14 好きなタイプ
俺は就職したばかりで、光とナリが別れて、俺もちょうど何人目かの彼女と別れた年。
いつものメンバーである、恒星、光、ナリ、古川さん、梁さん、大野さんを誘って、夏の連休で旅行をした。
行き先は親が持つ軽井沢の別荘。
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「センパーイ。彼女と別れたって聞きましたけど?」
別荘に到着した夜、俺が部屋に入ろうとした時、梁さんから声をかけられた。
「誰から?」
俺は聞いた。
それはつい先日の話でまだ誰にも言ってないはずなのに、誰に聞いたんだろう?
「風花から」
梁さんは普通に言った。
「あ…そう、なんだ」
俺は返事して、そういえば、大野さんに別荘行く前に「彼女さん、女の子がいる泊まりの旅行に行くの嫌がってないんですか?」と聞かれたことを思い出した。
確かあの時、別れたことを話した気がすると俺は思い直した。
梁さんは俺の態度に対する意見と言いたいことを一気に話した。
「いやいや、あ、そう、なんだ?じゃないですよ?…やっとセンパイ、私の魅力に気がついてくれたんですよね?…先輩、ずっと好きでした。付き合ってください!」
「梁さん…」
俺はそこで、吹き出してしまった。
「もぉ、真剣ですよ?」
困った顔して梁さんは言う。
「はい…わかってます。いつもありがとうございます」
俺は感謝を述べた。
「違います、感謝じゃなくて!」
梁さんはそういうことじゃないと意見した。
「うん…」
頷く俺。
そして梁さん、俺と一斉に言った。
『梁さんのことは好きです。それは純粋な気持ちで俺は好意と感謝を持ってます。ただ恋人という観点では付き合えません』
いつもならここで引き下がっているはずなのだが、今回の梁さんは諦めなかった。
「いつも通りの回答…もう、私は別れるの前提で付き合っても気にしませんよ?」
梁さんはため息ついて、言う。
俺は梁さんの目を見て、話しかけた。
「ありがとう。…たとえ梁さんが良いと言っても、それは…したくないよ。…それはある意味、梁さんがとても大事な存在だから思うことなんだけど、…理解してもらえない?」
俺はこれからも梁さんと友人でいたい。
傷つけたいわけじゃない。
だから言葉は選んで伝えた。
「ありがとうってもう。…じゃあ、先輩を知りたいです。せめて先輩はどんな人が好きなのか、教えてください」
梁さんはさらに突っ込んできた。
どんな人が好きか、難しい質問だな。
1回目は告白されて何も考えずに付き合ったけれど、あの時、父親に別れさせられた。
それから俺は付き合う人の選定は慎重になっていた。
できれば違う大学がよくて、あまり接点がない人。さらに言えば、恋愛にのめり込まなそうな人。
つまり、別れることが前提の人だ。
だからどんな人が好きなのか、考えたことなどなかった。
母のように、ユーモアがあって、明るい人が良いと思ったが、それは友人にも当てはまるような気がする。
恋人として、そばにいたい人…。
ちょうどその時、恒星が部屋に向かってくる姿が見えた。
俺はふっと浮かんだ内容を言った。
「うーん、どんな人が好きか…強いていえば…俺のそのままを受け入れてくれると俺が感じられる人、かな」
「…つまり理性じゃなくて感情ってことですか?」
梁さんは困ったような表情で俺に聞いてきた。
「…そう、かな」
そう言いながら、俺は今までの彼女を浮かべてた。
どの子も見た目はタイプだったし、性格上問題があったわけじゃない。
むしろ、自分が全てをさらけ出していたかと聞かれるとそれはほとんどなかった気がする。
相手に合わせて行動していた。
恒星が向かってきて、俺と梁さんに言った。
「二人で何の話をしているんですか?」
俺の心臓はドクンと音が鳴ったように反応した。
気がついてしまった。
俺が本音で話をし、自分をさらけ出しているのは…恒星の前だけだ。
梁さんは悲しそうな声で「告白して振られた瞬間だよ」と言った。
恒星は「それは…微妙なタイミングで声かけてすみません」と申し訳なさそうに言う。
梁さんはにっこりと笑った。
「恒星くん、聞いたからにはどうなるか、わかってるよね♡」
恒星は苦笑いしながら「そうですよね、そうなりますよね…明日、テニスしたいから、寝る時間は欲しいです」と答えた。
「…あと、振った張本人は参加不可ですか?」
と俺をみて、恒星は言った。
梁さんは「いや…こうなったらとことん、先輩のことを掘り下げるんで、参加してもらいます」と言い、俺はそれ、本気?と思いながら、3人で飲み始めた。
そのうち、各部屋で休んでいたナリ、光に古川さん、それに大野さんもリビングにきて、皆で飲むことになった。
0時近くなって、俺は電池が切れそうな携帯を充電しに部屋に戻った。
部屋はナリ、恒星、俺で利用している部屋でそこに恒星も戻っていた。
「海斗さん、部屋戻ってきたんですね」
恒星はそう言ったので、俺は答えた。
「あぁ。携帯切れそうだったから」
「そういえば海斗さん、彼女と別れていたんですね」と恒星は呟いた。
俺は胸がズキンと傷んだ。
お前がそれを俺に聞く?
恒星も俺が付き合ったぐらいに、違う学部の同学年の背が低くてかわいい女の子と付き合い始めた。
俺は心を鎮めて言った。
「そうだよ。お前は順調?」
「そうだったらここにいないです」
そして、「それ聞くかな?」と恒星は言った。
順調だと思ってたからびっくりした。
そして、酔いのついでに聞いてしまった。
「…何で?」
恒星は俺を凝視し、言う。
「デリカシーなくないですか?…いつも通りに振られましたよ」
俺は自分に対する指摘と振られたの両方に驚いて声を出してしまった。
「えっ」
俺の反応に、嫌味のように恒星は言った。
「そんなに驚かなくても?せっかくなんで振られた内容も、詳しく話しましょうか?…俺にあわせて授業出てなくて、その指摘をしたら、一緒にいたいのにひどいと言われ、ちょっと連絡しなかったら愛情を疑われて、あげくにご飯を食べてほしくて食事を作っていたら太らせようとしていると怒られて、終わりました」
はぁとため息ついて、「まぁ、もう終わったことだからいいけど」と恒星は言った。
俺は頷いて、一言、言った。
「恒星らしいな」
俺がそう言ったら、恒星はこう返した。
「好きな人はだいたい彼女いるし、…だから告白してくれる子と付き合ってきましたけど、もう付き合うとかいいかなって思い始めました」
好きな人、俺のこと、か。
いつも俺が別れて、お前が別れて、なし崩し的に恒星と一緒にいるようになって、俺が次に告白されるタイミングと恒星が俺に告白するタイミングが被ってたんだ、しょうがないだろ。
そうだよ、今日の今日まで、俺は他の子でもいいかと思ってたんだ。
だから告白してきた子を優先して付き合ってた。
俺は恒星の"好きな人は…"の話を無視してフォローをした。
「まぁ、生活をきちんとすることが付き合いの大前提は、恒星の良いところだもんな、俺は大事だと思うよ」
「よく見てくれてありがとうございます。じゃあ、お互いフリーだし、そろそろ僕の告白も受け取ってもらっていいですかね?」と恒星は言い、「そういや、…僕も梁さんと一緒だった」と呟いた。
「僕は海斗さんが好きなんですよ?」
恒星は俺の前に立ち、酔って少し充血した熱っぽい目で俺は見つめられた。
「そういや、海斗さんの好きなタイプは…そのままの自分を受け止めてくれると海斗さんが感じる人、でしたっけ?」
先程の梁さんとの会話を恒星は口にした。
俺に恒星は聞いてきた。
「いるんですか?そんな人」
俺は俺に対する恒星の珍しい嫉妬に、愛しさを感じた。
目の前にいる、お前だよ、恒星。
何で気が付かないんだよ。
俺は自分が言った好きなタイプの話が恥ずかしすぎて、はぐらかした。
「どうだろうな…」
恒星はさらさらの髪を掻き上げた。
視線とその仕草に俺の心臓はドクドクドク…と高鳴りを抑えられなかった。
目の前の恒星を押し倒したい、そんな衝動に駆られた。
恒星は強く言った。
「もう、はぐらかさないでください」
俺はその言葉を聞いて、恒星を引き寄せて抱きしめた。
「海斗さん…ちゃんと答えてくださいよ…」
恒星が耳元で小さく言う。
それは無理だよ、恒星。
俺、お前を前にすると、言葉より感情が先に動いてしまう。
身体が反応してしまう。
お前がいう、ちゃんと生活をする、を俺だったら守るのに。お前に何か言われたら、自分を振り返って考えるのに。
俺は恒星が好きなんだ。
そう自覚した。
そして俺は恒星に口づけた。
恒星は俺に応えながらも苦言を呈した。
「しげさん、帰ってきますよ……」
俺は恒星に言った。
「いや…それはないな」
きっと明日までリビングだよと付け加えて、俺はお前に、こんなにも好きなんだと思い知らせたいと心の中で思った。
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恒星への気持ちを自覚したあの日を俺は忘れるわけがない。




