストラン"和風洋風"にやってきた。
レストランで食事を頂いてから、マスターに聞いた。
二人はマスターの家にいるというので、俺はそちらに向かった。
「海斗、先週はお疲れ様」
到着して、ナリから挨拶された。
「あー、うん…お疲れ様」
俺も返事をした。
玄関から中に入るときに、11月も終わりになってきて外は寒くコートを着てきたので、脱いで裏返して軽く畳んで腕にかけた。
そこにナリがやってきた。
「ルカは?」
ナリに聞かれた。
「昨日の夜から夕方まで、コンピュータウイルス起動させてデータ削除の様子を確認していたから就寝中」
その言葉でナリは口元にある髭を触って、「そっか、頑張ったな」と言い、携帯を取り出した。
俺は「どうした?」と聞いた。
「え、何ってルカにお疲れ様メール打とうと思ってただけ」
昨日も皆でグループチャットしていて、話したはずだけれども…マメだな、と思いつつ、俺は心の中でルカの言葉が浮かんだ。
-優しさが人を傷つけることもあるんだよ。
知らないっていうのは…ほんと残酷だな、と思った。
携帯を触っているナリに、俺は「あのさ、ナリ…ちょっと光と二人で話してもいいかな?」と聞いた。
ナリは手を止めて俺を見た。
「何で?」
それはそうだよな、好きな女性と男性である俺が二人きり、なんてたとえ俺が光を好きじゃないと知っていても、どうなるかわからないものな。男として至極普通の反応なのかもしれない。
俺はと言うと…父と兄のあの研究内容を見て、俺はどうしても光と二人で話したいとあれから今までずっと思っていた。
少し下を向いて、USBが入っている鞄に目を向けた。
兄は遺伝子の情報を見て、俺も同じ状況であると思っていたのだろう。
だから俺に離婚の原因が何かを聞いてきた。
そう考えれば、『海斗、お前も幸せになれよ』という兄の言葉の意味も…少し変わってくる。
この家に生まれて、子を成して家を大きくするということが使命だとすれば、この状況は…未来は限りなく暗いのだ。
だから兄はフォルダにカギをかけて隠したんだ。
恐らくであるが…この内容を…光は知っている。
この遺伝子を元にして、男性から女性にしたなら、兄と俺のような遺伝子の件は何も問題ないはずだ。
ウイルス感染も女性になったことで解決方法があるわけで…さらにナリという元恋人も近くにいる。
いまだに光は好きなわけで、そこで…ずっと疑問だった、なぜナリと恋人になれないのか…この問いにまた戻ってきた。
俺はそんなことをこの一週間弱、考えていた。
どこまで知っていて、光は何を考えているのか…それを知りたい。
もし光の何かに絡んでいるなら…光はルカにもナリにも言いたくないことな気がして、俺は一人で光と話したいと思った。
だから、一切疑問を持たせないように、ナリには欠片もこの情報を渡してはいけない。
俺は片方の手で持っていた鞄を下に置き、部屋の中に入って少し汗ばんだ前髪をかき上げて聞いた。
「何?ナリ、ヤキモチ?先日は邪魔して悪かったけど…それで…どうなったの?」
ナリは一歩、足を後ろに引いた。
「お前…それ、今、聞くか!?…近づいたように見えるかもしれないけどな、…別れてからの態度とほぼ変わらないよ」
言いながらナリは目に見えて落ち込んでいった。
光はナリの態度が元に戻っても、ほぼ変わらず…か。
ナリの気持ちを俺は声に出して言った。
「そうか、だから俺が光に近づくのが心配だってことだな」
ナリは「…悪いか」と呟いた。
不貞腐れるナリに向かって「光に1メートル以上近づかないから安心して」と俺は言った。
その言葉を聞いても、納得しないナリは粘って聞いた。
「そうだとしても、二人だけで話す必要があるか?」
なかなか二人きりで話すことに許可を出さないナリに対して、俺はナリの苦手なことを逆手に、話をした。
「…そうだな。これから光と次の作戦を練ろうと思っているのだけど、その後、変更があったとして、ナリはそれを忘れずに確実にそして柔軟に対応できるかな?」
案の定、ナリは動揺し、「え、次の作戦…?変更する可能性あり?そうであれば……決定事項だけを聞きたい」と言った。
俺は笑顔で返した。
「そうだよな。複数回聞いたら、きっと混乱するよな、わかればよろしい」
ナリとは玄関で分かれて、俺は下に置いた鞄をまた持って、光がいるという2階に向かい、部屋をノックした。
「はい」と中から声がして、扉が開いた。
「海斗さん…」
俺の名前を光は呼び、お互い目を合わせた。
その目に少し悲しみが見えたのは気のせいだろうか。
「ちょっと二人で話してもいいかな」
俺の真剣な表情に、光は少し俯き、頷いた。
見に来てくださって、ありがとうございます。
次回更新はできれば今日の夜か、来週の土日を予定しております。
よろしくお願いします✨




