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月にキス-IdentityCrisis Rebirth  作者: MERO


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22 噂話と依頼事項

 次の日、俺は会社に出社した。

 しばらく出張続きだったので、出社は久々だった。


 駅を降りて、会社に向かう途中で同僚に声をかけられて適当に雑談し、会社に到着した。

 午前中はプロジェクトの進捗状況の確認するための打ち合わせで自分の座席に戻る時間がなく、お昼になった。


 社食で一人、席に座って昼食を食べていた。


「西園寺さん、食事、一緒にしてもいいですか?」

 声をかけてきたのは、情報システム部門の田辺さんだった。

 田辺さんの部署は開発部門の手がけるプロジェクトの情報を一元管理するシステムを作ってるチームのリーダーで、先日もシステム変更についてメールをもらったばかりだった。


「はい、いいですよ」


 手に持っていたお盆を前方の座席に置いて、田辺さんは食事を始めた。

 俺はその様子を見て、止めていた食事を再開した。


 食事がひと段落して、田辺さんは少し険しい顔で言った。

「西園寺さん、その様子だと…まだ聞いてないですかね?」


 俺は何の話?と思いながら、この表情だとあまり良い話ではなさそうだ。

 ちらっと頭に丸山のメールが浮かんだ。

 俺は知っている振りをして、聞いた。


「…水戸さんの件の話ですか?」


 田辺さんは頷いた。そして小声で「そうです。ちょっと薬事部で噂レベルで話が流れていて他の部門まで回ってます。早く鎮静化しないと大事になりそうです」と教えてくれた。


「…そうなんですね。わかりました。実はお恥ずかしい話、出張明けでまだ直接、話を聞けていないんですよ。ところで田辺さん、どうして教えてくれるんですか?」

 

 田辺さんとは頻繁にメールで連絡は取っているが、基本的に他部署でそこまで関わる頻度は高くない。

 それなのに、なぜわざわざ話にきたのか、なんらか理由があるんだろうなと思った。


 田辺さんはかけている眼鏡を直して、肘をついて両手を合わせた。

「開発部の話とあわせて、西園寺さんの噂も耳にしたので直接、聞こうかと思いまして…」


「私の…噂ですか?」

 俺は聞いた。


「開発部に西園寺さんがいる限り、どんな訴訟案件も勝訴する。なんていっても、西園寺さんの後ろには政治家だけではなく、大手弁護士事務所の関係者もいるからだって。そして開発部のメンバーはその恩恵を預かっている」


 いつも通りの、くだらない噂か。

 俺はうんざりした気分を隠して、田辺さんに確認した。


「田辺さんはそれを確認して、どうするんですか?」


「…否定しないんですか?」

 田辺さんは不思議そうに聞いた。


 田辺さんには理解されないかもしれないが、正直、小さい頃から何度となく、こういう噂話を見も知らない他人に流れて続けてきた。


 そして面と向かってその噂を確認するような人は稀ではあるが、いた。そういう人たちはだいたい噂を頼りに、俺に依頼したいことがあったから、俺は田辺さんに聞いたのだ。


「理由によりますかね。直接、噂を確認して私に何を聞きたいのですか?」

 俺はもう一度、田辺さんに聞いた。


 田辺さんは考え込んでいるように視線を下げた。

 そして少ししてから、視線を戻して俺の目を見た。


「…西園寺さんには敵わないですね…ちょっとプライベートで困っていまして…弁護士事務所、紹介してもらえませんか?」


 思った通り、田辺さんには俺に頼みたい事項があったようだ。

 それにしても…弁護士事務所か…。

 俺はもうすぐ離婚しようとしている美桜さんの顔が浮かんだ。


 別に俺じゃなくても、探せばいくらでもあるはず…例えば身近に弁護士はそもそも存在している。

 俺は先ほどの噂話を利用して、誘導することにした。


「…そうですか。先に1点、訂正させてもらいます。訴訟案件はわが社の法務部に優秀な弁護士が何人もいますので、開発部そして私は絡んでいませんよ。…そして田辺さんの年次なら、法務部に一人ぐらいは同期いますよね?そこから辿っても…紹介してもらえるのではありませんか?」

 

 わざわざ同期でもない、仕事上で絡みがあるぐらいの俺に言わなくても、…と、俺は田辺さんに伝えた。


「確かに…そう、なんですが…同期にプライベートを晒したくない。距離が近くも遠くもなく、信頼できる人にお願いしたい。そういう点で西園寺さんに頼むことが適任だと判断しました」

 

 田辺さんなりの理論で、俺になったんだと理解した。

 プライベートを晒したくないって、どういう事情なんだろうか。


 田辺さんはさらに続けた。

「開発部のメンバーは恩恵を預かっている、という話を聞いて…。それは…本当ですよね?」

 田辺さんは困った顔をして、「どうしても…負けられなくて…」と呟いた。


 俺は田辺さんはどうも切羽詰まった状況で困っていると感じて、つい言ってしまった。

「相談される内容によりますが、自分にできることは協力したいと思っています。…開発部のメンバーに限らずとも」

 

「つまり…私の相談事項にはご協力いただけると思っていいですか?」

 田辺さんの顔が少し綻んだ。


「…いちおう聞いてみますが、期待はしないでください」

 

 そうして田辺さんの個人携帯の連絡先を交換して、昼休みを終わらせて部署に戻った。

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