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権力



 窓の奥からは冒険都市ベグマが一望できる。

 部屋は見渡すほどに広く、左右の壁には本棚があり、びっしりと難しそうな本が詰め込まれていた。



 そして、そんな部屋の奥にある大きな机で資料を読んでいるのはメガネをかけた黒いスーツの男性だ。かなりの老齢であろうが、その肉体は衰えを知らず、鍛え上げられているであろうことはスーツ越しにでも見て取れる。




「…高薬草が大量に出回っている」


 そんな老齢の男性は、手にした湯気の立っているカップを静かに置きながら、目の前の男性へ静かに告げる。彼の目の前にいるのは、青いコートを纏った男性であり、金色の髪をオールバックにしている。まだ若さを感じるのだが、佇まいには気品に近い余裕があった。



 メガネの男性が告げた言葉は、まるで、彼に手を打つようにと指示している様子だ。

 それを感じ取った金髪の男性は、深々と頭を下げる。



「…承知しました。私の方で手を打ちましょう」



 そして、面を上げると、彼はにこやかに命令を承服する。そんな彼の態度に対して、静かにメガネの男性は答える。



「ああ、手早く、確実にな」



 これで話は終わりだという雰囲気がメガネの男性から漂うのだが、金髪の男性は小さく口を開く。



「…カラルミス様」

「何だ?」


「一つお聞かせいただきたいのですが」

「前置きは良い。手短にしろ」


「はい。カラルミス様、なぜ、あのようなものにそこまで拘りをお見せになるのか…それが疑問なのです」



 金髪の男性がそう告げる。

 カラルミスほどの人物であれば、たかが高薬草が大量に出回ったぐらい些細な問題である。そんな些細な問題のために、こうして自分を呼び出した意図は、渦中の人物にあるのだろう。


 そこまで調べがついての質問を投げられ、カラルミスと呼ばれたメガネの男性は、手にしていた書類を机に置く。



 そして、若く金髪の男性の翡翠の瞳をまっすぐに見つめる。



「アウレウス」

「はい」


「貴様の優秀さは認めよう」

「ありがとうございます」


「…しかし、いささか集中力に欠けているようだ」

「それは?」


「貴様の任務は3つに増えた。復唱してみろ」

「はっ!一つは姉の行方を捜すこと、一つは検体を回収すること、もう一つは出る杭を打つことです」


「やるべきことに集中しろ」

「…わかりました」



 アウレウスは素直に引き下がる。

 彼は終始笑顔なのだが、内心では燃え滾る想いがあった。




「…カラルミス様、それでは失礼いたします」

「うむ」




 アウレウスはカラルミスの書斎を後にすると、部屋の外には赤髪の男性が彼を待っていた。その燃えるように赤い髪と同じような真っ赤なコートを身に纏い、筋骨隆々で堂々とした男性である。アウレウスの太ももぐらい、その真っ赤な髪の男性の腕は太い。



「終わりましたか?」


 ニカっと太陽のような笑みを見せる真っ赤な髪の男性を前に、アウレウスは先ほどまでの笑顔が嘘のような冷淡な表情を彼へ見せる。



「おや、そのご様子では…」



 真っ赤な髪の男性は、アウレウスの表情の変化から、カラルミスとの会話がどんな内容だったのか想像する。しかし、その想像は違うとアウレウスは少しムッとした表情で彼を見つめる。



「違う、カラルミス様は変わらず俺をお認めになっている」

「ふむ、それでは?」



 アウレウスは自分の胸に手を当てる。

 そして、深くため息を吐くと、体の中から余分なものを吐き出し、余分なものを受け止めるスペースを設ける。




「…俺のこの感情は嫉妬だ」



 カラルミスが自分に事情を話してくれなかったことも衝撃だったが、それ以上に、彼が自分以外に拘りを見せたことが許せないのだ。アウレウスは素直に自分の感情を認めることにする。




「ほう、アウレウス様ほどの方が嫉妬ですか」

「ああ、カラルミス様はなぜ…あのような者に…そこまで」


「あのような者…」



 真っ赤な髪の男性は、アウレウスが口にした人間にピンっと来ていない様子であった。

 


「…しかし、今は任務に集中しよう」

「ええ、そうですね」


「姉の件、引き続き頼むぞ」

「ええ!任せてください!」



「ああ、見つけ次第…わかっているな?」



「ええ、必ず殺しますよ。手ごわい相手ですから、久々にわくわくします」



 真っ赤な髪の男性は、そう言い放つと同時に、アウレウスへ獰猛な笑みを見せるのであった。









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 ここ1週間は毎日のように通っている大手冒険者ギルド

 もはや日常になりつつある俺が来訪すると、いつものおじさんが俺を待っていた。


 手には薬草になると言うミンクフィールドの特別な草を握りしめ、いつものように受付カウンターへと足を運ぶ。



 しかし…



「…買い取り価格は、1本100ゴールドだ」

「ま、待ってくれ!昨日まで980ゴールドだったじゃないか!?」



 俺は冒険者ギルドの受付で思わず大声を出してしまう。ここは70階層の到達者が2人もいる大手冒険者ギルドである。かなり儲かっているのか、受付のあるロビーはかなり広く、カウンターは20を超えるだろう。そして、そんな大手だからか、依頼に来ている他のお客さんもおり、俺の声に驚いている様子であった。


 ハッとした俺は、周囲に向けてペコリと頭を下げる。

 冷静に話さなければならないと自分に言い聞かせるのだが、しかし、これはあんまりな出来事だ。



「…悪いが、急に下落してな」


 俺が冷静になったことを見て、受付のおじさんは話を続ける。

 そもそも、このおじさんも困惑している様子だ。そりゃ、そうか。



「何があったんだ?」

「ああ、お前が大量に持ち込んできたことも影響して、そもそも下落しつつあったんだがな」


「いや、だが、それにしてもな」

「急に買い取り価格が下がった。今朝、俺もリストを見て目玉が飛び出るかと思ったぞ」


「…誰かが大量に供給しているのか?」

「一晩でそこまで変わるかと思って調べてみたが、その通りだ。なぜか急に出回り始めてな」


「…そうか」

「ああ、悪いな、こういうのは水物だ。急にそうなることもないわけじゃない」


「…叫んで悪かったな」

「いや、気にするな」


「これは…一応、買い取ってくれるか?」

「ああ、受け取ろう…」



 おじさんはそう言うと、スッと俺に1,500ゴールドを渡す。俺は金額を確認すると同時に、スターから貰った買取価格早見表も確認する。


 えっと、草が15本だと…18,000ゴールドじゃなくて…あ、大丈夫だ。最初に提示してもらった通りの価格だ。



「ありがとう」

「ああ、また貴重なものがあったら、ここへ持ってきてくれると嬉しい」

「ああ、その時は頼むぜ」







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