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月にキス-IdentityCrisis Rebirth  作者: MERO


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40/70

39 食事と思い出

<この回の登場人物>

西園寺海斗(さいおんじかいと)

 この物語の主人公、兄の病院にあるクローンの情報を取得するため、古川さんと一緒に同居を始める。


古川佳奈(ふるかわかな):コードネーム:ルカ

 3年前の事件で日本戸籍を消失、偽物のパスポートで日本に入国した西園寺海斗の大学の後輩(3歳年下)の女性、計画実行のため、コードネームをルカとした。


<今までお話(要約)>

二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。

クローンとして生まれた友人の一人である(ひかり)は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。

海斗はクローン研究の実担当だった兄に接触し、病院にあるクローン研究情報を取得しようとし、クローン研究が病気で亡くなった母を救うために実施したことと、兄がその研究実施と引き換えに家の呪縛から解き放たれていたことを知る。

 俺は病院を出て、用事を済ませて、夜、ルカの同居している家に戻った。

 玄関に入って、料理の…ニンニクの香りがする。

 

 リビングに向かうと、キッチンで料理を作るルカがいた。


「海斗、お帰り~」 


「何か作ってる?」

 俺は聞いた。


「夜ごはん。…食べる?」

 フライパンの中にはステーキ肉と大量のニンニクのスライスが入っていた。


「すごいニンニクの量だね…」

 俺は返事をしつつ、これを食べたら、明日の仕事に影響ありそうだなと少し思った。


「まぁ、ニンニク好きだからたくさん入れちゃった。あ、海斗は明日、仕事か…」

 ルカも気が付いたみたいで、少ししょんぼりした。


 明日は出張でほぼ移動だから、とルカに「いただくよ」と声をかけた。

「え?大丈夫なの??」

 ルカはさっと携帯を取り出して、調べ始めた。


「とりあえず、まず、水をたくさん飲むことと、今日はお風呂長めに入って…確かここ、ミストサウナ機能ついていたような…あと…」

 

 必死に調べているルカに俺は言った。

「ありがとう、それも試してみるよ。明日は北海道に出張でほとんど移動だから…まぁ、マスクと口臭防止グッズでなんとかなる気がしてるから大丈夫」


 俺の言葉にルカは少し安心したようで「じゃあ、テーブルに並べるね」と言い、準備を始めた。

 そしてテーブルにステーキを乗せた料理とスープとご飯を置いて、二人で「いただきます」と食べ始めた。


「今日、"和風洋風"に行ってきた。」

 食べながら、ルカは話を始めた。

 俺は黙って聞いた。


 "和風洋風"は光の大学時代のアルバイト先で、そのお店のマスターはどうも2年前の事件から協力していたという話を聞いた。

 だから今回、光はその店を拠点にして行動することにしたらしい。


「マスターにさ、光とナリは別れたことを言ってないから…ナリの、光への接し方が、昔に戻ってた」

 ルカは箸を止めた。


「あのね、これは悲しいわけじゃない、よ?純粋に嬉しい。二年前の事件の前みたいな気分になったということを言いたかっただけ」

 言ってすぐにルカはまたご飯を食べ始めた。


 その姿にルカの複雑な感情が見て取れた。

 二人の変わらない姿はきっと本心で嬉しい、でも自分には向けられない言葉や表情を見ながら持て余した自分の気持ちの置き場。

 それはかつて俺が恒星と光が同居中に感じた思いときっと同じだろう。

 その上、俺はナリにたきつけた。

 ここでルカに何を言っても慰めにはならないだろう。


 そんな俺の考えを見透かしているのか、ルカは淡々と食事を食べていた。

 俺も食事が終わるまで黙っていた。

 そして食事の終わりとともにお箸を箸置きにおいて、「ごちそうさまでした、ニンニクが効いてて美味しかった」と少し笑って言った。


 ルカも「でしょう?」と言い、コップの中にたっぷり緑茶を注いでくれた。


「そういえば…知ってると思うけど、二年前に結婚して、先日、離婚したんだ」

 俺もルカに事実だけ述べた。


「それは、おめでとう、でいいのかな」

 ルカは少し心配そうな顔して、俺に聞いた。


 俺は"おめでとう"という言葉に、少しズキンと痛みを感じた。

 そうして過去の結婚を後悔しそうになっている自分に向けて、美桜さんを振り回したことを含め、自分が決めたことにもう迷わない、と心に念押しした。

 

「…そういうことになる…かもね。離婚しなかったら、光に協力できなかった、かもしれないから」

 俺は思ったことを飲み込んで、ルカに言った。 

 心の中に、美桜さんの泣き崩れた姿が浮かんだ。


 ルカはそんな俺の表情を見て、言った。

「海斗、浮かない顔だね」


 ふっと、浮かぶ、

 最後にもう少し話ができたら…でも、話してどうなることでもない…。

 感情を知られたくなくて、ルカからの目線を逸らして、言う。 

「それは…相手もいることだから…」


 ルカは「そうだよね…結婚…かぁ…そういえば、風花とは連絡とってるの?」

 唐突にルカは聞いた。


 大野風花(おおのふうか)さんは、大学のサークル繋がりの友人で、光やルカと同じ年齢の女性。

 二年前、俺が結婚する前に結婚し、それから子供が生まれて彼女の出身地の北海道に移住した。


「連絡は時々来るけど…引っ越して北海道にいるから…」

 そう言って、ルカは「明日から北海道なんでしょ?」とつかさず、突っ込む。


「そうはいってもいきなり連絡しても…困るだけだと思うんだけど…」

 俺は大野さんに自分から連絡することがないので、困惑した。

 ルカは「私の代わりに会いに行ってほしかったけど、わかった」と言い、顔の頬を膨らませた。

 

 偽国籍で日本に入国できても、本来の古川佳奈は行方不明のステータス。

 自由に自分の両親にさえ、会うことは叶わない。

 ルカの顔に、そういう状況を理解してよという思いが滲んでいた。

 

「きっと風花のことだから、うまくやってると思ってるよ。風花はマメに連絡くれて、気にかけてくれていたから、ちょっとね…気になっただけ」


 大野さんはちょっとしたことで連絡をくれる。そのおかげで今でも繋がっている。

 その連絡に甘んじて自分は連絡を取っていなかったなと思い返した。 


「…ルカの気持ちはわかった。…連絡はしてみる」

 俺が言ったら、ルカは「やったー!言ってみるもんだね」と言って喜んだ。

 その場で携帯を取り出して大野さんに向けて、チャットを打って北海道に出張する連絡と話す時間がないかを聞いた。

 ルカはその姿を見て、また空いたコップにお茶を注いだ。


**** 


 その日の夜はルカに言われた通り、ミストサウナをつけて30分ほど浴室で過ごすこととなった。

 普段、シャワーで短時間で済ますので、こんなにゆっくりと浴室で過ごすのは多分、二年ぶりだと思う。

 

 確か、酔って恒星の家で酔いがある程度、()めた後に入れと言われた日以来。

 少し緩いぐらいのお風呂でゆっくりと入った記憶がある。


 体を洗って俺は浴槽に腰かけた。

 今日の兄の話を思い出す。


 父がクローン研究をしていた理由が病気の母を救いたかったという点と、俺は母に似て、父から大事にされていた、らしいこと。

 兄はそんな父の俺に対する対応により、嫉妬して俺を病院に閉じ込めて薬漬けにしたこと。


 どちらも信じられない話だった。

 そう言われたからって、過去の事実は消せないし、俺の中でも消えない出来事だった。

 兄の笑顔は自分勝手な姿に見えた。自分だけ、西園寺家のゲームから抜けて、吹っ切れた姿、そういう風に自分の目には映った。


-できる限り、協力するよ

 きっと兄の言葉には嘘はないんだろう。俺は全てが終わるまであの家に対する憎悪を閉じ込めて、冷静に対応しようと思った。 


 そうして気持ちを切り替えるようと、大きく、息をふぅと吐いた。

 そこで思い出したのは、美桜さんと過ごした日々のことだった。

 先ほどのルカの料理を食べて、こういう生活をしていたなと思い出したんだ。


 美桜さんはいつも花を玄関に置いて、バランスの良い和食をよく作ってくれたな。

 食事中に話すことは少なかった。もっと些細なことでも話せばよかったな。


-食事は元気の基本です

-誰かと一緒に食べると思っているより食が進みますよ、だから何かあったら一人で食べない

 恒星の言葉が(よみがえ)る。

 俺は彼女の作る料理に、心と体を守ってもらっていたんだな。


 目を閉じた真っ暗な静寂の中、俺は今更、痛感した。

見に来てくださって、ありがとうございます。

次回更新は来週の土日を予定しております。

よろしくお願いします✨


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