コロン・ボ・ホームズ
俺達はベグマに到着すると、ゼルと別れ、ライトとチェルシーを家まで送ると、スターと俺だけでアルファギルドへ報告に向かう。
そして、ベグマの中央通りを進んでいる時だ。
街の騒がしさに紛れるようにスターは俺の耳元でささやく。
「クラッド」
スターが明らかに内緒話をしたい素振りであるため、俺はそのまま何もリアクションを取らずに歩き進める。
すると、スターはそのまま次の言葉を紡ぐ。
「…尾行されているわね」
「え?」
元々、顔や仕草に出さないように意識していたため、思わず小声が漏れただけで済んだ。
俺はそのまま周囲を窺ったりすることもせず、アルファギルドへと向かって歩み進める。
「…あのローブ、どうやらベグマギルドの冒険者みたいね」
「…」
スターは俺が疑問に思っていることを次々と説明してくれるため、俺はただただ聞くに徹し、歩き続ける。
「それもGBIの連中ね…」
「っ!?」
ベグマギルドの冒険者には3段階で捜査権限が分かれており、GBIと呼ばれる冒険者は最上位の権限を持つ存在だ。それだけの権限を持つだけあり、大規模な犯罪や大物の捜査を担当することの多い冒険者達である。当然、それだけの実力を備えている連中でもあり、俺なんかを尾行する暇があるような奴らではないはずだ。
「帝国の回し者ということはないわね」
「…」
ベグマギルド、特にGBIは各国にまったく忖度をしない。
その姿勢がベグマの独自の自治権を強固に保っているとも言える。裏を返せば、帝国の支持で俺を尾行している可能性は低いということだろう。
「目的はわからないわ…」
「…」
スターですら、なぜGBIが俺を尾行しているのかわからないようだ。
嫌な予感だけはするのだが…
「とりあえず、アルファギルドへそのまま向かいましょう」
俺はスターの言葉に従い、そのまま中央通りを進んでいき、やがて大きなテントが見えてくる。あれがアルファギルドの本部である建物だ。
しかし、そんなアルファギルドの本部が見えてくると…
「…おいおい」
俺は思わず足を止める。
なぜなら、先ほどまで周囲を歩いていた人々は姿を急に消している。
目の前には、青いローブを纏ったベグマギルドの冒険者が隊列を組んでいる。
そして…
「背後も…そうね。完全に囲まれているわ」
俺はスターに言われて背後を振り返る。
すると、彼女の言葉通り、背後にも青いローブを纏ったベグマギルドの冒険者が隊列を組んでいた。
「…クラッドで間違いないな」
背後にいるベグマギルドの冒険者達の中から、ぬっと出てくるのは妙齢の男性だ。
明らかに指揮権を持っていそうな人物である。
「あ、ああ…確かに俺がクラッドだ」
「そうか…単刀直入に告げる。貴様には殺人の容疑がかかっている」
「殺人!?」
俺は思わず叫ぶ。
帝国のことや村での出来事のことかと思っていたが、まさか殺人とは予想外であった。
「待ってくれ!俺は人殺しなんてしていないぞ!」
「…それはこれからの調査で判断する。今は大人しくこちらの指示に従ってくれ」
「指示に従うのは構わないし、暴れるつもりも、抵抗するつもりもない。俺は誰かを殺し…」
俺は思わず口籠る。
まさか、帝国の将軍のことか?
「…どうした?誰かを殺し?何だ?」
「1つ、聞かせてくれ」
「なんだ?」
「俺は誰を殺したってことで、こんな騒動になっているんだ?」
「トラッジ、お前のよく知る人物だろ?」
「トラッジ!?」
まさか、トラッジが殺されているとは驚きだ。
いや、なるほど、確かに、あいつが殺されたら俺に容疑がかかるのもわかる話だ。因縁はあるしな…
「…俺は今までベグマの外にいたんだ。アリバイはあるぞ?」
「そうか、言いたいことはあるだろうが、まずはご同行願おうか」
「了解だ」
俺が妙齢の男性の言葉へ素直に応じると、すぐに周囲に人々が通り過ぎ始める。
気づけば、今まで俺達を包囲していた青いローブの連中が姿をパッと消している。
「す、すげぇな」
「ああ、お前さんが素直に応じてくれたからな。ここまでする必要はないという判断だ」
「そ、そうか…」
認識阻害やら人払いやら、そんな魔法の応用だろうか。
俺は妙齢の男性に連れられて、そのままベグマギルドに向かって歩き続けると…
「ん?」
「こっちだ…」
妙齢の男性は、ベグマギルドの方向ではないく、別の路地を案内し始める。
「…」
「…ま、警戒するのも無理ないな」
妙齢の男性の雰囲気が変わる。
「で、プラチナは近くにいるのか?」
「プラチナ?」
「ん?俺のカンが外れたな。てっきり、お前さんは繋がっていると思ったがな」
「1度だけ鎧を売ったことがあるけど、それ以上の付き合いはないぞ」
「ふむ、ああ、話がそれたな。安心しろ、俺はお前さんの味方になれるはずだ」
「味方?」
「そうだ。まず、俺はコロンだ。よろしく」
そう言ってコロンと名乗る男性は不敵に笑った。




