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襲撃 パターンC



「魔法が使えない?」




 スターがかなり驚いた様子でそう呟くのを俺は聞き逃さなかった。

 つまり、シェリルがスターの認識阻害を見破ったのではなく、最初から認識阻害が働いていなかったのだろう。



「正確には使えなくなったわ」

「どういうことだ?」


「最初、認識阻害はしっかりと働いていた」

「だが、この子には…そうか、あれだけ普通に話していたのに、急に見つかったものな」



 この子に気付かれているのだから、認識阻害が有効に働いていなかった。

 そう捉えるよりも、最初は有効だったが、途中から解除されていると捉えるほうが正しいだろう。


 そもそも、堂々と姿を隠さずに普通の声で会話をしていたのだから、普通の人間であれば俺達の存在に最初から気付くはずだ。



「…解除というか、お前が魔法を使えないようにしたの、この子じゃないってことだな」

「察しがいいわね」



 シェリルが俺達の存在に気付いていなければ、魔法が使えなくなるナニカを俺達に仕掛けるというのはなかなかに考えにくい。そもそも、存在に気付いていないのだ。つまり、シェリル以外の誰から




「攻撃を受けているわ」

「そういうことになるよな」


「ええ…」



 スターは目の前でキョトンとしているシェリルを睨むように見つめる。




「ひぃ?ど、ど、どうしたんですかぁ?」

「攻撃を受けているわ」


「攻撃!?」

「ええ、見て…魔法が使えない」



 スターはそう言って前足を彼女へ向ける。

 それが何になるのかと素人目線では思うが、どうやらシェリルは素人ではないようだ。


 スターの言葉にシェリルがハッとする。




「…対黒魔法用の結界が働いていますぅ」

「そう、発動者の追跡はできる?」


「すでに100以上の術式を組んでいますが、どれもエラーになりますぅ」

「かなり高度な結界ね」


「いや、待て…この短時間で100の術式ってどういう頭してんだよ」

「この子は…いいわ、その話は後」


「ん?」



 スターは話題を切ってまで、俺にバンダナを渡してくる。

 反射的にそのバンダナを受け取るが




「何だ…これ?」

「口と鼻を覆うように巻き付けなさい」

「言われた通りにはするけど…」



 俺はとりあえずスターの指示に従ってバンダナを巻きつける。



「…私に魔法を使わせないようにしている相手、きっと、毒を撒いてくるはずよ」

「毒!?」


「ええ、そのバンダナは毒に耐性があるものよ」

「お、おう!」



 俺はスターに言われてバンダナの結びをキツくする。



「…だけど、魔法が使えない結界の中、こういう魔道具って意味はないよな?」

「いいえ、内部で完結している魔法は問題ないわ」



 スターはかなり厄介そうな表情で答える。



「ちなみに、お前はバンダナを巻かなくても大丈夫なのか?」

「ええ、私は大丈夫よ」


「この子は?」

「この子も同じく大丈夫よ」


「…ゼル達は?」

「…」



「やばいだろ!?村の人達も危ないかもしれない!」




 俺は慌ててゼル達のところへ戻ろうとする。

 しかし…



「迂闊に動かないで!」

「っ!?」




 俺はスターの叫び声に足を止める。

 しかし、俺を止める理由が正直理解できない。



「あいつらに警告しないと!何かヤバイ奴がいるぞ!って!毒なんて撒かれたら死ぬぞ!!」



「…相手は、すでに私達のことを補足しているわ。そんな中、ゼル達と合流することが得策だと思う?」

「うっ」



 俺はスターの言葉に冷静さを取り戻す。

 確かにその通りだ。ゼル達を巻き込むことにもなりかねない。




「すまん」



 俺はそう言ってスター達のところへ戻ろうとした瞬間





「っ!?」




 目の前に黒い影が降り立つ。

 遅れて鮮血が舞う。



 そして、激しい衝撃波が全身を貫いた。










…世界がグルグルと回った後で、世界がグルグルと回っていたことを思い出す。

 そして、続くのは激痛だ。





「ぐっぇ!!」



 俺は太い木の幹に背中をぶつける。

 どうやら衝撃波で吹き飛ばされていたようだ。


 痛みが脳を支配し始める。



「がぁぁ…っ…っ」



 背骨が折れたみたいな激痛が全身を駆け巡り、声を出すなんてもっての外で息をするだけでも激痛が脳を焦がす。


 だが、何が起きたのか把握すべき事態だ。

 スターは!?シェリルは!?




「…っ」





 手は動く。

 足も動く、折れてない。


 起き上が…れる。




「…っ」




 俺は目の前を見つめると、金属と金属を激しく打ち付けあうような音が響いてくるのが聞こえる。どうやら、スター達は何者かと戦っているようだ。




「…」




 俺が行ったところでどうにかなるわけない。むしろ、足手まといになるだけだ。あそこから、かなり吹き飛ばされてしまったため、こうして待っていた方が邪魔にならなくて済むだろう。




「…」



 俺はそう考えると膝を下して地面に座り込む。




「いてぇ…」




 幸い、背中に背負っていた荷物が衝撃を吸収してくれたのか、骨は折れていない様子だ。

 痛みも段々とマシになってきており、動き回るのはキツイが、動けないこともなさそうだ。




 そんな風に、まずは自分の状況を整理していると…




「止んだ…」




 森の奥から響いていた戦闘音が急に鳴り止む。

 どうやら戦いが終わった様子だ。




「…」



 俺はいつでも動けるように立ち上がる。

 スターが負けるはずがないという謎の信頼があるためか、ここから逃げようという選択肢はなかった。



 だが、それは正解だったようだ。




「スター!?」



 森の奥から白銀の猫が歩み寄ってくる姿が見えた。

 しかし、シェリルの姿はないようだ。




「スター!?シェリルは!?」

「…殺されてしまったわ」


「く…そ…?ん?あれ?」



 俺はハッとする。

 気づけば地面に倒れて、空を仰ぎ見ていた。




「が…がぁあああああっ!?」


 そして、下半身から激痛が脳まで押し上ってくる。




「あ、足ぃ!?足がぁっ!」




 俺の両足は見事に切断されており、膝から下が直立不動のまま残っていた。

 その上にあった俺は、当然、こうして空を仰ぎ見ながら倒れることになっている。



「がぁ…っ」



「大した力はないようだな」

「…っ!?」




 スターがそういうのを最後に、俺の視界は真っ暗に染まる。







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