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月にキス-IdentityCrisis Rebirth  作者: MERO


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21 見えない本心

「いつも気を遣っているのは、…海斗さんですよ。それで何を私に伝えてくださるんですか?」

 美桜さんは少し微笑んだ。


 美桜さんは会った時から本当に変わらない。

 冷静で、落ち着いている。


「俺、美桜さんにすごく感謝しているんだ。今まで、ありがとう」

 まず感謝を伝えた。


 美桜さんは頷いて「…はい」と返事した。


 そして俺は正直に思っていたことを伝えた。

「結婚から今まで、美桜さんはずっと支えてくれた。結婚当初、…大事な、本当に大事な友人を失ったばかりで、一人になりたいと言った時に何も言わずにいてくれたおかげで…俺は心を壊さずに、ここまで来れた。…本当に感謝してもしきれないぐらい、ありがとうと言いたい」


 俺はバックから1枚の封筒を取り出し、その封用を開けて用紙を取り出してテーブルに出した。

「…これ、ニューヨークに行く前に検査した結果。もう美桜さんを縛り付けたくない。美桜さんに幸せになってほしいんだ」


 そういって、男性不妊症(染色体異常)と書かれた結果を美桜さんに渡した。

 美桜さんはその用紙を見た。


「…海斗さん、もう決めてますよね?」

 美桜さんは静かに俺に聞いた。


「え?」

 決めている、と言われて、少し俺は驚いて声を出した。


 美桜さんは言い方を変えて説明してくれた。

「私が何を言おうとも…離婚する気持ちは変わらないですよね?」

 

 俺は気持ちが見透かされてる?と思った。

 美桜さんが言う通り、この結果だけじゃない、これからやろうとすることを考えたら…君を、巻き込みたくない。

 だからどういう流れになろうと俺の決意は変わらない。

 でも…それは言えない。


「…」

 俺はそのまま何も言えずに、下を向いた。


「そう…感じたから。それであれば…何も言うことは…ありません」

 離婚を決意し、どのような状況でも変わることはない、そう思うから言わないと、美桜さんは言った。

 もし、決まっていなかったら?俺は美桜さんの心中を察することはできなかった。


「海斗さんも…幸せになってくださいね」

 美桜さんは俺を見て、はにかんで言った。


 何で美桜さんは俺に何も言わないんだろう、そしてこんな俺に優しいんだろう。

 疑問に思ったが、全く美桜さんの意図は読み取れなかった。

 

「こちらの半分は海斗さんが書いてください。書いたら報告して提出しましょう」 

 美桜さんは”離婚届”を俺に渡してくれた。


「引っ越しとか、細かいことはまた後日相談させてください」

 そういって美桜さんは俺を結婚前から住んでいたマンションまで送ってくれた。


「おやすみなさい、海斗さん」

 美桜さんは窓を開けて、俺に言った。

 先ほどまでの笑顔とは違い、美桜さんは少し寂しそうな顔をしていた。


「送ってくれてありがとう。気を付けて、美桜さん。おやすみなさい」

 俺はそう言い、車がマンションから離れるまで見送った。


 俺は自宅に着いて、出張の片づけを適当に行い、シャワーを浴びた。 

 ザーーーというお湯の音を聞きながら、美桜さんの帰り際の寂しそうな顔が浮かんだ。


 あれは…美桜さんの気持ち?

 そうであれば何か言うのでは…だから気のせいだろう、と俺は考えなおした。


 そしてベットに倒れこんで、深く眠りについた。


----

 

 俺はニューヨークに到着した日のように、夢をみた。

 それは美桜さんと初めて会った日の食事会の様子だった。


「海斗君、うちの美桜をよろしく頼むよ。」

 美桜さんの父親にそう声をかけられた。


「美桜ちゃんはね、しっかりしていて芯が強い自慢の娘なの」

 今度は美桜さんの母親が言い、父親も「自慢の娘に、いつまでにいてほしかったよ」と付け加えた。そのまま父親は美桜さんにウインクをして、「今からでも止めることは可能だよ」と冗談めかして言った。


 その言葉に美桜さんは「お父さんもお母さんも気持ちが早すぎますよ。まだ結婚までに時間はありますから。…止めませんよ」と両親に向けて話している。


「海斗君はもう就職したんだね、美桜はね、大学の法学部で法律を学んでいるんだよ」

 父親は娘を紹介したくてしょうがないというような感じで俺に話した。


 俺はその言葉に「へぇ、そうなんですね」と返した。

 その返事をした後に、何か話をしなければ…と思って、俺は咄嗟に「何で法学部で法律を学ぶことにしたんですか?」と尋ねた。


 美桜さんは少しびっくりした顔をした。

 何か俺、変なことを言ったかな?と自分の言葉を反芻しているうちに、美桜さんが言った。


「…何か専門知識を身につけて、自分で自分を養うぐらいには働きたいのです。……もっとも当初の理由はすごく不純で、立派な志を持った方を見まして、その人に近づきたいと思って…親から独り立ちできる職業を…と思いまして選択しました」


 俺は夢の中にいながら、これは夢だなと自覚し、あぁ、そんなことを言っていたと思い出して、また深い眠りについた。

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