38 父似と母似
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公、兄の病院にあるクローンの情報を取得するため、古川さんと一緒に同居を始める。
古川佳奈:コードネーム:ルカ
3年前の事件で日本戸籍を消失、偽物のパスポートで日本に入国した西園寺海斗の大学の後輩(3歳年下)の女性、計画実行のため、コードネームをルカとした。
西園寺一斗
海斗の10歳年上の兄、祖父の病院の院長を務める。
その昔、海斗を薬漬けにした張本人。病院で祖父から父に引き継がれたクローン研究を実施した。
ルカには「二人には秘密にしてほしい」と何度も念を押された。
俺はルカが泣き疲れて寝るまで、ルカの部屋で椅子に座って見守った。就寝が遅くなり、次の日の予定を変更した。
そして次の日曜日の午後、本来、午前中だった予定を変更して俺は一人で兄に離婚の成立を報告をするため、病院に向かった。
俺は前回と同じく院長室に行ったが、兄は不在のため、院長室のソファで兄を待った。
「海斗、待たせたな」
スーツに白衣を着て、兄は現れた。
俺はソファから立ち上がった。
「お得意さんの手術があってね、客商売だから…挨拶してきた」
そういって兄は来ていた白衣を脱いで、院長の椅子に座った。
俺は兄に会釈をして、立ったまま言った。
「何度も時間を頂戴しまして…ありがとうございます。先日、妻と離婚が成立しましたので、ご報告しに来ました。これで話すことはありませんので失礼します」
そのままドアの方向に向かおうとした瞬間、兄は「…まぁ、座れよ」と言った。
俺は兄の方を向いた。
「父はお前には甘いな…」
そういって椅子に寄り掛かった。
あの人?父のことか?
「お前だって、何度も聞いただろう。『西園寺家に生まれたなら、家を大きくするため、子孫を残せ』と。離婚を認めるということは、その目的から離れるわけだからな」
そう言って、兄は椅子から立ち上がり、俺の近くまで来て、肩を押して「座れよ」と言って、俺をソファに座らせた。
兄は反対側に回り、向かいのソファに座った。
俺をじっと見て、兄は言った。
「俺には厳しかったよ、勉強も家のしつけも、何一つ自由にすることはできなかった」
俺は無言で兄から目を逸らした。
比較なんかできるものか…今更そんな話をされても…
「その昔、お前に嫉妬していたんだよ」
そして続けた。
「だからお前を病院に閉じ込めた時、綺麗な人形にしたかったんだ」
兄の言葉に、俺はソファから立とうとした。そこに兄は「なぜか、わかるか?」と聞いた。
立ち上がりかけて、横向きの状態から、ゆっくりと兄に視線を移して、睨みつけた。
「…何を言いたいのか理解できませんが…」
俺の威嚇に兄は全く動じずに言った。
「父はちょうどその頃、祖父からあのクローン技術の研究を引き継いたんだ。そして、病気の母親の身体を作ろうとしたんだよ」
「!?」
俺の驚いた様子に、兄は俺に手のひらでソファに向けて、どうぞと合図した。
俺はしぶしぶ腰をソファに落とした。
「私は父似、海斗、お前は母似、あの人は母が大好きなんだよ。だから、お前が生まれて、母親に似て育つお前をみて、大層、可愛がっていたんだ。もっともお前は子供だったから気が付かなかったかもしれないけどな」
俺は…兄の言葉を疑った。
父が母を好き?
母が病気になった時に、他の女性に走った父が?
俺が考えている最中に、兄は「俺はお前が生まれてから疎外感で一杯だったんだ」と言った。
それを今、俺に伝えて、何が言いたい?
俺は兄に確認するために聞いた。
「それで?」
「あの研究自体、莫大な費用もかかるし、倫理の問題と実現不可能だと思って、私は反対だった…だけどな、父が提案してきたんだよ。この研究を実施したら、もう私のやることに口を挟まないと」
-そのクローン研究と引換えに俺はその役目から外してもらったんだ
確かに前回、兄はそう言っていた。
「それで私はお前に対する嫉妬からようやく解放されたんだ」
兄は穏やかに笑みを浮かべながら、俺に言った。
「どんな理由か知らないが、離婚できてよかったな。海斗、お前も幸せになれよ」
そう言われて、俺は兄としっかりと視線を合わせた。
兄は満足そうな顔をしている。
そんなことを言うために?
そこで部屋をトントンとノックする音がした。
「はい?」と兄が答えた。
そこに扉が急に開いて「お父さん~」と急に小学生ぐらいの子供が飛び込んできた。
「和也、まだお客さんがいるよ」
兄の近くに子供は近寄った。
続けて女性が入ってきて「ごめんなさい、もう約束の時間が過ぎたからいいかと思ってしまったみたいで…」
「あぁ、紹介がまだだったな」
「息子の和也だ、小学3年生で、こちらは妻の百合だ。結婚式で会ったことがあると思うが…」
二人が俺にお辞儀をする。合わせて俺もお辞儀をした。
兄の奥さんには、兄の結婚式に招待されてそこで一度挨拶している。
その印象から変わらず、兄と顔立ちが似ていて、はっきりとした顔、背格好が小さく、細身の女性だった。
「和也は会うのは初めてだと思うよ、父さんの弟の海斗さんだよ」
兄が言うと、息子が「こんにちは」と元気よく挨拶した。
息子の和也は髪の色が栗色で目は一重の顔立ちで身体が細い兄と奥さんとは異なり、大分、大柄で印象的だった。
俺が息子をじっと見ていると、兄が寄ってきて耳元で「陸斗と義理母には気をつけろよ」と呟いた。
俺は兄を見返した。兄はすぐに振り返ったので表情はわからなかった。子供に話しかけている。
後妻と、その息子で俺の弟、陸斗。
結婚してからできる限り、会わないようにしていたので今、彼らの状況は全くわからない。
陸斗は西園寺家にきてから、ずっと俺を敵視していたから、もし兄の話が本当ならば…確かに気を付けなければならない。
そう俺は頭の中で注意を促した。
楽しそうに会話する兄と家族はこの後、家族で用事があるとのことなので、俺は早々にその場を去った。
帰り際、兄は「わざわざありがとう、できる限り、協力するよ」と俺に言った。
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次回更新は明日か明後日を予定しております。
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