セーブ
「…つまり、帝国からの刺客は2人いて、そのうちの1人は帝国の将軍ということですか?」
シェリルはスター話を半信半疑といった様子だ。
「ええ、そうよ」
「信じられないですぅ!帝国の将軍がこんなところまでどうしてですか?」
「そこまでは分からないのだけれど…」
スターは俺の顔を見る。
まるでターゲットは俺みたいな仕草だが、帝国のお偉いさんに狙われる心当たりはまるでない。
「でも…スター様が嘘を言うとは思えないですぅ!むむむ!」
スターからの話は衝撃的だったらしく、唸り声をあげながら頭を抱えているシェリル
「シェリル、事情は話したわ。悪いのだけれど、少し離れててもらえるかしら」
「はぅ!2人で内緒話ですか?」
「そうよ…ほら!しっし!」
「ひどいですぅ…」
雑な扱いで除け者にされるシェリル
涙目と潤った声になりながらも、スターに言われた通り、少し離れた場所で待っててくれているようだ。
スターのシェリルの扱いには思うところもあったが、時間もないところだし、仕方ないのだろう。
そんなシェリルを置いて、ここからは俺とスターの内緒話だ。
「…だけど、そもそもさ、何で俺が記憶を引き継ぐようになったんだ?」
俺はそもそもの疑問をスターへとぶつける。
「私が知りたいぐらいだわ」
「うーん…?」
スターはため息混じりにそう答える。
自分のタレントなのに自分で理解していないのか?
「…これは推測なのだけれど」
「お?」
「私が殺されて時間が巻き戻ると、クラッドは記憶を引き継いでいる可能性があるわね」
「どういうことだ?」
「前回、私はスキルを発動させて時間を巻き戻したわ。すると、クラッドは前々回までの記憶しか持っていなかったの」
「なるほど…前々回は、お前が帝国の将軍に殺されて、体を乗っ取られたって話だったものな」
「ええ、前回と前々回…いいえ、これまでとの相違点はそこぐらいしかないもの」
スターはあくまで推測の域を出ないというスタンスで俺に説明する。
「…この能力のことは、スターのステータスパネルには詳しく書いてないのか?」
本来、タレントやスキルは、その詳細が自身のステータスパネルに名称と共に記載されている。そのため、効果そのものは理解できるのが一般的である。もっと言えば、このスターが自分の能力を理解しきれていないのが腑に落ちない。
「このタレントの入手経緯が特殊なのもあって、ファイナルスキルとして発動した際の効果は書いてないわ。そもそも、ファイナルスキル自体を所持していないことになっているもの」
「なかなかに妙だな…」
「貴方が記憶を引き継いでいること自体が一番の妙なのだけれどね」
「そうなのか?」
「ええ、今までで、私以外に記憶を引き継いでいる人は初めて見たわ」
「俺に何かのタレントが開花したとか、そういうことも?」
「…残念だけれど、貴方にタレントはないわ」
「そうか…ま、あまり期待はしてなかったけどな…あと、これはちょっと質問を躊躇うんだけど…」
俺が少し気まずい感じで尋ねると、スターはコクリと頷く。
「気を使わないでいいわ。気になることはなんでも尋ねて」
「…変な話、お前がこのタレントを手に入れてから、死んだことってあったか?」
「ええ、あるわ。これまでのすべての経験の中で、私以外に記憶を引き継いでいる人を見たことがないわね」
「…そうか」
「もっとも、今まで死んだことはそんなにないから、分かっていないだけの可能性もあるけれど、知る限りでは、他の人が記憶を引き継いでいるようなことはなかったわ」
「うーん…」
話を整理しよう。
スターにはトランザクションなるタレントがあり、同じ名前のスキルも同時に存在している。このスキルを発動させると、発動させたタイミングに時間を巻き戻すことができる。
そして、時間の巻き戻しは、自分でスキルを発動させた時以外にも、スターが命を落としてしまった時にも、ファイナルスキルとして自動的に発動される。
スターの言葉通りだとすれば、時間の巻き戻しが発生し、以前の記憶を保持できるのはスキル発動者本人だけらしい。この記憶の引継ぎが今のポイントであり、スターが殺されて時間が巻き戻ると、俺もその時の記憶を保持したまま時間が巻き戻る。スターが自分で時間を巻き戻すと、俺は記憶を引き継がないで時間が巻き戻る。
これが俺とスターとの間で、認識に齟齬が生まれる原因で最も濃厚な説である。
そして、俺だけがなぜか時間が巻き戻っても記憶が残っており、その理由は見当もつかない。
「それと、もう一つ、ここまで話しておきたいことがあるわ」
「ん?まだあるのか?」
「ええ、トランザクションのタレントには3つのスキルがあるわ。トランザクションそのものを開始するスキルと、ロードとセーブよ」
「どっちも聞きなれないスキルだな」
「ロードは時間を巻き戻すスキルよ。これは説明したわね」
「ああ、最後のセーブってのは?」
「ここと決めたところでスキルを発動させると、ロードする時に、決めた場所へ戻ってこれるのよ。ファイナルスキルで時間を巻き戻す時にも有効ね」
「ん?ロードってのを使うと、トランザクションを発動した時に戻るんだろ?トランザクションを終了させて、また開始させれば良いから、わざわざ別のスキルを発動する意味があるのか?」
割と、この世界のスキルってのには無駄がない。
わかりやすい例で言うと、似たスキルはあるが、同じ効果のスキルはないのだ。
「まず、トランザクションを終了させると、セーブを発動したところであっても、もう戻れなくなるのよ」
「なるほど…トランザクションを終了させた後で、問題が発生した時に、対処が難しくなるわけだな。それなら、ずっとトランザクションを継続させておけば良くないか?」
「それが、トランザクションは1週間以上継続させておけないのよ」
「わーお」
「それに、トラブルを頑張って片付けたのに、最初へ時間を戻して、もう1度トラブルを解決する。そんな想像してみて…どう?」
「絶対に嫌だな。なるほど、段々とセーブの意味が理解できてきたぞ」
「で、今ここでセーブを発動しておいたわ」
「…つまり、ロードを発動した時に、ここに戻ることも選択できるわけだな」
「ええ、時間なんか戻さないようにするつもりだけれど、もし、そうなってしまった場合は…」
「ああ、お前に任せるよ。というか、セーブってめちゃくちゃ便利だし、もっとガンガン使っても良いと思うぞ。お前が言うように、時間を戻さないようにするのが一番だけどな」
「いいえ、気持ちの面でもそうなのだけれど、セーブは1回のトランザクションで3回しか発動できないわ」
「…それほど、ここのタイミングが重要ってことか」
「ええ、ここから作戦がいくつかあるのだけれど、どれが最も有効なのか、やってみないと分からないのよ」




