23 トラブル対応
自席で進捗の確認、遅れ部分のリスケ、メンバーの就業時間の確認、調整事項の整理と打ち合わせの設定等、細々した作業を実施していたところ、丸山が俺のデスクを囲む衝立の一部をコンコンとノックした。
「お疲れ様です、西園寺さん」
丸山はひどく落ち込んだ声だった。
俺は努めて明るく言った。
「メールと対応をありがとう、助かったよ、丸山」と言い、打ち合わせスペースに移動した。
俺と丸山は打ち合わせのテーブルを挟んで真向いの椅子に座った。
「それで水戸さんの分だけ…申請部からの問い合わせって、何があった?」
俺は丸山に聞いた。
「水戸さんの申請分だけ、申請内容に誤りがあって…薬事部から問い合わせがあったんです。よく調べたら、情報を改ざんされたらしいのです。…俺のせいじゃないかって、水戸さんには詰められるし、昨日の夕方、薬事部からは部長宛で注意が入って…開発部で何かイジメが起きてるのではないのかっていう話に発展してます」
丸山は事の一部始終を説明してくれた。
確かに、昨日の夜、就寝直前に開発部の部長からの急に呼び出しの連絡をもらったことを思い出した。それはこの件か。
部長も大事にしたくなかっただろうから、ギリギリまで連絡しなかったところなんだろうな。
「…その改ざんされたのって、いつなの?」
俺は丸山に聞いた。
「先週の金曜日です。薬事部で申請内容を確認していて、申請内容に誤りと未更新部分があると問い合わせがありまして…」
先週、金曜日か…。
俺は持ってきたパソコンを開いて、過去の申請内容にさかのぼり、月1件ずつぐらい内容を確認した。
一部の申請内容の内容がある一定時点から更新されていないものが存在していた。
どうもそれは治験が始まった年月によって、必須項目の更新がなかったり、何かおかしい状況になっているようだった。
…そういうことか。
「丸山、ありがとう。体調不良で連絡が滞って申し訳なかった。この件は俺が対応するから、業務に戻ってもらって問題ないよ」
俺はそう声をかけた。
「西園寺さん、いつもすみません」
丸山はそう言って、自席に戻って行った。
俺は会社携帯で情報システム部門の田辺さんに電話を掛けた。
「お疲れ様です。開発部の西園寺です。先ほどはどうも」
「どうしたんですか?」
俺が田辺さんに電話することなんて、ほとんどない。
だから緊急事態だと田辺さんも察したようだった。
「確認したいことがあるんですけど、今、少しいいですか?」
俺は冷静に言う。
「はい、どうぞ」
田辺さんは返事を待って、俺は続けた。
「先週、情報システム部門が実施したプラットフォームのアップデート、確か金曜日の業務後から実施されましたよね?」
「はい、それが?」
田辺さんからちょうど連絡をもらった内容だ。
これはシステムの土台となる部分の更新でデータの更新ではなかったが、更新タイミングがばっちり合うので俺はこのタイミングで更新されたと予想した。
「アップデートで一部の申請内容のデータを更新してるみたいです。今、メールで更新された部分と対象のプロジェクトコードを送信しました」
「え?」
田辺さんは電話の先で驚いた声を出した。
「研究から17年以上前から始まったプロジェクトの申請内容のみに対象に絞って、先週金曜日より前のバックアップデータと確認してほしいです。それらがある一定時期のデータに戻っているようなんです」
俺は確認してほしいことを説明し、お願いした。
「わかりました。確認したらまた連絡します」
田辺さんはそう言い、電話を切った。
それから15分後に田辺さんから連絡があり、古いデータはプラットフォーム側の情報と紐づいていたらしく、俺の想定通りの事象が発生しているという話だった。
俺は復旧までの時間とこの先の段取りについて田辺さんと認識を合わせて、部長と打ち合わせをした。
午後20時過ぎ、対応に追われた時間がなんとか終わり、俺は自動販売機に水を買いに来た。
「西園寺…さーん」
そこに丸山が走ってきた。
ハァハァと息が上がっている。
「大丈夫か」
俺は丸山に声をかけた。
「…はぁ、はい。ありがとうございました!水戸さんからの疑いも晴れて…」
丸山は先ほどの心痛な面持ちから明るくなった。
「よかったな」
俺は水を取って、丸山に言った。
「ところで、何でわかったんですか?」
丸山は俺に聞いた。
「あぁ、あれは偶然だよ。水戸さんの申請内容のプロジェクトだけ、異様に昔から始まった研究でそれを覚えてたから、過去の案件確認しただけ」
あとたまたま田辺さんとお昼に話していて、メールを確認した時に実施日時を覚えていたんだ。
敢えて、その話は省いて丸山に説明した。
「そうなんですね。いや、ほんとよかったです」
丸山は泣きそうな声で俺に言う。
田辺さんと話せて俺はよかったけど、田辺さんのチームは復旧作業で大変そうだなと俺は思った。
そこで俺も田辺さんからお願いされたこと、美桜さんのいる弁護士事務所の紹介が可能か確認しなければいけなかったと思い出して「今日はもう上がるか」と丸山に言って、俺は退社した。




