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伝説の古龍



 森の草木を真っ赤に染めていくのは黒いローブの女性の死骸だ。

 その首に深々と刺さったナイフから、勢いは弱まったが、血が流れ続けていた。




「…これで終わりか?」

「緑龍の話をわざわざ持ち出したこと、それが気になるわ」


 俺達は、迂闊に黒いローブの女性の死骸に近寄ることもできず、この場を離れることもできず、立ち往生に近い状況になっていた。



 そんな時だ…




「「「地震ですぅ!?」」」

「うおっ!?何だ!?この揺れ!?」



 急に地面が激しく振動する。

 シェリルは「地震」だと口にしているが、この揺れの感じは…





「ファイナルスキルなんかじゃなかったのね…」

「た、ただの地震じゃないよな?」

「ええ、この揺れ方は違うわね」



 スターの言葉に、俺は嫌な予感がした。

 将軍がファイナルスキルで古龍を召喚してくるというあの話だ。



「まさか…将軍が死ぬと同時に現れたって古龍…」

「ええ、そのまさかよ…」



 種族レベル9の古龍

 それは将軍が召喚したものだとばかり思っていたが…

 どうやら違ったようだ。



 俺が想像するに、『ペースト』した対象は…



「来るわ」

「え?」



 揺れが収まると同時に、轟音が響き渡る。

 森の木々が激しく揺さぶられ、山が噴火したように爆ぜる。



「「「わー!」」」

「…嘘やろ」



 その山から飛び出してきた緑の大きな蛇のような龍は、グルグルととぐろを巻いて空を覆っていた。伝承に名高い四龍の1柱である『緑龍』だ。地方によっては『シェンロン』とも呼ばれている古龍である。



 そんな緑龍が空に姿を見せると、すぐにスターは叫ぶ。



「…シェリル!?」


「「「はいぃ!?」」」

「すぐに村へ降りて!!みんなを非難させて!!」



 スターの判断は的確だ。

 村には、村民は勿論のこと、打ち合わせ通りならゼル達がいるのだ。

 




「「「わかりましたぁ!!」」」



 スターの叫びに応じて、3人のシェリルは山を下り始める。

 俺はそんな彼女達の背中を見送ると、すぐに視線をスターへと戻す。



「ど、どうすんだ!?」



 しかし…



「い、いねぇ!?」



 俺が視線を戻した時には、そこにスターの姿はなくなっていた。

 何だかデジャブを感じる光景なのだが…



「お、おい!!!どこだ!?スター!?」



 俺は森の中で叫ぶのだが


「…」



「くそ!こんな時に!どこに行った!?」



 俺は頭を掻くと思考を切り替えることにした。

 スターに従っていた方が良かった状況が変わったのだと、脳のスイッチを入れ替える。


 ここからは俺が自分で考えて、自分で行動しなければならない。




「…っても、俺にできることなんかないから」



 俺は空を覆う緑龍を見上げると、その無力感を再認識する。




「うん、逃げよう。狙いは俺らしいしな」




 俺は生き延びるために走り出す。

 とりあえず、村と反対の方向へ逃げることにした。もっと正確に言えば、ベグマまで駆けだすことにする。俺が村まで走ってみんなと合流しても、みんなを巻き込むだけだ。ならば、巻き込む相手を変えてやろう。


 緑龍とはいえ、流石にベグマの冒険者達がいれば倒せないこともない相手だ。

 勇者ノエルや聖女ミシェルなどのトップ陣が滞在中なら何とかできるだろうし、流石に誰かはいるだろう。


 問題は、俺がそこまで逃げ切れるかどうかだ。

 他力本願だが、俺にどうすることもできない相手だし、仕方ない。




 そんな風に色々と考えながら、来た道を戻り、登ってきた山を下りていく。

 しかし…





「…くそー!」




 そんな俺の周囲の光が大きなものによって遮られて、周囲がパッと暗くなる。

 俺は少し見上げると、巨大な腕が俺を掴もうと空から落ちてくるように向かっていた。



「がぁぁあああ!!無理だぁ!!無理だ!!」



 俺は叫びながら駆けるのだが…

 そんな俺の足よりも、向かってくる腕の方がはるかに速い。




「ぐぅ!!」


 俺は巨大な指につままれるようにして持ち上げられ、抵抗も空しく、すぐに地面から俺の足が離れていく。




「…」



 俺を顔の前まで持ち上げた将軍は、その巨大な口をわずかに開き始める。




「…ヤツは逃げたようだな」


 緑龍の口から老人のような声が響く。

 まさか龍が喋れるとは。


 いや、猫が喋っているんだ。今更だ。



「…」



 俺は何も答えない。

 相手に情報を与えたくないというよりも、スターが逃げたのかもしれない可能性から目を背けたい。



「ふむ、まぁ、良い。貴様から特殊な力は確認した。その権能、帝国のために使ってもらうぞ」

「断ったら?」

「安心しろ。お前に選択肢などない」


「…」




 どうする。

 ここで合言葉を言って自害するか?


 もはや、こうなれば手の打ちようがないだろう。




「…どうした?悪だくみか?」



 そんな風に考える俺の表情から何かを察したのか、聞き捨てならないことを言い放つ緑龍



「悪だくみだよ!ってか、悪だくみだなんて、お前に言われたくないわ!」




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