13 過去と未来への誓い
光と俺はそのまま遊歩道を歩き続けて、木々が生い茂り、左側には湖、右には教会のような建物がある場所にやってきた。
入り口にOPENと書かれた立て札が置かれていた。
中を除くと礼拝堂になっていた。
午前中はミサが行われているようで、自由に出入りができるようになっている。
「ここです」
そう言って、光は礼拝堂の中に入っていた。
入った先の正面に、ステンドガラスがあり、その下にキリストの彫刻、大きなテーブルと牧師がいて、聖書を朗読していた。横に電子ピアノ、そしてそこに並列に並ぶ長椅子。
中にはまばらに人がいて、椅子に座って皆、朗読を聞きながら思い思いに過ごしていた。
途中の長椅子に光は座った。
俺も隣に座った。
真正面を向きながら、牧師の聖書の読み上げを聞く。
途中で紙が配られた。聖書の一節のようだ。
そして隣の光が俺の膝に、先程、配られた紙の上に手紙を置いた。
俺は手紙の裏表を見た。
差出人は古川さんだ。
俺は手紙の封を開けて、手紙を目で読んだ。
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海斗へ
※海斗さんは合わないので、この呼び方にしました。
昨日は言い過ぎました。
本当はその場にいるのは、聖書を聞くべきなのは、私です。
あの出来事は海斗が皆を助けたくて、仕方がないことだってわかってます。
そして私はあの出来事を記憶から消したいとは思っていません。
たとえば過去に戻れるとしても、私は回避することを選ぶかわかりません。
海斗があの出来事を消化できずにいること、何が間違ってこんな状況に陥ったのか、と海斗の絶望した姿を見ると、私の経験は不要なもので、私も死の淵を彷徨うべき状況なのかと考えます。
私は苦しいけれども、全てが悪かったわけではないです。
今回、もし海斗がこれから依頼する内容に対して協力はするが、その後も自ら命を絶とうと考えるのであれば海斗への依頼を反対します。そしてもう絶対に許さないです。
神がいるこの場で、2つ、誓ってほしいです。
1.今までの出来事、起きてしまった事象の償いはもうしない。
2.過去を悔やんで自分の命を捨てるようなことはしない。
もし海斗が上記事項を誓うのであれば、私はこれから先、何があっても光とナリに加えて、海斗を守ります。
本当は昨日、確認したかったです。うまく伝えられなそうなので、手紙にしました。
私にありがとうと言う機会をください。
追伸
光は神に誓うことのみ伝えており、詳細の内容は知らないです。
光に言わないでほしいです。
佳奈より
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俺は古川さんの手紙を読んで混乱した。
つまり古川さんは起きたことを否定せず、肯定してほしいと言っている?
どういうこと、なんだ。
古川さんにとって、悔やむような過去ではなかった?
俺が悔やんだら、古川さんは経験を否定されて、そして自分も考え込んでしまう。
だから俺にもう償うな、過去を悔やむなと言うことか。
どんな出来事でどのように思ったのか、具体的なことが書かれていないからわからないが、それはこの手紙を見る限り、光は知らない内容らしい。
ここで誓わなければ、もう協力もさせないし、許さないか…。
今の段階で、判断なんて正直できない…今の俺の気持ちだった。
でも、1つだけわかった。
光も古川さんも俺に生きてほしいということ。
ーもし海斗が誓うのであれば、私はこれから先、何があっても光とナリに加えて、海斗を守ります。
俺が自分で手放したと思ってた友人たち。
皆、こんな俺を見捨てていなかった。
俺を大事な友人として認識してくれているのか。
-お前も全てを知ってから、死ぬかどうか決めても、遅くない。そうだろ?
ナリの言葉を思い出す。
"全て"知るのは、いつなんだろう。
案外、人生終わってみても、全てを知ることができない気がしてきた。
ナリはそれを見越して言ったのか?
そして、知ったその先に何があるのかわからないけど、俺はもう一人じゃない。
それだけで、俺は少しだけ、希望を見出したんだ。
ここのミサの影響か?
手元にある紙を見た。
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No temptation has seized you except what is common to man.
And God is faithful; he will not let you be tempted beyond what you can bear.
But when you are tempted, he will also provide a way out so that you can stand up under it.
(日本語訳
あなた方の会った試錬で、世の常でないものはない。神は真実である。あなた方を耐えられないような試錬に会わせることはないばかりか、試錬と同時に、それに耐えられるように、逃れる道も備えて下さるのである。)
【出典 新約聖書 1 Corinthians 10:13 / 第一コリント10:13】
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死に拘らなくてもいいのかもしれない。
俺はそう自分の考えを整理した。
そしてほんの少し勇気を出して、俺は軽く両手を組んだ。
神に誓う。
もう償いはしない。
もう過去を悔やまない。
そうして横を見ると、光は目を閉じている。
俺は光の肩をトントンと軽く触れた。
俺のもういいよという仕草をした。
光は出口を指して、出ましょうという合図をくれた。
俺と光は礼拝堂を離れた。
光は俺に聞いた。
「…誓いました?」
「あー…うん」
俺は少し恥ずかしくなって、適当な返事をした。
光は微笑んで、「よかった」と一言言った。
光は大きな湖のある方向に歩き出した。
「あの湖には鑑賞スペースあるので、そこまで行きましょう」
そう光は言った。
俺は後をついていき、湖の中心に湖に向けて小さな広場が存在した。
湖側には転落防止用の柵と手すりがついていた。
光は湖を正面に、その手すりに手を置いた。
「意外と歩きましたね?」
光は言った。
「うん、そうだね」と俺は頷いた。
光は先程の礼拝堂の様子を思い出したように言う。
「手紙、真剣に読んでましたね?」
「あぁ、そうだな」
そう、俺は頷いた。
「海斗さん…さっきから同じ返事ばかりです」と言って光はくすっと笑った。
俺も光につられて笑ってしまった。
光は湖を見ながら、言った。
「ここ、海斗さんの家の…軽井沢の別荘の景色に似ていません?」
大学の夏休みに皆で行った俺の家が持つ、軽井沢の別荘。
ベランダから湖に繋がっていて、その風景を光は言っているんだと俺は思い出す。
「言われてみれば…そうかもな」
光が思い出したその旅行は、俺にとって忘れない夏の思い出だった。




