大詰め
「…」
黒いローブの女性は周囲を見渡す。
彼女の周囲を3人のシェリルが包囲しているのだ。
どうやら、コボルトやもう1人の刺客の対処を終えて、こうして終結してきたようだ。
ま、今までのシェリルの戦闘力を知っているから、対処自体はそんなに時間がかからないだろうと想定していたが…
「「「さぁ!観念するのですぅ!!」」」
黒いローブの女性に人差し指を突き出しながら、同じポースで同じ口調のシェリル
生み出した俺ですら、どれがコピーで、どれが本物なのか見分けがつかない。
「…これで終わりだな」
1人のシェリルにも苦戦を強いられていた黒いローブの女性だったが、こうして3人のシェリルが加勢にくれば、もはや勝負は決まったようなものだ。それに、今は本体なのだから、この状況から逃げようもないだろう。
「いえ…油断は禁物よ…」
「う、うむ、すまん」
俺の迂闊な言葉に、スターがすかさず突っ込みを入れる。
確かに、その通りだ。
俺がいれば洗脳されないとはいえ、多様性のある魔法は健在だ。
何をしてくるか分からないし、迂闊に将軍を倒してしまえば種族レベル9の魔物が召喚される可能があった。
「「「大人しくすれば命までは奪わないのですぅ!」」」
シェリルは腰に手を当てると人差し指を黒いローブの女性に突き出す。
「お前の悪行もここまでですぅ!」
「…」
シェリルの言葉通り投降してくれるのが楽なのだが…
「そうか…なるほど…これはそういうことだな」
「「「何がですかぁ!?」」」
「…近くにいるな」
黒いローブの女性はそう呟く。
そして…
「っ!?」
すぐに俺が隠れている木陰へ視線を向ける。
「気づかれたわね…まさか私の隠蔽魔法を見破るなんて」
「…どうすんだ?」
「私の傍を離れないで」
「お、おう」
スターはそう言うと、俺の代わりにスーっと木陰から出ていく。
「…なるほど」
すると、黒いローブの女性は、そんなスターの姿を見て得心のいったような声を漏らす。
そして、シェリルは打ち合わせと違うスターの動きに、戸惑いを隠せない様子だ。
「「「スター様?」」」
「シェリル、そのまま警戒を怠らないで」
「「「わかりました!」」」
同じ個体が3人いるからか、シェリル達の言動は一糸乱れない。
3人がそれぞれ違う場所で同じように敬礼してスターの言葉に応えていた。
「…まさか、こんなところで会うとはな」
「ええ、奇遇ね。で、どうするの?所謂、チェックメイトというやつなのだけれど?」
スターはそういうと、前足で駒を動かして置くような仕草を見せる。
「…それはどうかな」
「ふふ、貴方のユニークタレントは使えないわよ」
「ほう…そこまで見破られているとはな」
「繰り返すわ。チェックメイトよ。大人しく投降しなさい」
「…ふむ」
黒いローブの女性は懐からナイフを取り出す。
「今更、そんなものを取り出してどうしようって言うのかしら?」
「類似タレントがあるのだ」
「類似タレント?」
「カット&ペースト」
「っ!?」
将軍はスキル名を宣言すると同時に、手にしていたナイフを自身の首に突き刺す。
そして、首から血を吹き出しながら、その体が後ろのめりに倒れていく。
「な、なんだ!?」
「「「ひぃいいい!!自害しちゃったのですぅ!?」」」
「…」
黒いローブの女性は、観念したのか自害してしまったようだ。
しかし、こいつを迂闊に死なせてしまうと、種族レベル9の魔物が召喚されるのでは…
「ぎゃぁっ!?」
俺が不安を脳裏に巡らせていると、1人のシェリルの頭が爆ぜる。
「「っ!?」」
驚いた俺たちの目の前で、もう1人のシェリルの頭部が爆ぜる。
「スター!?」
「…」
「な、何をするんですぅ!?」
「…」
驚いている残ったシェリルへ、スターはその前足を向けて、ボソリと何かを呟く。
「…っ!」
シェリルは反射的に拳を振り上げると、すぐに白い閃光が周囲を覆う。
「…っ!眩しっ!?」
俺は急な閃光に思わず目を閉ざす。
同時に、脳裏にある疑念が浮かぶ。
「…まさか」
閃光が晴れると同時に、目の前にはスターの姿が映し出される。
場所は変わらず森の中なのだが…
「ああ、そのまさかだよ」
「っ!?」
俺の目の前にはシェリルの頭部が転がっていた。
それを転がしているのはスターである。
ここまで来れば、何がどうなったのか、想像通りのことだろう。
「…スターを乗っ取ったのか」
「ふむ、そこまで察しているとはな…いろいろと聞かせて貰おうか」
中身が将軍になったスターはそう言いながら俺に歩み寄ってくる。
もはや勝ち目も逃げ場もないようだ。
ならば…
「まさか、これを使うことになるなんてな」
「何?」
「…イン デスサイズ」
俺はスターに言われていた合言葉を口にする。
万が一の際に、楽に死ねるためのおまじないだそうだ。
「…ちっ!!」
将軍はすかさず俺から飛び退く。
それもそのはず。
俺の周囲には生命を凍てつかせる黒い霧が覆い始めているのだ。
俺が最後に耳にしたのは、スターの、いや、将軍の悔しそうな舌打ちであった。
せめて、それが聞けたのが良かったと思いながら、俺の命は黒い霧に吸われて散っていく。




