登場 パターンEX
四龍は赤龍、緑龍、蒼龍、黄龍の4柱の古龍であり、そのいずれも種族レベル9以上の魔物だ。
1柱ならまだしも、2柱も姿を現せば、流石にベグマも大きな被害を受けることになるだろう。
「…」
種族レベル9の魔物は確かにめちゃくちゃ脅威だ。
しかし、人間を滅ぼすと言えるほどの戦力かと言われれば、2体いても難しいだろう。
「貴様は黙ってみておれ」
「…聞かせてくれ」
「何だ?」
「お前は…どうすれば、人間に攻撃するのを止めてくれる?」
人間を滅ぼすに至らなくても、そこまでの過程で大勢の人間が死ぬことになるだろう。
それは断固として阻止したい。
「お前は…自分の家族が仮に殺されたとしよう。その仇を討ちたいとは願わない人間か?」
緑龍は真摯にそう答える。
俺は返答に迷った。
違うと簡単に答えることはできないし、簡単に答えたところで軽い言葉は逆効果だろう。
「…」
「それが答えだ。我を止めたいのであれば、ベグマ様を蘇らせる他にないぞ」
「…こんなことをしても、ベグマが蘇るわけじゃないだろう」
「そうだ。だが、他に、この胸を焦がすような憎しみと向き合う術がない」
「龍のくせに、人間味のあることを言うな」
「我を侮辱するか?」
「そんなつもりはないよ。人間にだって良いところはある。その良いところを言ってんだよ」
「ふむ」
「…とはいえ…うーん」
俺は対策を考える。
このまま交渉しても、人間達への攻撃は止めてくれなさそうだ。
「それでよい。貴様は黙ってそのまま見ておれ」
「…」
地上では、ゼル達とシェリルが合流していた。
村の周囲をコボルト達が防衛に努めており、シェリルと見知らぬ冒険者3名も村の防衛に加わっていた。戦力を分散させておけないほどの状況のようだ。
そもそのはず。
地上の木の人形の数は増すばかりであり、1体1体が弱くても、その数が多くなれば苦戦は避けられない。
「…黄龍が覚醒を始めたぞ」
「まるで吉報みたいに俺に言うな」
「黄龍が目覚めれば、蒼龍、そして赤龍様だ。我ら四龍が揃えば人間など容易く葬れよう」
「待て待て!お、お前!他の2体も復活させるつもりか!?」
「当然であろう!」
緑龍がそうドヤ顔を俺に見せた瞬間
俺は不意に浮遊感を味わう。
「ん?」
そして、浮遊感は落下感とも呼ぶべき感覚へと変わる。
緑龍が俺を掴んでいる腕ごと、俺は地上に落下していた。
「おわ!?」
緑龍が降下したわけではないようだ。
なぜなら、空には緑龍の全体像が映っており、その手の先は失われていた。
つまり、俺は、緑龍の腕ごと地面に叩きつけられようとしていた。
「嘘だろ!?何だよぉおおおっ!!」
俺が落下していることに気付くと絶叫を轟かせる。
そんな時だ。
「ケプラー ゼログラビティ」
女性の声が響くと同時に、俺の落下感は再び浮遊感へと変わる。
俺を掴んでいた緑龍の腕だけが地面に落下していき、俺はプカプカと宙に浮いていた。
「え、え?」
俺が周囲を見渡すと、1人の存在に気付く。
「…誰?」
白銀の鎧に身を包み、真っ赤なマントをはためかせた騎士が見上げた先に浮かんでいた。
腰には緑の半透明の刀身を持つ剣を携えている。
「貴様か!?我が腕を切り落としてくれたのは!?」
そんな白銀の騎士へ緑龍は叫ぶ。
すると、白銀の騎士はコクリと頷き、腰に携えている剣を手に取り、そして構える。
「…ほう!人間の分際で我に挑もうと言うか!?」
緑龍はそう叫ぶと、残った腕を勢いよく突き出した。
突き刺そうというよりも、まるで虫を手でつぶそうとするような動きだ。
「…聖烈爆光斬!」
白銀の騎士はそう叫ぶと同時に、剣を一振りする。
それだけで、向けられた緑龍の腕は切り飛ばされ、空中でバラバラに切り裂かれる。
「ぐぬぅ!?その剣技!?」
緑龍が白銀の騎士の剣技に怯んでいると、そんな龍へ剣先を向ける騎士
「素直に引けば、これ以上は攻撃しないわ!」
白銀の騎士からは女性の声が響く。
その厳つい姿とは裏腹に、中には女性が入っているようだ。
しかし、この声…
どこかで聞いたような?
「貴様!その剣!誰に教わった!?」
「こちらの質問に答えなさい!」
「…」
「引くの?引かないの?」
「貴様の返答次第だ…その剣…誰に教わった?」
白銀の騎士と緑龍の問答が始まりそうだ。
と感じた側から…
「…リョク」
白銀の騎士から情愛が込められた声色が聞こえる。
「っ!?」
そして、そんな白銀の騎士の言葉に、衝撃を隠せないのは緑龍だ。
明らかに動揺している。その長い全身がクネクネとし始めているのだ。
「ここは素直に引きなさい」
「ま、まさか…まさか…」
「…いい?」
「はっ!仰せのままに!」
緑龍は素直に白銀の騎士の言葉に応じると、そのまま天高く昇っていき、すぐに姿が見えなくなる。そして、地上に現れていた木の人形達もスルスルと姿を消していく。
「…これで…終わり?」
終焉とは、いつも呆気ないものである。
そんなセリフを誰が残したんだっけか?




