真の刺客
俺はハッキリと覚えている。
スターは俺の両足を切断し、逃げられないようにした上で、何かを呟いてから俺に引導を渡していた。
「…」
俺がそんな前回の出来事を話すと、スターは心当たりがない様子で怪訝な顔をしていた。
「シラを切ろうとしているのか?」
「いいえ、本当に覚えていないわ…そもそも、あの時、刺客が姿を見せると同時に、私は殺されてしまっていたはずよ」
おそらく、黒い影が姿を見せた時の話だろう。
「待て、その後、その刺客とやらと誰かが戦っていたぞ。剣か何かわからないが、金属を打ち付けあうような音はしていた。戦っていたのはスターじゃないのか?」
「きっと、応戦していたのはシェリルね…ということは、あの子が刺客ではないということね」
スターはひとりで納得したような顔をしている。
だが、俺はますます何がなんだかわからなくなってきた。
「待て!シェリルって…あの子が戦えるのか?」
「ええ、あの子はゴーレムよ。それもアダマンタイト製のね」
「ゴーレム!?」
「その反応を見るのは何回目になるかしら…」
スターは億劫な表情を見せる。
もしかすると、過去の俺は、何度もスターに説明を求めていたのかもしれない。
だが、ま、今の俺は何も知らないのだから、そこは理解してほしい。
「な、何で、そんなもんがここに!?」
「最初から話しておいたほう…っ!」
スターが事情を俺に話し始めようとした時だ。
森の奥を急に見つめ始める。
俺も釣られて森の奥を見つめるのだが、どこにも異変を感じない。
「…そこにいるのは分かっているわよ」
しかし、スターは何かを捉えているようだ。
森の奥へと叫ぶと、木陰から修道服の少女が姿を見せる。
「はぁわ!見つかってしまいました!」
姿を見せたのはシェリルだ。
話題にあった刺客でも潜んでいるのかとドキドキしてしまった。
「…シェリルかよ、驚かせるなよ、もう」
「そ、そうです!シェリルですぅ!」
「あの子は?」
「ん?何言ってんだ?シェリルだろ?」
「クラッドさん!私ですぅ!」
「ね、どうしてコソコソとこちらの様子を陰から窺っていたのかしら?」
「喋る猫がいたからですぅ!」
シェリルはスターを見て驚いた表情でそう告げる。
「そうか…この時点じゃ、シェリルはスターのこと、知らないんだな」
俺も、こいつが喋った時には驚いたものだ。
「クラッド、迂闊なことは言わない」
「…ん?」
スターはどこか強張った顔でシェリルを見ている。
どういうことだ?
「ね…シェリル」
「は、はい、何でしょうか、喋る猫さん」
「クラッドと、会うのは今日が初めてよね」
「…そ、そうですぅ!」
「どうして、この人の名前を知っているのかしら?」
「さっき、クラッドさんと呼んでいましたよ!」
「あなたがそこに隠れている時から、シェリルがクラッドの名前を口にするまで、私はクラッドのことを名前で呼んでいないわよ」
「そういえば…確かにそうかもな…ん?待て待て!!シェリルもなのか!?」
「…」
「それに…私に何かしらの魔法を仕掛けようとしていたわよね?」
スターがそう問いかけると同時だ。
事態が急変する。
「…レジストフィールド!」
「マジックオフ!」
シェリルが地面を蹴り上げると同時に、全身から目に見えないナニカを放ったことが分かる。しかし、そのナニカをスターが発動させた魔法がかき消したようだ。
「な、なんだ!?」
「クラッド!私から離れないで!」
困惑している俺の前に立つスター
彼女が見据える先にいるのは、こちらを黙って見つめているシェリルの姿がある。
「…」
「ど、どうして!?シェリルが!?」
「…あの子であって、あの子ではないようね。色々とやり口が見えてきたわ」
「どういうことだよ!?」
「…シェリルは自立思考型のゴーレムよ。その思考は高度な術式によって組まれているのだけれど」
「ん?」
「その術式をうまくコントロールして、思考を奪っているのね」
「つまり…洗脳されているってことか?」
「ええ、その通りよ」
「そんなことできるのかよ!?」
「普通の人間相手に、その思考を強奪するのは無理ね。でも、ゴーレムのように、人間が作った魔術回路で思考して動いている相手なら可能よ」
スターの説明はざっくりとだが理解できる。確か、他人の魔術を奪うような魔法があるってことは聞いたことがあった。その応用なのだろう。
そして…
「ほう…何者かは知らないが、詳しいな」
「ええ」
当の本人が認めているのだから間違いないのだろう。
要するに、シェリルは洗脳されていて、その洗脳している奴が、俺達を殺したってことか。
ってことは、スターが俺を殺したのも、こいつに洗脳されていたってことか。ん?いや、普通の人間の思考は奪えないって…?でも、スターは猫か。
「前回、あれだけの間で、シェリルに何かあるって気付いていたってことか?」
「…いいえ、クラッドは覚えていないかもしれないけど、攻撃した犯人を捉える探知魔法がなぜかシェリルに向かっていったことがあったのよ、それが気掛かりだったわ」
「全く覚えていないけど、ま、事態は何となくわかった…で、シェリルを…助ける方法はないのか?」
「洗脳するためには、継続的に魔法を放ち続けないとダメね」
「つまり、魔道具の類があるってことだな」
「流石は、元武具店の店員ね」
俺はスターの対応方針を確認すると、何もできることがないため、邪魔にならないようにだけ意識を向ける。
そして、スターと刺客は目を合わせると、いきなり戦うことはせず、互いに互いの情報を引き出そうと会話を試みようとしているみたいだ。
「しかし、私の気配に気づくとは、褒めてやろう」
「過去問を解くようなものよ」
「その過去問とやらが何か、詳しく聞かせてもらいたい」
「話すと思うのかしら?」
「話すとは思えないが…話したくなるようにするのは得意だ」
と思ったけど、やっぱり戦闘になるみたいだ。




