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月にキス-IdentityCrisis Rebirth  作者: MERO


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9 お互い様

 ナリはビールを飲んで、広間のソファーにそのまま寝てしまった。


 俺はノートPCを持ってきて、USBの内容を整理し、まとめていた。


 階段から誰かが来る音がした。

 俺が振り返って階段を見ると古川さんが歩いてきた。


「あれ?ナリは?」

 そう古川さんは聞くので、俺はそこにいるけどと、ソファーに横になっているナリを教えた。


 それを見て古川さんは言う。

「はぁ。何もかけずに寝て」

 そのままナリの部屋に入って、タオルケットを持ってきた。そしてそっとナリにかけた。


 その後、俺の方を向いた。

「USBの内容、確認してるの?」


 俺に向かって言う。

 俺は古川さんを一瞬みて、PCを触る手を止めなかった。


 そうしたら、古川さんは話し始めた。

「少し話をしていい?…海斗センパイって、もう先輩じゃないか。海斗さん?うーん、なんかしっくりこない」


 俺は改めて古川さんを見た。

 古川さんは水色のヒザ下まであるワンピースのような上着の前を開けて、その下にTシャツとジーンズという格好で、L字型のソファーの端の空きスペースに座った。


「…」

 俺は黙っていた。


 古川さんはそんな俺を無視して、言った。

「明日、ドライブ行く前に、ちょっと話したくて」


 昔からそこまで古川さんと絡みもなく、だいたいナリに頼って話していた。

 だから、こうやって二人で一対一で話すのはおそらく、両手で数えるくらいだったと思う。


 その上、この2年間もあって、お互いの距離はさらに離れて、今は話したくない、そういう空気を俺は出していたと思う。でも古川さんは気にせず、俺に話しかけてきた。


「…光はあなたのことを全く疑わずに信頼していてね、私はあなたに確認したいの」

 そう古川さんは言った。


 俺のほうを向いて、古川さんは真面目な顔して、「ナリは嫌がっていたけど、正直、私もあなたに手伝ってもらうことに反対してる」と言った。


 そして俺がずっと何も言わないからか、古川さんは感情を俺にぶつけてきた。

「私とナリを殺そうとしたことに…私はあなたをまだ許していない。恒星くんのことも…身から出たサビにしかみえない。それで悲しんでいるなんて、どんだけ自分がかわいいと思ってるの」

 心にナイフで刺されたような、そんな言葉を投げつけられた。


 俺はそれでも何も言えなかった。

「…」


「光が、クローンだってわかってからの孤独を、そしてここまで来るまでの大変さをUSB1つでね、共有なんて、できるわけない…」

 そう、つぶやくように古川さんは言った。


 俺の言葉なんて、聞くつもりないと言うように、古川さんはこう宣言した。

「一人孤独を感じて死にたいとか思うの勝手だけど、それで周りを…ナリと光を傷付けることは許さないから」

 古川さんは話しながら、涙を流していた。


 ああ、そうか。

 ずっと俺は一人だと思っていた。

 でも実際は、違ったんだ。

 この2年、苦しんでいるのは俺だけ、ではなかった。


 特に古川さんは遠く離れたこの異国の地で事件が起きて、それからずっと今まで生きてきたんだ。

 言葉にすればそれは一言。

 でも、俺の2年間が絶望だったように、生きるために、模索の日々だったんだろう。


 そしてそれは、全ては俺のせいだ。

 巻き込んでしまった光、ナリ、そして古川さん…それぞれに強烈な出来事を体験させてしまったんだ。


 俺と会うまで、きっと光は二人を支えに、二人も光を支えにして過ごしてきて、誰一人、たとえ、死を考えたとしても、そういうことを言う状況ではなかったんだろうと、昨日のナリ、今日の古川さんの対応をみて、思った。


 死ばかり考えていた俺は本当に浅はかで、間抜けで、自分勝手な人間だと改めて感じた。


 そんな俺に対して、古川さんが心を開こう、なんて思うわけがない。


 俺は、何を言えばいい。


 確かに光の…研究に父親が絡んでいたが、それを知ったのはつい数年前でそれまでは俺だって、3人と同じ立場だった。まさかこんな状況になるなんて思ってみなかった、とは言えない。


 そして二年前、2人を殺さないように、仕向けていた、なんてさ、信じられるだろうか、いや信じられるわけがない。


 その上、友人だ、なんていいながら、いざ、目の前にしたら、自分の気持ちを閉ざして彼らを無視をする自分。

 そんなやつの何をどう捉えて、友人とみてもらえるんだ。


 俺は古川さんに近づいて、泣いている古川さんの背中を擦った。


 ごめん。

 こんなことになって、本当にごめん。

 俺は心の中で本気で謝った。


 そしてなんとか声を振り絞って言った。

「俺は確かに選択を間違えたのかもしれない。…ずっと全てを悔やんでる。俺は……」


「佳奈、そこらへんにしておけよ」

 いつの間にか起きたナリが言った。


「それじゃあ、確認じゃなくて、脅しだよ」


 佳奈は不機嫌な顔をして言う。

「死にたがりやのナルシストの、相手をする時間はない」


パンッ


 ナリは佳奈のほうに歩いていき、昨日の俺に対する態度と同じように、ナリは古川さんの頬を思いっきり叩いた。


「気持ちわかるけど、言い過ぎ」

 ナリはそう言った。そして「佳奈、さてはお前、昨日、研究してて寝てないだろ?」と言った。


 古川さんは小さく頷く。

「…でも、光は寝ずに調べ物してる」


「そうか。とりあえず佳奈は一階で寝よう。ほら、寝るまで横にいてやるから。あと、光の様子は後で確認するよ」


 そう言い、古川さんとナリは一階に行った。


 俺は1人広間に残された。


-死にたがりやのナルシスト


 その通り、だな。

 昨日、俺は自分自身がナリに向けて言ったことを思い出した。

 そんなことを、本当でも、口にしてはいけなかった。


 そうこう考え込んでいたら、ナリは帰ってきた。


「はい、どうぞ」

 ナリはまたビールをテーブルに置いた。

「飲みなおそーぜ」


「あぁ。」

 俺はビールに手を伸ばして、プルトップを開けて一口飲んだ。


 ナリは飲みながら話しだした。

「…光はさ、お前に計画を話さなかったこと、ずっと悔やんでる。そして海斗のことを気にしてたんだ。そして恒星を殺したのは自分だって、ずっと責めてた」


「…」

 光に俺は申し訳なく思った。

 それは俺が恒星を巻き込んだから、起きた事象で俺のせい、だ。


 ナリは俺の様子を見て、聞いた。

「お前の昨日の様子見て…この二年間、一人で悩んでたんだろ?いや…きっとずっと前から恒星にも言えずに悩んでいたんじゃないのか」


 俺は言おうか言うまいか考えた。

 ずっと閉じ込めてた気持ち。


 自分をフォローしたいわけじゃない。

 もう隠してもしょうがない。

 この距離を埋められるのか、わからないが、皆にはわかってほしかった。

 だから自分の気持ちを伝えなければならないと思って、ナリに向かって言った。

「…悩んでいたよ」


「父親から研究のことを聞いたにも関わらず、誰にも言えなかった。自分の居場所を全て失ってしまうんじゃないかと…誰一人欠けてほしいなんて思ってなかった。そうしないように行動したつもりだったのに、結果的に、ナリと古川さんを見殺しにした。その上、恒星も巻き込んだあげく、恒星にも許さないって言われて、最後は全部失った」

 情けない俺のそのままを伝えた。


「古川さんの言う通りだよ。」

 俺はため息を付いた。


 言いながら、こうやって自分を人にさらけ出すのは、初めてかもしれないと思った。


 ナリは少し間をおいて、俺に言った。

「海斗、俺も告白するよ。俺、わかってた。お前が俺を狙ってたこと。だからな、俺も共犯」


「…」

 俺は多分、驚いて言葉が出なかった。

 気がついていた?

 それでいて、ナリ、お前は罠にかかったフリをしていたってことなのか?


 俺の表情を見て、ナリは続けた。

「あの時、お前を殴っていたならな…。そうだよ、俺は全部お前に罪をなすりつけた。ズルい奴なんだよ」


 俺のやってることはバレてて、それで乗っかっていたってことだったと。

 そっか。


 ナリ、お前、いつもそうやって俺の肩からするりと背負っていた重い感情をおろしていくんだな。

 俺は顔に手を当てて、苦笑いをした。


「…これでやっとお互いスタートラインだな。再会に乾杯」

 ナリが声をかけて。二人で缶ビールで乾杯。


 そしてナリは俺を上から下まで見て、「てかさ、海斗、会った時から思ってたんだけど、痩せてんな」


「ナリ…会ったときから通常運転、容赦ないよな」

 俺はナリが昨日、俺にかけた言葉を思い出しながら言った。


 ほんとナリには…敵わない。


 ナリは俺に言葉を言いながら、精神状態を確認し、言葉をシーソーのように使い、俺の心をいつの間にか開いてしまった。

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