37 深夜の告白
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公、兄の病院にあるクローンの情報を取得するため、古川さんと一緒に同居を始める。
古川佳奈:コードネーム:ルカ
3年前の事件で日本戸籍を消失、偽物のパスポートで日本に入国した西園寺海斗の大学の後輩(3歳年下)の女性、計画実行のため、コードネームをルカとした。
平日の疲れもあり、10時過ぎに俺は就寝した。
夜中1時に、目が覚めて水を飲みにリビングに行った。
目の前の引き戸から少し光が漏れていた。
この日、"ルカ"と呼ぶように言った古川さんはまだ、起きてる?
俺は引き戸をトントンと叩いた。
中から声がした。
「何?」
「起きてるの?…ルカ…」
俺は明日からと言われたことを思い出して、古川さんからコードネームの"ルカ"に変えて声をかけた。
「起きてるよ、寝れないよ、時差ボケしてるし。」
そういうことか、ただ気になって、いちおう、確認のため、俺は聞いた。
「あのさ…ちょっと話しても大丈夫?」
「…心配しなくても、大丈夫だよ」
ルカは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声が聞こえた。
「そう、ならいいけど」
俺は自分の部屋に戻ろうとしたその時、だった。
引き戸の扉が開いて、"ルカ"が出てきた。
「やっぱり、話をしたい。一番最初に話さないといけないこと、あった」
俺たちは、ルカの部屋で話すことになった。
ルカはベットの上に体育座りをして、俺はリビングからもってきた椅子に座った。
「海斗…その、ありがとう」
俺は古川さんからもらった手紙を思い出した。
-私にありがとうと言う機会をください。
過去を悔やまないと決めたが、俺はここまでの流れに何も言えずに、黙り込んだ。
「…」
「…そのパーカー、恒星くんの?」
ルカは俺が来ていた部屋着を指して言った。
「あぁ」
恒星が亡くなって、オーバーサイズであるが形見に洋服を俺はいくつかもらった。
そのうちの一つを着ていた。
「…海斗に言うのは酷なことかもしれないけど、好きな人がいる、というだけで幸せだと思わない?」
ルカは掛けていた掛布団の上から、顔を膝に当てて言った。
俺は今はいない恒星を思い出し、ぼんやりと考えた。
かつての自分は恒星に"会わなかったらよかった"と"会ってよかった"、と相反する想いを何度も繰り返していた。
今、俺にとって恒星との出会いと好きになったことは、俺の一部だ。
その経験なしで自分を語ることはできない、と感じている。
俺はそれが"幸せ"かどうかはわからなかったが、思ったままの気持ちを話した。
「…無くても生きていけるんだろうけども、あればきっと気持ちの拠り所にはなると思う」
ルカは頷いた。
「海斗、私ね、好きな人がいるんだ。私はその人に会えたから…その人の笑顔のために前に進もうと思える」
俺は黙って、ルカが話すのを聞いた。
「あの事件が起きなかったら、私はきっと…自分の気持ちに気が付かなかったと思う」
ルカは俺から目を逸らして言った。
俺は神の前で誓ったことを思い浮かべた。
-1.今までの出来事、起きてしまった事象の償いはもうしない。
-2.過去を悔やんで自分の命を捧げるようなことはしない。
あの出来事は不幸だったけれども、全てなかったことにはしてほしくないし、それを悔いてはほしくない。
それを悔いて死を選んでほしくない ーそのようなことが古川さんの手紙には確か書いてあったはずだ。
「…だから、誓わせたのか?」
俺は聞いた。
「それだけではないけど…まぁ、だいたいそう……だから、ありがとうと言わせてほしいの。私に恋愛としてね…人を好きになる感情を教えてくれてありがとうって」
そこまで聞いて、俺も言った。
「…そういうことであれば…俺も…ありがとう。俺は…それぞれに皆、想いを抱えているとも知らずに、ずっと恒星が亡くなって、自分で自分を絶望に追いやってた」
ルカは俺のほうに顔を向けたので、俺はルカと目を合わせて言った。
「効いたよ、『死にたがり屋のナルシスト』」
ルカは真剣な表情で俺を見ていたが、俺は少し笑った。
「確かにもう恒星はいない。でも、ここにはいる」
俺は胸に手を当てて言った。
心の中で恒星に誓ったんだ
"自分自身で居場所をみつける"って。
「…手紙で…俺は決意したんだ。…今までの全部…含めて受け入れて生きていくって。だから、命の恩人だよ…ありがとう」
ルカは俺を見て、涙を流した。
「そっか…海斗…私、もう1個、お願いしてもいい?海斗は困るかもしれないけど…聞いてほしいことがある」
俺は静かに頷いた。それを見て、ルカは言った。
「あのね…私、ナリが好きなの」
俺はその告白にさほど衝撃は受けなかった。
先ほどのルカの『それが一番困る…人の気も知らないで…』『優しさが人を傷つけることもあるんだよ』という言葉から薄々、俺は気が付いていた。
「もちろん…光も好きだよ。…そしてナリが光を好きなのも知ってるし…それも含めて好き」
涙を流したまま、目を真っ赤にしてもなお、ルカは続けた。
「あの事件から…毎日、ナリと話してた。ナリの優しさに…何かあれば守ってくれようとする強さに…愛しさを感じて、いつの間にか好きになってた。光とナリの気持ちはわかってる…そばにいるだけで幸せだと感じてる…」
そこまで言って、ルカは顔を下にして、嗚咽を出して泣いた。
ナリの優しさは、万人に向けた優しさでルカのほしい種類の優しさではないのだ。
だからルカは困るのだ。ナリの優しさを感じる度にもしかしたら苦しさを感じているのかもしれない。
「だから…優しさが人を傷つけると言ったんだね…」
俺はルカに向けて言った。
ルカは下を向いたまま、掠れた声で言った。
「…苦しい…でもこの感情があるから、私は生きていると実感してる」
俺はじっとルカを見つめた。
ルカはそんな俺に気が付いて「…こんなこと言われても…困るよね…」
ルカは気が付いていないかもしれないけれど、2年前の事件前からルカはナリが好きだったんじゃないかな。
俺はそんな気がした。
ナリと光、そのペアをずっと見ていて、心に蓋をしていたのかもしれない。
事件によって距離が不用意に縮まって、気が付いたんだろうな。
そうして俺は恒星に好きだと言えなかった、その苦しさを思い出して、ルカの気持ちを想像した。
「…そんなこと、ないよ。もう恒星はいないけど、あいつと過ごした日々が俺をここまで支えてる…好きだと言えないのは苦しいよな…ここまで…よく一人で耐えたな」
俺がそう言ったら、ルカは俺に抱きついてきて、思いっきり、泣いた。
ルカの頭を俺は子供のように撫でた。
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次回更新は週末を予定しております。
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