コピー&ペースト
「そういえば、スキルが増えた。そう言っていたわよね?」
俺はスターにそう言われて思い出したが、増えていたのはユニークタレントだけではなかった。俺にはアクティブスキルなるものが増えているのだ。
俺は確認を含めて、あらためて自分のステータスパネルを覗きこむ。
その青く透明なパネルには、確かにスキルが記述されていた。
「あ、ああ…コピーとペーストというスキルが増えている」
「コピー&ペースト…最高位のオーソリティを持つユニークタレントを発動させるためのスキルね…」
スターは怪訝な顔でそう呟く。
どうやら、スターの知識を持ってしても、『コピー』と『ペースト』という単語は知らない様子だ。しかし、スキルとして発動できるのだから、使ってみれば良い。
「…とにかく使ってみるか?」
「…」
俺がそう提案すると、スターはかなり迷った素振りを見せる。
「…マズイのか?」
「ユニークタレントの効果は世界を覆すようなものまで存在するのよ」
「このコピーってのも、そんなヤバイ可能性があるってことか?」
「ええ」
スターはかなり神妙な顔で頷く。
冗談とか盛っているとか、そういうことはなさそうだ。
「…じゃ、じゃぁ…やめておくか」
「いいえ、自身に危険が及ぶようなスキルの場合、警告が出るから大丈夫よ」
「警告?」
「ええ、使う前に、パネルに最終確認が出るはずだから大丈夫よ」
「そ、そうか…それじゃ…」
俺はスキル発動を強く意識すると、目の前の青く透明なパネルの表示が切り替わる。
そこにはアクティブスキルが一覧で表示されていた。
-------------Active------------
◆『コピー』
◆『ペースト』
発動不可 / 発動条件を満たしていません。
HP:15/15
MP:5/5
SP:0
-------------------------------
「…ん?」
「どうしたの?」
「あ、ああ…ペーストが発動不可になっている。発動条件を満たしていないみたいだ」
「…オーソリティは最上位なのに妙ね。もしかすると、カウンターで発動するタイプのスキルかもしれないわ」
「なるほど、それじゃ、コピーの方を使ってみるか」
俺は『コピー』を発動する。
すると…
------------Info-----------
クラッドは『コピー』を発動した。
*ターゲットに該当するオブジェクトが『シェリル』のみのため、自動的に対象を選択します。
**『シェリル』がコピーされた。
---------------------------
「…何も起きないわよ?」
「あ、ああ…警告は出ないんだが…」
「どうしたの?」
「ん…んん…スキルの対象がシェリルしかいないみたいで、勝手にシェリルへ発動したみたいだ」
俺がそう言うと、スターはシェリルの方を見る。
しかし、当の本人はケロっとした様子であり、特に異変を感じている素振りもない。
「…何もなさそうよ?」
「ああ…ん?」
俺はここであることに気付く。
「ペーストが発動できるようになってる」
-------------Active------------
◆『コピー』
・シェリル 72290316 1303430000
◆『ペースト』
HP:15/15
MP:4/5
SP:0
-------------------------------
俺は自身のステータスに変化がないか確認すると、『ペースト』が発動できるようになっていることに気付く。そして、どうやら『コピー』を発動すると、MPを1消費するようだ。
俺が『ペースト』を使えるようになっていることを告げると、スターはすぐにとある考察を口にする。
「…コピーを発動した後でないと、そのペーストが発動できないようね」
「ああ、その可能性が高いな…だが…」
俺はシェリルを見つめる。
『コピー』は確かに彼女を対象に取っている。
つまり、続く『ペースト』を発動することで、本格的に何かの効果が発動されると想定できる。
「…どうするか」
「使ってみましょう」
「おい!」
スターはさも構わないと言った様子で告げる。
「シェリルなら修理できるでしょうし、大丈夫よ」
「いや…確かにゴーレムなんだけど…うーん」
あれだけ情緒豊かなゴーレムだと、何だか物みたいに扱うのは抵抗感がある。
「もしかすると…この状況を打開する突破口になるかもしれないのよ!」
スターは目をキラキラとさせながらそう俺に告げる。
いや、確かに、使ってみないことにはどんなスキルなのか分からないし、ユニークタレントってことは、この状況を打開するほどの効果にも期待できるが…
こいつ、完全に興味本位じゃないか?
「はぁ…ま、そうだな、使わないことには先に進めないか」
トランザクションがあるからか、ヤバイことになったら引き返せば良いと思ってしまっている自分に気付く。これはいけない。自戒しないと…
とはいえ、スキルの効果は知りたいし、この状況を打開するキーになりそうだし、使ってみないとわからないとなれば、選択肢は変わらない。
俺は、特に意味はないけれど、人生で初めてのスキル発動だ。
心臓をバクバクと鳴らし、手をガクガクと震わせ、そして
「…ペースト!」
意味もなく叫んでみた。




