27 人となりを知ること
その日の仕事は終わったはいえ、やらなければならないことは山積みだった。
俺は一人残って、仕事をして夜22時を回ったぐらいだった。
そろそろ終わりにするかと身体を伸ばした時、フロアの扉付近から、声がした。
「西園寺さーーん」
この声は丸山?
声の主は近づいてきた。
俺は振り返り、自分の席から後ろにある丸山の自席を見ると、確かに鞄が置いてある。
「丸山…。あれ?まだ帰ってなかったんだ?」
俺は丸山に声をかけた。
「いや…お昼に部長に捕まって…申請コード一覧の内容確認を賜りました…。確認終わって、情報システム部門に報告しに行ったところです」
それで急いで戻って作業をしたのか。俺は労いの意味で「お疲れ様」と言った。
「いやいや、西園寺さんこそ、こんな時間までお疲れ様です」
丸山からも返ってきた。そしてそのままこちらに向かっていそいそと自分の席に戻る丸山に俺は声をかけた。
「丸山、食事は?」
「いや、してないです」
確かに申請コード、まぁまぁ数があったからな。それぐらいかかるよな。
せっかく対応してくれた丸山に俺は食事を誘った。
「そうか…それは…俺ももう上がるからどっか…食べにいく?」
丸山は鞄を手に俺の方を向いて言った。
「ほんとですか…はい、お願いします!!」
*****
「乾杯」
お互いビールのグラスを軽くあてた。
「ビールが美味しいです」
丸山はごくごくと飲んで感想を言った。
俺は飲む前に丸山にお礼を言わなければと忘年会の幹事を引き受けてくれたことの感謝を伝えた。
「あー…水戸にも言ったけど、忘年会の幹事、ありがとな」
丸山は「幹事は全然。まさか水戸さんと一緒にやるとは思わなかったですけど…」と言った。
まぁ、そうだよな。俺だって…直前まで考えてたよ。
「それで…どう?」
俺は丸山に聞いた。
丸山はガッツポーズを取った。
「大丈夫です。西園寺さんの"それぞれ意見は違うからこそ、良いものが生まれると思う"という言葉、確かにそうだと思っているので。それにしても、ひどいっすよね。薬事部。部長変わってあんな風に圧力かけてくるようになったんですね…」
丸山は2年前に薬事部の部長が変わった話を持ち出した。
俺は唇を歯で噛んだ。
それは自殺した恒星が会社から薬物を持ち出したかどうかの嫌疑がかかったことで発生したことだった。
結局、恒星は薬物を持ち出していなかったが、そういう疑惑を持たれることに会社は危機感を持って、部長を変えたのだ。
今回、もし薬事部に恒星がいたら…あの交代さえなかったら、こんなことにはなってなかっただろうと思ってる。
俺はビールでそのもやもやを飲み込んだ。
「…薬事部もさ、守るものがあるんだよ。守るためには、そういうやり方しかできない人もいるんだ」
今回の発端は水戸が書いた情報を元に発生した事象で、俺に薬事部をどうこう言う権利はない。
開発部の地盤を固めるためにも、嘘をつく俺を…丸山、許してくれと俺は心の中で思った。
そして俺は話を変えた。
「…そういやさ、丸山とよく話すようになったのも、あれから、だな」
「"西園寺さんがなぜ営業の企画するイベントに毎回出席しているのか"、ですね。…狭山さんが西園寺さんなら答えてくれるよって言われて」
そうだった。
光が繋げてくれたんだ。俺は頷いて聞いていた。
「"自分という運命から逃れられないなら、存分に利用すればいいと思ってる"って西園寺さんの意見には驚きましたけどね。…私はこれからも西園寺さんについていきますよ」
俺は丸山に微笑みながら言った。
「ありがとう」
俺のことを見てくれる人がいる。
そして俺は周囲の人に少しずつ、自分を見せていっているんだな。
それは丸山も…水戸もきっと同じなんだろうな、それは俺が今日の件で感じたことだ。
『同じ遺伝子であっても、それぞれ違う心なんだと思うんです…』
光の言葉が脳裏に浮かぶ。同じ遺伝子であっても…か。
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一杯飲んで、食事を取って丸山とは別れた。
俺は電車に乗りながら、個人携帯をチェックした。
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西園寺さん
今週の金曜日に飲みながら話してもいいですか?
※金曜日であれば、今月は来週か、再来週でも可です。
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田辺さんから返信がきていた。
俺は美桜さんに連絡した。
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美桜さん、こんばんは。
遅くに連絡となってしまって、すみません。
今週か、来週か、再来週の金曜日であれば調整可能ということです。
飲みながら話したいということですが、予定はいかがでしょうか。
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2~3駅過ぎて電車から降りること、ちょうど美桜さんから連絡が来た。
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海斗さん、こんばんは。
予定があります、と言いたいところですがいずれも調整可能です。
今週の金曜日、飲みながらで問題ありません。
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その返信と場所を田辺さんに任せて、俺は駅から自宅に向かって歩き出した。




