11 追憶
次の日は肌寒い秋晴れの良い天気だった。
交流を兼ねて、郊外の公園までドライブをすることになった。
俺は白の綿シャツにニットジャケットにチノパンを履いて、首元にマフラーを巻いた。
そして洋服を着ながら、ナリから朝、渡された携帯をみた。
私物の携帯は利用せずに、この携帯を使えと言われた。
電話帳には3人の番号が登録されてた。
俺に何ができるかわからないが、俺も光と話をしたかった。
そして光の考えと状況を確認したかった。
もしあの想像が本当であれば、光は俺に何か話してくるはずだ。
俺は鏡で洋服をチェックして、小さな斜めがけバックを持って部屋を出た。
運転手はナリ。
その横に古川さん、後ろに光と俺が乗る。
俺が「おはよう」と挨拶しても古川さんから返ってくるのは、会釈だけ。
光は以前と変わらず、「おはようございます」と挨拶された。
「じゃあ、出発するからな」
ナリは車にエンジンをかけて、ラジオをつけて運転し始めた。
光は窓の外をみている。
洋服は薄青い長いワンピースの上に厚手のざっくりしたニットカーディガン
昨日、古川さんがきていた洋服と同じような気がしたが、古川さんの対応をみて、あえて話しかけるのはやめた。
そうしたらナリが言った。
「光がそのワンピース着るの久々だな」
古川さんが「気合入ってるの」と光の代わりに答えた。
「そーいや、昨日、佳奈もきてたよな。気合入れてたの?」と、ナリが古川さんに聞いた。
古川さんはナリの耳を引っ張り、
「余計なことを…」
「イタタタ。こっちは運転してんだよ、ヤメロ」とナリが言う。
「痛かった?ゴメンネ」と古川さんは全然悪くなさそうに謝った。
「佳奈は珍しく髪下ろしてどうした?」
またナリが古川さんに聞いた。
古川さんはいつもお団子にした髪を今日は確かに下ろしていた。
きれいにブローされたストレートヘア。
古川さんはしばらく黙っていた。
そうしてやっと口を開いた。
「…帽子被ろうかと思って下ろしただけ。今日に限って気が付かなくて、いいんだけど」
少し怒ってるようだ。
ナリは真面目に言った。
「そうか、いや…似合ってる、から…さ」
「だから…いいって」
古川さんはつぶやき気味に言う。
この会話中、光と俺はずっと二人の様子を後ろから見ていた。
そして光は一度、伏し目がちに目を落としてそれから窓を見ていた。
俺は思い切って、光に声をかけた。
「ドライブって、時々、行くの?」
光は俺を見て、首を横に振った。
「これが初めて…です」
俺はさらに聞いた。
「そう、なのか。光が決めたと聞いたけど」
「…森林の中で、散策しながら話したいなと思って」
どうやら光には目的があるらしい。
「そういえば、3年前ぐらいの、梁さんの法事の帰りに車で一緒に帰ったの覚えてる?」
光に俺は話しかけた。
光はすごくびっくりした顔をして、俺を見た。
「…覚えてます」
俺は懐かしい気持ちで光に言った。
「あの日、光は恒星と楽しそうに話していたよな」
光は俺が何を言いたいのかわからず、困った表情をした。
「…」
どうやら光は俺にたいしてこの話題を続けていいのか、迷っているようだった。
前の二人は話していて、こちらを全く気にしていないようだったので、俺は言った。
「もう…俺は隠さなくて、いいんだろ?」
恒星とのこと。
光も、ナリも多分、古川さんも知っているんだろ?だから俺は聞いた。
光は少し目を落として遠慮がちに頷いて、「そう、ですね」と言った。
「では、聞くけど、あの時、二人が何を話してたのか、すごく気になった」
俺は素直に言った。
これで光は話してくれるはずと思って見たら、光は少し考えながら、話し始めた。
「それは…海斗さんにとって、良いことと悪いこと一つずつ話すことになる気がするけど…聞きたい…?」
光は俺の様子を伺ったので、俺は頷いた。
恒星が何を考えていたのか、俺は周りが知っている全てを知りたいと思った。
光は俺を見て、少し微笑んで、
「じゃあ」と言って話しだした。
「恒星くんは好きな人がいて、その人をただ思っているだけで幸せだと言ってた。あと相手が離れたいと言っても、執着するタイプでずっと想ってるとも言っていた気がします」
光はゆっくりと俺に聞かせるように話した。
恒星の好きな人、それは俺を指していると光は言いたいようだ。
どのぐらい俺は恒星に好かれていたんだろうか。自分からみたら、全く自分のどこがいいのかわからないが、そんな俺に執着して、ずっと想われていたのかと今更ながら知り、胸が熱くなった。
そして光は少し間をおいて、話した。
「だから、たとえ好きな人に振られても、自分は自殺しないとも話してた」
と言った。
俺は言った。
「だから、光は恒星は自殺しないと思った?」
光は頷いた。
俺は恒星の何を見ていたんだろうか。
光はたった一言で恒星がそんなことしないと信じたのに、俺は嫉妬してばかりと自分に感じていた中、光は言った。
「海斗さんの気持ち…よくわかるから」
そこまで光は言って、だから気にしないで、と光の表情からそう思っているのが見て取れた。
「私こそ、海斗さんを理解してなかった…ずっと、心にひっかかっていて、…真理恵に対して、悲しんでいた海斗さんに何も言えなかった事」
光は消え入りそうな声で言った。
俺もよく覚えている。
梁さんが亡くなった以上に、俺はあの時、ナリに対してやったことの罪の意識に対する罪悪感でいっぱいだった。
光と会社で会うこともあったけど、あの日は車内で面と向かって光と二人きりになって、俺は光に全てを言おうかどうか悩んで、結局、何も言わずに思いが涙となって、それを見られたくなくて、光を抱きしめたのだ。
もちろん梁さんがいたらきっと状況は変わってただろう。
そういう意味で梁さんの存在に俺は救われていたと実感した日でもあった。
「あぁ、そんなこともあったな。…今更だけど、光はあの時、どう思ってたの?」
あの時、光は何も答えなかった。
だけど今なら聞けるだろうかと思って、俺は聞いた。
光は少し微笑んで言った。
「真理恵のことはもちろん悲しかった。でも真理恵は近すぎて…きっと真理恵は、入社試験行くのやめた、みたいな感じで『気にするのやめよ』と笑顔で言ってる姿しか浮かばないんですよね」
そして俺を見て、光は言った。
「それに、…あの日はナリから誰かに狙われてると知って動揺してたから」
そうか、あの日に光はナリから何らかの方法で知ったのか。
そして俺とは反対のことを考えてたってことか。
「…俺も言おうか考えて、…言えなかった」
俺は俺が巻いた種に向き合うしかないと思った。
ごめん、そんな一言で片付けられないから、言わないよ。
光が窓の外を見て言った。
「似てる、らしいです」
「え?」
俺は疑問をそのまま口にした。
光がまた窓から俺に振り返り、
「恒星くんから、言わせると、私と海斗さん、似てるって」
光は穏やかな表情で俺に告げた。




