次の作戦!
「ま、そういうこともあるわね」
俺は家に帰ると、冒険者ギルドでの出来事をスターへ話す。
しかし、彼女は案外すんなりと話を飲み込んでいた。
「そういうものなのか?」
「ええ、品物の価格をコントロールしている連中がいたのね。そいつらは品物の価格を維持するために、供給を抑えているのよ。でも、私達のせいで、大量に抱えていた品物を放出し始めたのかもしれないわね」
「…価格が下がりきる前に、すべて売りつくそうと考えたってことか」
「ええ、それで急に下落したのだと思うわ」
「うーん…」
スターから説明を受けると、段々と事情が見えてくる。
「どうしたの?何か腑に落ちないことでもあるの?」
「いや、誰かに嫌がらせでもされたのかって思っててな」
「誰かに恨まれるようなことでもしたのかしら?」
「いや、心当たりはない」
「そう…それなら良いのだけど」
「ま、俺の被害妄想みたいなもんだ。スターの言った通りだと思うぜ」
「ええ、まぁ、それでも、そういう連中を刺激するぐらいの量を、1人で出回らせたクラッドには感心するほかないのだけれど」
「いや、俺の力じゃなくて、スターの知識のおかげだけどな。俺だけじゃ、まさか、ただの草があんな値段で売れるとは想像もできなかった」
「…言われたことをただやるだけだったとはいえ、それでも、1日15時間も薬草収集を続けてたのは凄まじいわ」
「そうか?」
「ええ、それに、私が言ったことをしっかりと覚えて、すぐに自分だけで採取できるようになったでしょ。物事を理解するのも早かったわね」
「やたらとほめるな…何か企んでるのか?」
俺の言葉に、スターはため息を吐く。
俺を馬鹿にしているというよりも、なんか違う反応だ。
「流石、5,600ポイントもライセンスポイントを貯めこんだ男ね」
「褒めているん…だよな?」
「ええ、もちろんよ」
「そうか、何だか照れるな」
「照れないでちょうだい。気持ち悪い」
誰かに褒めてもらうなんて何年ぶりだろうか。
スターの言う通り、確かに気持ち悪い顔でニヤニヤしてしまったかもしれない。
「…それで、次はどうするかね…」
「あ、そ、そうだな。何か手立てはあるのか?」
「方針は変えないわ。次に売れそうなものを探すのが良いかしらね。方向性は悪くなかったし」
「ああ、おかげで30万は貯まったからな!」
「それじゃ、さっそく!夕飯の材料を探すのと一緒に、草原へ行きましょう!」
「そうだな!」
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ミンクフィールドを分断するように流れる川は、アルガス山脈から流れてくるものであり、澄んだ綺麗な水を山からベグマまで届けてくれる川でもある。
そんな川に素足を突っ込んでいるのが俺だ。
「…クラッド!そこの足元!」
「え?」
俺はスターに言われて、自分の足元を覗くと、白に赤のまだら模様の魚がいた。
俺はスッと両手を伸ばして、その魚を川からすくい上げる。
「…やっと獲れた」
俺の両手に掴まれてピチピチと元気に跳ねているのは、カルダクルと呼ばれる魚であり、どうやら珍しい品種のようだ。
「ナイス!」
「…これが高く売れるのか?」
確かに見た目はきれいな魚だ。
飼いたい奴はいるかもしれない。
「ええ、純粋に食べると美味しいのよ!」
「なるほどな」
俺は水しぶきをあげながら、川岸にいるスターのところまで進んでいく。彼女の隣にある水を溜めてある桶に、手にした魚を入れる。桶のなかでススっと泳ぎ始める魚は元気そうだ。活きのよいほうが高く売れるだろうから元気そうな姿は手応えに感じる。
「そういえば、この魚、どれぐらいで売れるんだ?」
「にゃー!」
「ん?」
俺の問いかけに対して、スターがまるで猫のように鳴く。
いや、猫なんだけど。
「…」
スターが俺ではなく、俺の背後を見て鳴いていることで、俺は背後をふり返る。
そこには、いかつい男が2人いた。
「ここで何をしている」
1人の男性が俺に尋ねてくる。
見て分からないかと言わんばかりに、俺は川に向かって両手を広げる。
別にミンクフィールドでの狩猟や採取は禁止されていないから、堂々としていた方が無用なトラブルは防げるだろう。
「魚の採取か…ならば、冒険者カードを見せろ」
「いや、俺は冒険者じゃない」
「何!?」
「そもそも、冒険者であっても、あんたらに冒険者カードを見せなきゃならない謂れはないぞ」
「お前は知らないでここにいるのか」
俺の言葉に、いかつい男性はあきれたように言う。
「先日、ベグマギルドは、冒険者以外のミンクフィールドでの採取及び狩猟を禁じたぞ」
「え!?」
ベグマギルドは、いわゆる公的機関であり、冒険都市ベグマを統治しているギルドだ。
「…悪いがお前を連行させてもらう」
1人の男性がスッと俺にキーパーカードを見せてくる。キーパーはベグマの治安維持を任務としており、ベグマギルド直轄の冒険者とも呼べる。他の地域で言えば警察みたいなもんだ。
「…待ってくれ!採取禁止ってどういうことだよ!?」
「言った通りだ。ミンクフィールドはベグマギルドの管轄であり、勝手に採取することを禁じる」
毅然とした様子の冒険者
相手がキーパーであれば、俺は素直に従う他にないだろう。
「わかった。連行には素直に応じる」
「うむ」
俺は川から上がると、背後からスタスタとスターがついてくる。
俺の視線を前に「にゃー」と鳴いて、文字通り猫を被っていた。どうやら、助けにはなってくれなさそうだ。いや、そもそも、こいつを匿うことが約束だから、この態度にまったく問題はない。俺の力で何とかしないとならないが、手立ては…ないな。
「この採取した魚も回収させてもらうぞ」
「ああ、了解だ」
ま、そうなるだろう。
俺が頷いて見せると、冒険者の一人は桶を両手で抱えて、俺が採取した魚を桶ごと虚空へしまう。おそらくアイテムボックスへ格納したのだろう。
そして、その冒険者が次なるターゲットに選んだのは…
「…この猫は?」
「にゃっ!?」
その視線がスターへ向けられると、こいつは背中の毛を逆立て、しっぽをたぬきのように膨らませる。匿ってほしいと俺に申し出るくらいだから、ベグマギルドに連行されると困るのだろう。
「猫は良いだろう別に」
「にゃ…」
指揮権のありそうな方の冒険者が、猫は押収の対象外だと告げると、スターはホッとしたように鳴く。
「だが、ついてくるぞ」
「貴様の飼い猫か?」
「ああ、そうだ」
「ならば、首輪をつけておけ」
そう言われた俺は、冒険者がどこからともなく鈴の付いた真っ赤な猫用の首輪を取り出して、俺へ手渡す。
「…だとさ」
俺は受け取った首輪をスターへ見せつけると
「にゃぁぁぁっ!」
今度は全身の毛を逆立たせて鳴くスターであった。