陰謀の渦
コロンと名乗った白髪の妙齢の男性
その名前に心当たりのないベグマ市民はおそらくいないだろう。
「…あんたが、あのコロン?」
「ああ、この街にコロンってのは俺だけだ。俺がそのコロンで間違いないだろう」
名探偵コロン
GBIで最高の冒険者と言われている存在だ。
グレートウルフとの二つ名まで持っているランクSの冒険者でもある。
白髪でニヒルな笑みが特徴の男性と聞いていたが、確かに、その特徴通りの男性だ。
「そんな大物が、なんで、俺に?」
「お前さん、なかなかにきな臭いことに巻き込まれているだろ?」
「…」
いきなりの言葉に、俺は言葉を失う。
早く何かを返答しないと、この沈黙そのものが相手に情報を与えていることになる。
「だろうと思ったぜ」
俺はまだ何も言っていないし、顔にも出さないようにしていた。
時間もほんの一瞬であった。
しかし、心の内はバレバレだったようだ。
「…今回の件、少なくとも帝国が関与してる」
「そこまで調べがついているのか」
「ああ、今のはカマかけてみたが、その反応だと俺のカンは正しかったみたいだな」
「…っ」
見事にカマをかけられた。
最初のいきなりの質問で俺の思考力を落とし、続けて思考外からカマをかける。
これをスムーズにできる辺り、噂通りの手練れのようだ。
「性格が悪いのは職業病みたいなモンだ。勘弁してくれや」
「心を読んで会話するのも、あんたの病名に追加してくれ」
「ははははは!」
コロンは俺の返しに笑い声をあげる。
内緒話をしたい割に、そんな大声でと思ったが、周囲に人の気配はまるでなかった。どうやら、認識阻害かつ人除けの魔法がこの路地の入口にかけているのだろう。
そんな感想を抱いていると…
「…クラッド、"彼女"は信頼できるわ」
「彼女?」
スターは俺の耳元でそう囁く。
コロンを女性みたいに言ったことが気がかりだったが…
「不思議な猫ちゃんだな」
コロンはすぐに俺の肩にいるスターがただの猫ではないと気付いたようだ。
「…ええ、気高く美しい猫よ。私も話に混ぜてもらって構わないかしら?」
スターがコロンにそう話しかけると、どこかコロンは得心がいったような表情を浮かべる。
「もちろん。どうぞどうぞ、俺は犬より猫派でな。ウルフなんて呼び名よりも猫っぽいのが好みだ。だから、猫ちゃんなら大歓迎だぞ」
「そう、ありがとう」
「で、早速、お喋りとしゃれこもうぜ。まずはな、状況を俺に話しちゃくれないか?」
俺はスターを見つめると、彼女はコクリと頷いた
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「…対象は?」
「はい、どうやらコロンが連行しているようです。尾行も撒かれてしまいました」
「そうか」
「何か勘づかれているかもしれませんね」
「ああ、だろうな」
「いかがされますか?」
「ノエルを塔から呼び戻せ」
「しかし、プラチナの件は?」
「構わん。もう塔にはいないだろう」
「かしこまりました」
暗闇に響く声が静まり返ると、部屋にぼんやりと明かりが灯る。
「…殿下、急ですな」
眼鏡の黒いスーツの男性カラミルス
彼は灯った明かりの先に向かって深々と頭を下げる。
「カラ、お前に話がある」
「はい、何なりと…」
「まず、王族にすら情報が統制されていることがある」
「戒厳令ですか…それもかなり重要なことのようですな」
「ああ、ベアが死んだ」
「なんと!?」
カラミルスは目を見開いて驚いていた。
帝国の将軍であるベアトリクスの死は、それほどの衝撃があって然るべきだろう。
「まさか…例の対象にですか?」
「直接の原因はオーソリティ・エグゼキューションだ。古龍の意識に乗っ取り返されたのだろう」
「だが、あのベアトリクス様がそうせざるを得ないほどの事態になったということですね」
「ああ、つまり、例の対象に権能が発現しつつある可能性が高い」
「ふむ…」
「そして、ベアトリクスの死は悪いことばかりではない」
「悪いことばかりでは、でしょうか?
「そうだ。オーソリティ・エグゼキューションは、こうして現実に存在する概念だということが判明した」
「なるほど!」
「…我が代で悲願を果たせるかもしれんな」
「それはそれは胸が熱くなりますな」
「うむ…引き続きオーソリティ・ゼロ計画の遂行を頼んだぞ」
「はっ!」
「ここからが本題だ。ベアの死を発信元がわからぬように流布してほしい」
「よろしいので?」
「ああ、そして、その命を奪った犯人が対象であると仕立ててくれ」
「なるほど、心得ました。ベアトリクス様の死であれば、我らが介入できる口実にもなり得ますな」
「その通りだ。では頼んだぞ」
「はっ!」




