40 悪天候の中でⅠ
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公(33歳男性)、兄の病院にあるクローンの情報を取得するため、古川さんと一緒に同居を始める。
大野風花 結婚後苗字:佐藤(変わったにもかかわらず、主人公の脳内では結婚前の苗字で呼んでいる。)
海斗の大学時代の後輩(3歳年下-30歳)の女性、海斗の紹介で出会った大学同級生と二年前に結婚&地元である北海道に移住、子供を出産した。
<今までお話(要約)>
二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。
クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。
海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院にあるクローン研究情報を取得しようとし、クローン研究が病気で亡くなった母を救うために実施したことと、
兄がその研究実施と引き換えに家の呪縛から解き放たれていたことを知る。
計画実施のために実行した妻との離婚と、兄に報告した次の週、出張で大学時代の友人の大野さんがいる北海道に行くことになり、久々に連絡し、会おうとしていた。
次の日は雨、しかも行先の北海道は急に発達した積乱雲で気象庁から豪雨警報が発令する勢いの土砂降りの予報となった。
出張自体が厳しい状況になったが、会社からも先方からも連絡はなく、飛ばないかもしれないが俺は空港に向かい、チェックインした。そして手荷物検査場が終わったあたりで大野さんから昨日の連絡に対する返信がきた。(大野さんは結婚して佐藤に苗字が変わったため、名前で呼んでいたが、頭の中では相変わらず、大野さんと呼んでいた。)
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久しぶりです~先輩、お元気そうで何よりです!
今日、出張の予定はどうですか?こちらの天候は午後は外に出られる状況ではなさそうです。
出張で近くにいらっしゃっるのであれば、会いたいのはやまやまなのですが、会うのはまたの機会とさせてください。
ただ海斗先輩から連絡もらったせっかくの機会なので、お時間があれば、久々にお電話でお話させてもらってもいいですか?
夫も話したがっています。宜しくお願いします。
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飛行機はまだ動いているようだったが、俺も会わないほうがいいという判断としたほうが正解だと思った。
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急な連絡に返信をありがとう。
ひどい天候のようですね、そちらの地域は大丈夫ですか?
会うのは次回にして、電話で話しましょう。
何時ぐらいに電話したらいいですか?
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そう大野さんに連絡したら飛行機に乗る直前に連絡が入った。
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はい、こちらの地域は雨がひどいだけで今の所、問題はありません。
夫が帰ってくる時間を考えると、20時ぐらいなのですが、時間が読めないのでこちらから電話を掛けますね~。
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その返事に、俺は「了解です」と打って、飛行機に乗り込んだ。
あいにくの天候で飛行機はだいぶ遅れて到着し、結局、その日は予定の病院に行けずに、札幌のホテルに宿泊することになった。
ホテル内のレストランで食事を取り、自分の部屋に戻った。
時計は19時30分、シャワーを浴びて電話を待つことにした。
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ピピピピ…
時刻は20時3分、携帯が鳴った。
俺は「はい」と言って電話に出た。
「海斗先輩ですか~?こんばんは、お久しぶりです~」
電話口から明るい女性の声が聞こえた。大野さんだ。
「風花さん?こんばんは、久しぶり」
俺は声をかけた。
そこに男性の声が聞こえた。大野さんの旦那さんだろう。
「西園寺さん、ご無沙汰しています。…出産からいろいろとありがとうございました」
記憶が薄れているが、病院の紹介してほしいと連絡がきて、対応した記憶があることを思い出した。
「佐藤さん、こちらこそ、ご無沙汰しています。お気になさらずに。お子さんはもうそろそろ1歳ですか?」
「はい、そうです。…あの、妻が…風花が代わりたいというので代わりますね」と大野さんの旦那さんは言った。
近くで赤ん坊らしき声が時折、微かに聞こえる。
電話の相手が大野さんに代わったようで、しばし沈黙の後、
「…部屋を移動しました。海斗先輩…元気そうで…安心しました」
そう言って、また大野さんは少し黙った。
無理もない。
二年前に大野さんとの旅行中に光はいなくなり、それからすぐ恒星が亡くなり、葬式で会ったのが最後なのだから。
葬式ではほぼ会話しなかったから、まともに話すのは二年と少し前の彼女の結婚式ということになる。
大野さんはサークルで仲が良かったメンバーで残っているのは俺と大野さんの二人だけだと思っている。
いや、大野さん、それは違うんだ、光も、ナリも、ルカも…生きているんだ。
俺は心の中で叫んだ。
この時、だから…会わなくてよかったと、心の底から思った。
もし大野さんを目の前にしたら、俺は事の全てを話してしまっていたかもしれない。
今、こうやって電話している状態ですら、本当は大野さんに皆が生きていることを、こんなにも伝えたい気持ちになって抑えているのだから。
それでも、なんとか物理的な距離が俺を冷静にさせていた。
その時、ガタンと大きな音が窓から聞こえた。風のようだ。
窓ガラスにトントントンと雨が強く打ち付けていた。時折、風が強く吹いて、窓がガタガタと音を立てていた。
俺は呼吸を整えて、聞いた。
「…そちらの天候はどう?」
「風と雨がひどいですね……どうして今日に限って…こんな天気になって…私、先輩に会ってちゃんと話したかったです」
大野さんから俺を気遣う気持ちが伝わってきて、俺は相槌をうった。
「うん…」
「先輩のことだから、抱え込んでいそうだなって」
その一言に、大野さんには当時の俺の感情がお見通しだったのかなと感じた。




