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緑龍



 俺とスターは打ち合わせ通りに事を進めると、前回と同じシチュエーションが目の前に訪れる。


 深い森の中、俺の目の前にある光景は、黒いローブを羽織った女性を3人のシェリルが取り囲んでいる。3人がそれぞれ絶妙な距離を保っていること以外は、前回と同じシチュエーションである。


 今回の作戦の肝となるのが、この「距離」である。

 しかし…



「スター…」

「ええ、ここからね」


 前回は、スターが乗っ取られてしまい、結果的に俺達は全滅してしまっていた。

 その状況を2人で分析し、色々と考察、作戦を考えたのだが…

 不確定要素があるため、出たとこ勝負なところはある。




「さ、作戦通りに」

「…ああ」



 スターはそう俺に言うと、木陰から出ていき、黒いローブの女性の前に立つ。

 

 対策と言っても確証はない。

 だが、考えてもわからないことはやってみなければわからない。

 だったら、まずはやってみようと、今に至る。


 やり直せるからこその選択だとも言えるが…

 この命を軽く扱ってしまっている感覚にどうも抵抗がある。


 とはいえ、他に妙案などなく。

 打合せ通り、このタイミングでスターは黒いローブの女性の前に躍り出る。



「…」



 すぐに黒いローブの女性はスターの存在に気付く。こんな山奥に、こんな上品そうな、こんな不遜な態度の猫が目の前に現れれれば、普通の人間だって違和感を抱くだろう。



「…ただの猫ではないな」


 仮に、その猫に違和感を抱いたとしても、猫に話しかけようとする人は稀だろうか。



「ええ、そうよ」


 黒いローブの女性の言葉に、コクリと頷いてからスターは応える。

 その一幕だけで、黒いローブの女性は、スターの正体を察したような素振りを見せる。

 いや、元から正体をある程度は絞り込んでいたのかもしれない。



「…ふむ、まさか、こんなところに逃げ及んでいようとはな」



 黒いローブの女性が探るような態度を見せ始めるが、余計な情報を相手に与えるつもりのないスターは、単刀直入に話を切り出す。



「手短に話しましょう。降参しなさい。あなたに勝ち目はないわ」



 スターは手筈通り、投降を黒いローブの女性へと促す。



「なるほど…確かにな。この状況では私に勝ち目も逃げ場もないようだな」



 黒いローブの女性はあらためて周囲を確認すると、3人のシェリルがシャドーボクシングのような動きを見せている。少し間の抜けた印象を感じるのは俺だけだろうか。




「ええ…もう手はないわよ」


「…」



 黒いローブの女性は懐からスッとナイフを取り出す。

 同時に、スターはすぐに俺の近くまで飛び退く。



「…っ」




 そのスターの反応を見て、将軍は微かに揺らぐ。真面目に商人として生きてきた俺の目は、相手がプロでも、そういう変化は見逃さない。


 やはり、距離が肝

 俺達の読みは当たっているのかもしれない。




「…私を乗っ取ろうとしても無駄よ」



 スターは自身の行動に言葉を重ねる。

 その言葉は、再び、黒いローブの女性に衝撃を与えたようだ。

 パッと見、動揺する素振りは感じられないし、どこがとは言えないが、そういう雰囲気は感じ取れる。



「乗っ取る?」


「惚けないで…それで自害して、その意識を私に移そうとしているのよね?」

「…」


「確か…カット&ペーストだったかしら?」

「…なるほど」


「この距離では無理よね」

「…くっくっく…そこまで把握されているとはな」




 俺の『コピー』には射程距離のようなものがある。半径にすると5mもないだろう。

 その範囲内でなければ対象を『コピー』することができないのだ。


 ここからは仮設なのだが、オーソリティによって制限を受けてしまうのも、射程距離と同じ5mの範囲内である可能性が高い。つまり、スターやシェリルが乗っ取られるかどうかは、俺と将軍との距離というよりも、俺とスターやシェリルとの距離がポイントになるのだ。


 将軍が『コピー』した魔法を『ペースト』して、多様な魔法を扱えていたのは、俺から距離が離れていたためだ。しかし、俺が近くにいれば、『カット』はできても『ペースト』はできないはずだ。




「…」

「さ、どうするの?」



 将軍は一向に手元のナイフを自分の首筋へ向けようとしない。

 その様子から、俺達の仮説は正しいのかもしれないと脳裏を過る。




「…昔話をしようか」



 そんな時だ。

 急に将軍が何かを語ろうとし始める。



「興味ないわ。時間稼ぎに付き合うつもりはないの」

「ベグマの周囲には四龍と呼ばれる古龍が住んでおり、遥か古の時代、この地への来訪者を拒み続けていたとされている」


「…そんなことは子供でも知っているわよ」

「しかし、そんな四龍にも終わりが訪れる。伝説の勇者クラッド・ロト・ライトメル、その友人であったベグマによって退治されたのだ」



 伝説の勇者クラッドのことは誰もが知っているだろう。

 俺の名前も、その勇者が由来で名付けられたものだ。


 しかし…四龍はその勇者が倒したはずだ。

 その友人のベグマは初めて聞いたな。

 都市や塔の名前と同じだけど、関係あるのか?




「だが、四龍は生きていた。殺されてなどいなかったのだ」

「…何が言いたいのかしら?」



「この地に生き続けていたのだ」



 黒いローブの女性はそう言い放つと同時に、自分の首へ手元のナイフを突き刺す。

 そして、血しぶきと共に、その体が倒れると同時に…




「っ!?」


「「「ば、馬鹿なことはやめるんですぅ!」」」



 黒いローブの女性がナイフを自身の首へ突き刺すと同時に、3人のシェリルが一斉に駆け寄ろうとする。それを、すぐにスターが叫んで止める。



「動かない!!」

「「「っ!?」」」



 スターの叫びが早く、シェリル達が実際に持ち場を離れる前に、その動きを制止させることができた。

 もしかすると、まだ息があり、近寄らせてしまうと、その意識が乗っ取られてしまうかもしれないのだ。



 しかし…


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