24 交流、再び
俺は会社近くで食事をして、自宅に帰ってきた。
ネクタイを外し、ボタンを上から2つ外した。
そしてネクタイと置いていた鞄とスーツの上着をクローゼットに入れて、ベットに腰かけた。
会社での仕事、そして田辺さんからのお願い事項につい大きく、息を吐いた。
両ひざにそれぞれ肘を乗せて、両手を握り、俺は下を向いた。
美桜さん…連絡するべきかどうか…俺は考えて、俺は決めた。
連絡して、もし嫌がられたら、田辺さんに断ればいい。
SMSツールのチャットに文章を打った。
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こんばんは。
昨日、会いましたが、お変わりありませんか?
私は今日から会社に復帰しました。
今日、連絡しました理由は1つで、折り入って美桜さんにお願いしたいことがあります。
今の状況でお願いするのは好ましくないことは承知の上、連絡しています。
同僚からどうしても弁護士事務所を紹介してほしいとお願いされました。
内容は詳しく聞いていないため、私とその同僚と美桜さんの三人で一度、話す機会をもらえたらと思っています。
もし美桜さんが私ともう関わり合いたくないというのであれば、この話は断るので美桜さんの気持ちを教えてください。
よろしくお願いします。
海斗
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俺は送信ボタンを押して、携帯をベットに置いた。
ふうと息をまた吐いた。
もう何も考えずにシャワーを浴びようとベットから立ったその時、携帯が震えた。
俺は携帯を見るか見ないか…考えて、早めにわかったほうがいいと携帯を開いてチャットを確認した。
美桜さんから返事が来た。
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海斗さん、こんばんは。
わかりました。
私のほうは予定が合えば構いませんので、日程の候補をいくつかいただけますか。
時間も空けずに連絡が来るとは思っていませんでしたが、あまりお気になさらず、連絡していただいて問題ないですよ。
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俺はホッとした半面、複雑な気持ちになった。
美桜さん…俺は…君に頼りっぱなしだ。
こんな状態になってまで、俺の言うことを受け入れてくれなくてもいいはずなのに…。
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美桜さん、ありがとう。
また連絡します。
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そう打って送信した。
美桜さんからすぐに了解です!の判子が押されて戻ってきた。
田辺さんの復旧作業が一段落したら、確認を取ろうと俺はまた立ち上がってシャワーに向かった。
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次の日、出社して朝一で薬事部と開発部、そして情報システム部の状況を確認する打ち合わせが設定された。
薬事部の部長が情報システム部門に進捗状況を聞いた。
田辺さんが代表して、説明することになったようで、プロジェクターを使って状況の説明を始めた。
「前の画面に映っていますのが、今回のアップデートの内容です。右から左の線が時系列を表し、その各タイミングにやることをリスト化して記載しています。今回、起きた事象はアップデートの一番最初のタイミング実施するバックアップにて発生しました」
「バックアップはシステムごとに実施することとしていまして、今回、実施しましたプラットフォームは新・旧ともう一つ、その前に作られた大昔のものが存在していました。今までの仕組み上はそれらに対してバックアップを取得していましたが、今回のアップデート内の処理においては、新・旧は実施しましたがその大昔のものに対して実行しておらず、さらに大昔の初期データは旧が作られた時点のものを適用してしまったため、一部分のデータが最新化されない状態で反映されたという状況でした」
田辺さんはプロジェクトのリーダーとして問題点の内容の詳細を説明した。
薬事部の部長が聞く。
「それで復旧は終わったの?」
田辺さんの表情は先ほどとは変わって、少し表情が明るくなった。
「はい。バックアップ自体は正常に動いていまして、大昔のものに対して最新データの更新が昨日、完了し、確認しました」
「影響範囲は?」
薬事部の部長は追加で質問した。
「薬事部への影響範囲は水戸さんが申請した3件で、開発部への影響は13件でした。それ以外の68件の申請が完了済のものです。皆様のお手元に関連する申請コード一覧をお配りしました。こちらで該当する申請は確認ください」
田辺さんは結果を淡々と説明した。
薬事部の部長は情報システム部門の部長に向かって、言う。
「今回の3件は変更がなかったようですが、こういうことは申請のスケジュールに大きく影響するので、見逃した原因と今後の対応策の検討はお願いしますよ?」
「わかりました。次回の部長会議でご説明させてもらいます」
情報システム部門の部長は平謝りの状態で薬事部の部長に言った。
「開発部からはないの?」
薬事部の部長は開発部へも聞いてきた。
「薬事部の業務に影響があるのはわかるけど、今回、そもそも薬事部からの報告の内容によって問題の論点がずれた気もするんだよね。情報システム部門だけの問題だけじゃないと思うから、それぞれ防止策は考えましょうかね」
開発部の部長は俺の隣で俺に目配せしながら薬事部に言った。
部長のこういう態度が俺がバックにいるんだぞと見せつけているようで、噂の元になっているんじゃないかと思って、俺は少し冷や冷やした。
部長にそんな俺の思いは届かず、薬事部はもう少し言いたいことがありそうな中、部長は会議を終わらせた。
「田辺さんとチームの皆さん、お疲れ様でした。今日の所は一旦、これで終わりでお願いします」
終了後、田辺さんが俺の隣に寄ってきて、「西園寺さん、いろいろありがとうございます」と俺に礼を言った。
「田辺さん、私はただ確認しただけなんで…その後、対応されたのは田辺さんたちじゃないですか。お疲れ様でした」と俺は伝えた。
「いや…責められてもおかしくない場面で、落ち着いて状況を伝えてもらって、さらに開発部にかん口令敷いたって聞きましたよ。システム部は部長以下、メンバーはおかげでプレッシャーなく、平常心で作業できたと思っています」
俺が部長に説明した時、薬事部のスケジュールに影響なければ、それは一時的な事象として取り扱えて解消すれば問題はないという話もあって、どこの問題であるという認識はやめようという話になった。そもそも騒いでいるのは、薬事部だけであり、薬事部はそもそも開発部のイジメの話にすり替えなければ、もっと早く事象は把握できただろうという意識が開発部内にあったこともあって、誰も何も言わなかったのだ。そして下手にプレッシャーをかけて、ここで失敗されたらそれこそ困るから、と言ったら田辺さんはどんな顔をするだろうか、と俺は思った。
それにうちの部長は、今回の件で薬事部と情報システム部に恩を売った形になったので内心喜んでいるのを感じた。それも含めて、ここは何も言わないのが得策とまで部長は考えていたのではなかろうか。温和な中に野心家の一面を持っているのだ。
それに比べて、この話の様子を見ると、田辺さんのいる情報システム部は素直な人が多いようだ。
俺はそんな内部事情を振り切るように話を変えた。
「ほんとに早く解決してよかったですね。こちらこそ、昨日、ランチで話せてよかったです」
俺は田辺さんにそう言ったら、田辺さんは気が付いて、恐る恐る俺に聞いた。
「そういえば、西園寺さん…どうなりました?」
「田辺さん、ついてますね。そちらも良い知らせですよ」
田辺さんの顔は一瞬で笑顔になった。
俺は田辺さんに日程の調整を依頼した。




