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【チーターで世界最強?】32歳未経験が大手冒険者ギルドへ転職できたわけ  作者: 魚介類
うるさい犬と指名手配された男
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平穏も束の間



 周囲を山々に囲まれた長閑な村

 村の危機的な問題が解決し、周囲には穏やかな時間が過ぎていた。


 何だかきな臭い連中は、銀色のコボルトと共にシェリルが回収していった。

 そんなひと悶着があった村の中央に俺はライトとチェルシーと共にいた。




「そうそう…そうやって…」

「んー!」



 ライトは一向に手のひらから魔力を感じない。

 対照的に、チェルシーは顔を真っ赤にさせているが、手のひらからほんのりと魔力の波動を感じる。


 ゼルの話では、木の人形に村が襲われた時には、バンバンと魔法を使っていたそうだが、それは火事場の馬鹿力的なものだったのだろう。再び魔法を扱うには、こうして練習が必要になっている。



「…ぅ!!」



 チェルシーが頬を膨らませていると、魔力がだんだんと乱れてくる。



「落ち着いて…呼吸をしっかりと意識!」

「…っ!」



 チェルシーが呼吸を整えると、顔の赤みが引いていき、魔力の波動が安定していく。力み過ぎて魔力の流れが滞っていたのだろう。




「よし!詠唱を!」



 俺はチェルシーの魔力が安定しているのを感じると、そう告げる。



「は、はい…えっと…ファイア シン!」




 チェルシーの手にほんのりと赤い光が宿る。




「うんうん…精霊が宿って来てるよ。そのまま続けて」


「ドローイング ファイア!」



 チェルシーの全身に火の魔力が宿っていくのを感じる。

 見事に炎纏が成功していた。



「すごい!すごいよ!チェルシー!」

「わー!!わ、私!魔法が使えてます!」



「チェルシー!ここからだよ!このまま魔法の発動までやってみよう!」

「は、はい!」


「詠唱してみて!」

「えっと…シン ファイアボール!」




 チェルシーは手のひらから炎の玉を生成しており、ファイアボールの完成である。



「できた!!見て!ライト!!」


「すごいよ!チェルシー!!」

「やった!!クラッドさん!ありがとうございます!」


 チェルシーは大はしゃぎしていた。

 やはり、初めての魔法というのは嬉しいものだろう。




「今のイメージを忘れないでね」

「はい!」


「…」



 ライトはチェルシーが上手く魔法を発動できたことが嬉しい様子であると同時に、どこか寂しそうな反応を見せていた。ライトはチェルシーと同じように魔法の詠唱を試みるのだが、一向に魔法が放てる気配はしない。




「次はライトだな」

「僕…できますか?」



 ライトは自信がなさそうだ。

 ま、こいつは戦士タイプだから、黒魔法よりも白魔法の方が適正があるのだろう。まず、そこを説明して、変な劣等感をほぐしてからだな。




「ライト、魔法には大きく2種類あってな。白魔法と黒魔法に分けられる」

「白と黒?」


「そうだ。チェルシーは黒魔法に適性があるけど、どうやらライトは白魔法の方みたいだな」

「何が違うんですか?」


「魔法の体系が違う。発動のさせ方が特に異なるんだよ」

「発動のさせ方?」


「黒魔法は…精霊を身に宿して魔法を発動させるんだが、白魔法は、こう、大地や空気やらの自然から魔法を発動させる感じだ」



 俺はジェスチャーで説明するが、実際に魔法を発動できるわけではない。知識だけである。



「具体的に…どう違うんですか?」

「詠唱が違うんだよ。黒魔法は精霊を宿してからじゃないと使えないけど、白魔法は精霊を宿さなくても使えるんだ」


「精霊を…宿さなくても?」

「ああ、それも、黒魔法よりも単純で、ただ魔法名を直接口にする。それだけだ」


「魔法名を?…ファイアボール…とか?」

「ちょっと違うかな。白魔法の場合はメーラ・ボールだな」


「…メーラ・ボール?」



 ライトが不安げにそう呟くと…



「わ!」



 ライトの手の平に、チェルシーよりは小さい火の玉が浮かぶ。



「そうそう、そんな感じだ。白魔法は黒魔法と違って、誰が使っても、ある程度は効果が同じなんだ」

「魔力があってもなくても変わらないってことですか?」


「魔法を使った人の魔力はほとんど影響しないな。黒魔法だと、身に宿せる精霊の種類と、その精霊をどこまで宿せるかで威力や効果が同じ魔法でも変わってくる。だけど、白魔法は、自然から魔法を生成するから、誰が使っても効果は一定なんだ」


「なるほど…」

「だから、魔力が低い戦士タイプが習得するには、黒魔法よりも白魔法の方が安定している。肉体強化系の魔法で白魔法が多いのも、そういう理由があってからだな」


「勉強になります!」



 ライトは自信が戻ってきたようだ。

 ま、こいつも天才的な才能があるからな、頑張ってほしい。




「クラッドさん、質問いいですか?」

「ん?チェルシー、どうした?」


「あの、どうでもいいことかもしれませんが、どうして黒魔法や白魔法と呼ぶんですか?まるで、私のこれ…悪い魔法みたいです」



 チェルシーは黒魔法で発動させたファイアボールを指さしながら俺に問いかけてくる。




「あー…えっと」



 俺はその辺りのことはさっぱりであった。

 確か、歴史的に、黒魔法は何かひと悶着あった気がするな…



「黒魔法はよぉ、少し前まで禁忌とされていたからだぜ」



「ゼル!」

「おう…待たせたな」



 そんな時だ。

 助け船を出してくれたのは帰還したゼルであった。どうやら、別任務とやらが終わったみたいである。



「おかえりなさい!」

「おう」


「任務、お疲れ」

「ああ、ありがとな。さて、俺が答えてやるぜ」



 ゼルはニカっと笑うと、俺達の前にドカっと座る。

 そんなゼルへ、少し驚いた様子のチェルシーがお礼を述べる。



「あ、あ…ありがとうございます」

「おう、あれだ。教会が黒魔法を禁じてた時期があんだよ。それで黒っていうのが定着してやがるだけだ。別に何も悪いこたぁねぇよ」


「そうなんですか…」

「確かに、教会の人達も、普通に黒魔法は使ってるからな」


「クラッドの言う通りだぜ。あんまり名前には拘らず使えばいいさ」

「わかりました!」



 チェルシーが納得した表情を見せると、ゼルが話を持ち出す。




「さて、明日の朝には、ここを発つぜ」

「そうか…なんか、色々と分からないことだらけだったけど、無事に達成したのかな」


「ああ…教会の奴が手柄をかっさらって行ったけどな」



「ま、本来の目的は果たせたし、良しとするか」



 俺はライトとチェルシーの頭を撫でながら、村を襲った木の人形の話を思い出す。この2人もよく頑張ってくれた。


 2人は実戦経験を得ることで、ライトとチェルシーは無事にライセンスを取得し、タレントが開花したのだ。後は、アルファギルドに紹介すれば、紹介料が貰えるだろう。


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