オーソリティ
「…俺が記憶を残しているってことは」
俺はハッとすると、岩肌が目立つ場所から森の中へと場面が移り変わっていた。
そして、目の前にはスターがおり、少し離れたところにシェリルがいる。
つまり、時間がセーブを発動したタイミングへ巻き戻っているようだ。
そして、これは確実でないが、俺が前回の記憶を保持しているということは…
「ええ、私も死んだわ」
「…おいおい」
俺がジト目を向けると、ムッとしたスターは言う。
「お前も…殺されたのか?」
「将軍はちゃんと倒したわよ!それに、貴方も救出したわ!」
どうやら将軍は倒してくれたようだ。
そして、捕らえられていたのか、俺も助け出してくれたようだ。なら…
「なら、なんで?」
スターの死因が想像できない。
周囲に将軍以上の脅威が潜んでいるのか?
「将軍は厄介なものを仕掛けておいてくれたわ…」
「厄介なもの?」
「ええ、ファイナルスキルのような扱いで、種族レベル9の魔物を召喚する魔法を練っているみたいね」
「種族レベル9!?」
種族レベル9は悪魔だとか古龍だとか、そんなクソヤバイ連中だ。
「そうよ、古龍を呼び出されて、この周囲は灰塵と化していたわ」
「マジかよ!?それでお前も殺されたってことか…」
「この姿じゃなければ…」
「ん?」
「いいえ、何でもないわ」
「それなら…将軍は迂闊に倒せないってことだろ?」
俺が手立てはないかスターに尋ねてみると、眉間にシワを寄せながらスターは語り始める。
「彼女の…魔法の多様性が引っかかるわ。そこに突破口があるはずなのだけれど」
俺はスターの言葉で肝心なことを思い出す。
「そうだ!そういえば!闇属性の魔法を使っていたぞ!」
俺が勢いよく伝えるが、スターは至って冷静な態度を崩さない。
「闇属性も使えるのね」
淡々と頷くスター
思ったよりも反応は薄い。
「ああ!陰陽2属性を両方とも駆使してるってことになるぞ、スターの話じゃ、あいつは光属性の術者だろ?」
「…古龍を召喚している時点で、光属性以外にも高い素養を発揮しているわね。まさか、種族レベル9の魔物を召喚できる人間が、他にもいるなんて想像もできなかったわ」
「他にもってことは…将軍以外にもいるのかよ…」
「ええ、でも、それ以上に、闇属性を扱えるなんてことは想定外だったわ」
「ああ、普通じゃないな」
「ええ、普通はあり得ないわね」
「普通はあり得ない。お前が引っかかっているのはそこか?」
「ええ、何の制約もカラクリもなく、陰陽2属性を扱えるはずがないわ」
「それは確かに…」
「そこが突破口になるはずよ」
陰陽2属性を共に扱える。それは事実だが、必ず何かしらの制約やカラクリが存在するはずだ。スターの話では、俺が近くにいると、将軍はシェリルやスターを洗脳できないそうだ。まさしく、それが制約に関わってくる現象なのかもしれない…
いや、でも、何で俺?
「…何度かアタックして情報を集める他…ないか」
「ええ、おそらく、同じことを考えていたと思うけれど、クラッドがいると、将軍は洗脳のようなものを行えないのは、おそらく事実よ」
「ああ、そこが突破口のヒントになるってことだろ」
「…そうね」
「ん?何だか含みのある反応だな」
俺とスターが認識を合わせていると、スターがうわの空で返事をする。まるで何か思い当たる節はありそうな反応だ。
「確証はないけれど、もしかしたらって予想はあるわ」
「どんな話だ?」
「…タレントにオーソリティがあるって話、聞いたことがあるかしら?」
「オーソリティ?」
俺は聞きなれない単語を聞いて、怪訝な顔をする。
すると、スターは淡々と説明を始める。
「同じタレントでも、オーソリティが異なるのよ。例えば、同じ剣術適性LV1でも、オーソリティは異なるから、厳密に言えばまったく同じタレントは存在しないの」
「概要は理解したが、肝心のオーソリティってのはなんだ?」
「そうね…優先順位とでも捉えて貰えれば良いかしら」
「優先順位?」
「ええ、例えば、剣術適性LV1を持っている人間が10人いるとすれば、オーソリティが1から10までそれぞれの人に割り振られるわ」
「ふむふむ」
「そして、オーソリティが1の人の方が、10の人よりも、タレントの効果が高いのよ。つまり、オーソリティの数値が低い人の方が、高いオーソリティを持っていると言えるわね」
「あー!聞いたことあるな!同じタレントでも、効力が明らかに違うって感触があるって話だろ?」
「ええ、その感触は事実で、同じタレントを所持していても、オーソリティに大きな開きがあるから、肌感覚でも効果に違いがあるのね」
「なるほど…」
「オーソリティの話は理解してくれたかしら?」
「ああ、オーソリティが高いほど、効果が高いってことだろ」
「ええ、普通のタレントであれば、その認識で間違いないわ」
「普通のタレント?」
「タレントの中には、ユニークタレントと呼ばれるものもあるのよ」
「何だそれ?」
「ユニークと言っても、所持自体は複数の人間でできるのだけれど、アクティブにできるのはオーソリティの数値が最も高い人だけね」
「つまり、オーソリティ1と2の人がいれば、1の人しか効果を発動できないってことか?」
「実質的には、オーソリティが2の人が最も高いのだけれど、認識はその通りよ。それで、ここからが本題なのだけれど…」
ここでスターは言い淀む。
かなり肝心な話になりそうなのだが…
「勿体ぶるなよ」
「ええ、ごめんなさい…ユニークタレントによっては、一定の範囲内に自分よりもオーソリティが高い人がいなければ、タレントの効果を発動できるものもあるのだけれど…」
スターはそう言いながら、俺を見つめる。
「…おいおい、まさか」
「私のスキルでは、クラッドは何もタレントを所持していないのだけれど…念のため、ステータスパネルで確認してもらえるかしら?」




