問題解決能力=経済力
「…本当にタレントを持っていない人間がいるなんてね」
「だから言っただろ!!」
人の傷口に塩を塗りまくりながら広げるような行動をした猫に、俺は怒号を轟かせる。
しかし、俺なんかの怒号を浴びたところで、この不遜な態度の猫が委縮するはずもなく。
「…妙ね」
猫は何やら神妙な顔で俺を見つめる。俺の顔に何かついているというよりも、俺の存在そのものがおかしいと言いたい様子だ。ああ、俺だっておかしいと思うぜ、何で俺だけタレントがないんだよ!
「妙って…何が?」
「いえ、何でもないわ」
猫は顔を左右に振りながらため息交じりに言う。
すげぇ気になるけど、話してくれなさそうだ。
「変な奴だな!」
「あなたには言われたくないわ!」
「喋る猫にも言われたくねぇよ!」
「はぁ…良いわ、それで、タレントがないから就職が決まらないわけね」
「そうだよ!」
「でも、タレントがなくても、ライセンスを取得すれば、何かのクラスに就けるし、就職だって何とかなるでしょ」
「俺はライセンスも無理そうなの!」
「…」
猫は俺の言葉を受けて、表示させている青く透明なパネルをすらすらと目で追っていく。
まるで、俺のタレントだけじゃなくて、ライセンスの情報まで覗けるような素振りだ。そこまでの鑑定スキルは聞いたことがないけど…
「おいおい…まさか、俺のライセンス情報まで見られるのか?」
「ええ、そのまさかよ…どれどれ」
「…」
「うそっ!?ライセンスポイント5,600!?これ、普通だったら、ライセンスだけで剣聖や賢者にだって成れるわよ!?」
「すげぇな…本当に見られるのかよ…気持ち悪っ!」
「何で!?何でライセンスを取得しないの!?戦闘系なら何でもできるようになるでしょ!?」
確かに疑問に思うよね。
冒険者になりたくて必死に貯めたポイントだが…俺には大きな問題がある。
「…例えば、剣術検定D級を取得するのに、俺だと65,535ポイントもいるからだよ」
「え?」
「人によってライセンスの取得に必要なポイントが違うだろ。俺のは大ブレしてるけどな」
「…大ブレし過ぎよ」
猫はそう言いながらも、青く透明なパネルを小さな手でポンっと押していく。
まるで、俺のライセンス取得画面まで表示させられるようだ。
「おいおい…どんな鑑定スキルを持ってんだ!?」
「鑑定スキルとしても使えるのは副次効果ね。本来の用途はちょっと違うわ」
「…とんでもない猫だな」
「ええ、すごいの、私を崇めなさい」
「あはははは、すごいすごい」
猫の手が透明な青いパネルから離れると、猫はあらたまった表情で俺の顔を見つめてくる。
「本当に、初級ライセンスのどれもが65,535ポイントも要るのね…これは…災難ね」
「災難で流すなよ!」
猫はこほんっと咳払いをすると、会話を区切って話を始める。
「ね!」
「何だよ?」
「あなたのお名前は?」
「あ?俺はクラッドだ。今更かよ」
「そう…私はスター」
「偽名臭いな」
「今までの非礼を詫びるわ。あなたを根性なしの腑抜け野郎だと思っていたの」
「だろうと思ったよ。詫びる必要はないぜ、そういう扱いをされるのは慣れてるからな」
「でも、認識をあらためるわ。あなたが所持している5,600ポイントは、日々の弛まぬ努力がなければ、あなたの年齢で到達することなんて難しい数値よ。尊敬に値するわ」
「へいへい」
すげぇ上から目線だが、この猫がとんでもないやつであることは、鑑定スキル(仮)の凄まじさで理解しているから、仕方がない。
「そのうえで、私はあなたを助けることを、ここにあらためて約束するわ」
「ん?」
「私の認識が甘く、覚悟が足りなかったことを認めたうえで、あらためて誓う。あなたを立派な人間にしてみせる!」
「まるで俺が人間じゃないみたいな言い方っ!」
「でね」
「ん?」
スターと名乗る猫がもじもじとし始める。
ここからが本題の様子だ。
「2つ!条件があるわ!」
「何だよ…勝手に言い始めたくせに、条件があんのかよ!?」
「ええ、1つは私のことを他人に話さないこと!」
「ああ、喋る猫なんて言ったら、俺の正気が疑われる」
「勇者だってこともよ!」
「了解」
「もう1つは!私をここに匿…住まわせなさい!」
「あー…衣食住の衣食は保証できないけど、それでよければ構わないぜ」
「…食ぐらいは保証しなさいよ」
「それはセルフサービスです」
「ま、いいわ」
「はぁ…で、助けるって、具体的に何をしてくれるんだよ?」
「そうね。私は知識と経験が豊富だから、あなたを立派な人間にしてみせるわ」
「…具体的に?」
「契約成立で良いのかしら?」
「ああ、いいぜ」
俺は特に何も考えずに頷く。
別に猫の1匹ぐらい住み着いたところで生活に支障はない。むしろ、ネズミが出なくなるから良い面もあるかもしれない。
「そう、それじゃ、まずはライセンスの取得ね。ひとまずの目標はクラスに就くことよ」
「おいおい…俺がライセンスの取得も難しいことは理解しただろ?」
「ふふふ…」
スターが不遜に笑う。
まさか、何か方法があるのか?
「な、なんだよ…」
「渡る世間の問題は、ほとんどお金が解決してくれるのよ!」
「猫のくせに、人間よりも現金なやつだな」
「ライセンスはね!…実はお金で買えるのよ!!」
「えぇぇぇえぇぇええ!?」