19 仲間
光と話した後、俺は病院から退院したこととして、早速、チケットを手配して、翌日の午前にアメリカから日本に戻ることになった。
ナリに空港まで車で送ってもらうことになり、俺は準備をして車に乗り込んだ。
「ナリ、よろしく」
俺はナリに挨拶した。
「お送りしますよ、王子様。ずっとあのお城に閉じ込めてやろうと思ってたのに」
ナリは笑いながら、俺に言った。
「それ、ラプンツェルのこと?王子様は助けてくれる側じゃなかった?」
俺はよくわからないナリの話にあわせて、童話を思い浮かべて言った。
「自覚ないんだな…そうだよ。光はずっとお前に会う機会を待ってたんだからな」
ナリは運転しながら、笑っていた顔から戻して、真剣に言った。
お姫様を助けてくれる、王子様。
ナリは俺をそう捉えているらしい。
俺は光の言葉をもう一度、思い出して、俺は考えた。
-この先、私がどんな選択をしようとも理解してくれると思うんです。
光の言葉。
光がなぜ俺にお願いしたいのか。
それはナリと古川さんには理解されないこと、なんだろうか…。
-私が私であるっていう意味がほしい。
光は自分が自分であるという証拠が、二人に与える影響をきっと知っているんだ。
つまり…それは言い換えれば、俺に頼みたいではなくて、大事だからこそ、二人に言いたくない、ことなのかもしれない。
そう考えると…なぜ光が俺に頼んだのか、少しわかった気がする。
…俺と光の考え方が似ているからだ。
だから光はきっと光の考えを俺が理解するのではないかと考えたんだろうと思い至った。
俺は、どうナリに伝えればいい?
ナリ、きっと光に大事にされているんだよ。
-お前みたいに光もわかりやすかったな。
光はそういう姿を一切、見せないんだ。
だから、ナリはこうも俺に対して嫉妬を向けてくるんだと理解した。
ずっと俺が黙っていたら、ナリが言った。
「あー…お前が計画に承諾してくれて、…嬉しいんだけど、複雑。嫉妬、醜いな」
ナリは自分で自分を振り返ってたようだ。
「…俺も。光と恒星が一緒に暮らしてた時、光にずっと嫉妬してたよ」
ナリを見て、俺は昔の俺の話をした。
「だからさ、昨日は勢いで嫉妬はカッコ悪いって言ったけど…一緒だから。もう、光に遠慮しないで、ナリの気持ちをそのまま伝えたらいいと俺は思うよ」
俺はナリに言いたかったことを言った。
ナリは運転しながら言った。
「光から恒星の話、聞いた?」
「あぁ。それがどうした?」
「やっといつも通りの海斗に戻ったな、と思って」
そうナリは言って、笑った。
そうかもしれない。
俺はたった二週間と少し前まで生きていてもしょうがないと思ってた。
ここにきて光のおかげで、俺は恒星が取り戻してくれた俺という存在を思い出したんだ。
俺はそのままでいいって恒星にずっと肯定されてた。
恒星はずっとそう思ってたんだ。
あいつの家にいた時から…。
「光だけじゃない。ナリのさ、恒星がいたらどう言うかなっていうその言葉。けっこうパンチあったよ」
ナリは俺の諦めをふっとばしてくれたのだ。
「目が覚めたなら、よかった。俺は恒星だけじゃなくて、海斗も失うのかと思うと、言わずにはいられなかったよ」
そう言って、ナリはタバコを吸い始めた。
なんだかんだ、ナリは俺を構ってくれるんだな。
「ナリは光がいるから、俺のこと気にかけてるくれてるのか」
俺は呟いた。
「え?」
「いや、ナリはさ、大学1年2年はどうかわからないけど、3年以降は、梁さんの隣にいる光を目当てに俺の近くにいたわけでしょ?光がいなかったら、こんな風に近くなかったかもしれないなって」
大学1年はむしろ俺がナリの近くに寄って行っていたからな。
「どうかな。海斗は見た目と中身のギャップがさ、初対面から際立ってたよ、そもそも」
ナリはタバコを吐き出して、言った。
意外と俺のことをよく見てたってことか?
俺は顔に手を当てて笑った。
「西園寺の話題?」
俺は笑いを抑えてわざと話を出した。
「懐かしいな…。海斗、あの時、手が震えてたぞ」
そうか、やっぱりあの時、ナリは初対面で俺が嫌がってるのをわかってて話題を変えたのか。
そういえば…ここにきてから、ずっとナリは俺に対して、『西園寺』のからかい、してこないな。
これもナリの優しさなのか。
「それにしても、ほんとに協力いいのか、お前、家のこと…」
ナリは俺があの家を毛嫌いしていることを知っている。
「…俺も仲間に入れてよ、ナリ」
正直、自分があの家の一因であるという自覚は全くない。
兄や父親は赤の他人のように見える。
そう、だから協力した。俺にとって、あの家の何が知られようと抵抗は全くない。
それに…俺は話を聞いて疑問があるんだ。
たしかクローンの研究は事件が起きたころ、社会的な倫理観の問題で立ち消えたはずなんだ。
それなのに裏で研究が実行されていた理由はなんだ?
光は自分のことを皆が思っているような成果物ではないというその理由も含めて…俺はこの結末をきちんとこの目で確かめたい。
それが例え、どのような結果になろうとも、俺は光を一人にしないと誓ったんだ。
俺はもう見失わない。大事な友人を今度こそ守りたい。…そして恒星に救ってもらったこの身体と心を…自分自身をもう二度と粗末に扱わない。恒星が俺に対して望んでいたのは…きっと『西園寺』を意識しない俺なんだ。俺ははっきりと理解した。
…あの家にがんじがらめになって動けなくなった自分を解放し、自分自身を取り戻す。
決意を新たに、俺はナリに仲間に入れて、と言いながら、一つだけ気がかりなことがあった。
「…ところでナリ、古川さんのことなんだけど」
自分自身のことで一杯すぎて、ずっと見えていなかったが、最初の態度と彼女の手紙をみて、彼女は傷つきながらも何か思いがあることはわかった。病院にある資料を取りに行くまでの行動が一緒ということもあって、俺はナリに確認した。
「情緒不安定のこと?」
ナリは俺に普通に言う。
「そうだな、佳奈には…ちょうどアメリカ行くぐらいに俺が海斗に狙われていることを伝えて、それを知った佳奈が狙われる可能性があることを話していて事件が起きたから…人間不信に陥ったんだよ。お前の計画は無事に潰れたけどな、しばらく夜眠れなかったりして、俺と光がアメリカに到着するまでは俺が日本から…合流してから光と一緒に落ち着かせてたりしてた。最近はあんまりそんな感じもなかったけど…海斗に会って、思い出したんだろうな。それでお前に当たったというわけ」
「…そうか」
やっぱり俺のせいか。
手紙で彼女はその経験をなかったことにはしたくないと言っていたから、俺を恨んだりしているようなわけではなかったけれども…。
「佳奈は手紙書いたんだろ?」
ナリは俺に聞いてきた。
「あぁ」
俺は返事をした。
「海斗に言いたいことは書いたと話してたけど…?」
ナリは曖昧な言い方をした。
その理由は光もナリも知らないんだろうか?
古川さんが手紙で話さないでと言っていたから俺が言うべきことじゃないんだろうと思って俺は言った。
「俺は古川さんに誓ったんだ。もう後悔はしない。協力が終わっても命を絶たないって」
「それだけ?そうなんだ…佳奈は思ったことははっきり書いてるだろうから、それで良いっていうなら、それでいいんだと思うよ」
ナリは俺にそう言った。
「じゃあ、よろしくな」
そうナリが言ったとき、ちょうど空港が見えた。




