異変 パターンC
「大佐…私だ」
赤い森の中、女性の声だけが木霊する。
そんな漆黒のローブに身を包む彼女は片腕で大人の男性を抱えており、片方の腕には水晶が握られていた。
「はっ!」
「対象は確保した。これより帰還する」
「はっ!この度は、対象の確保だけでなく、こちらの任務へのご協力、感謝いたします!」
「気にするな。陛下もお喜びである。大儀であったぞ」
「はっ!」
「…しかし」
「閣下?」
漆黒のローブの女性は空を見上げる。
「…ま、いい。周囲の調査の依頼が王国か教会から出るはずだ。それをノエルが受けるように調整しろ」
「はっ!せめて、後処理だけでも、我らにお任せください」
「うむ。頼んだぞ」
「はっ!」
漆黒のローブの女性は通信を終えると、片腕にクラッドを担いだまま、パっとその場から姿を消してしまった。
その後…
クラッドの姿を見たものは誰もいなかった。
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「お前らは先に村へ行っててくれ!!」
村へ向かう途中、スターが勝手に飛び出して、森の中へ進んでいってしまった。
何やら考えがあってのことだろう。
「お前を置いて先には進めねぇ!!くそ!!あー!ここで少し待ってるぜ!」
「すまん!すぐに戻る!」
ゼルから強引に許可を得て、そのままスターが待っているであろう森の中へと進んでいく。
おそらく、スターは俺と内緒の話でもあるのだろう。そんな俺達の事情に巻き込んでしまってすまないと思いつつ、感謝しつつ、森の中を少し進む。
すると、俺の目の前にピョンっとスターが姿を現す。
「おわ!驚いた!!」
どこかで俺を待っているだろうとは思ったが、生い茂る木々の中から飛び出されると、流石に驚く。
「クラッド、伝わったみたいね」
「ああ、俺と内緒話がしたいんだろ?」
「ええ…その前に、会わせたい人がいるわ」
「会わせたい?」
匿っている体になっているスターが、俺に会わせたい人がいるってことは、こいつの事情と何か関係があるのだろうか。普段、かなり助けてもらっているから、俺が力になれることなら協力したい。
「わかった」
俺は素直にコクリと頷くと、俺の返事を聞いたスターはスタスタと森の中へと入ってく。
森の中をスターと一緒に進んでいくと、やがて、木の陰でコソコソとしている金髪の修道女がいることに気付く。
そんな彼女を見つけると、スターは足を止める。そして、小声で何かを呟いていた。
邪魔してはいけないと思って、俺も足を止めて黙って待っていると、すぐにスターが俺に話しかけてくる。
「…話しても大丈夫よ」
「あ、ああ…」
俺は何となく彼女に見つからないように静かにしていた方がよいと思っていたのだが、そうでもないようだ。
「えっと、会わせたい人って彼女のことか?」
「ええ、そう」
「…何で、ここでこうしてただ待っているんだ?」
「少し彼女を観察したいの」
「…ま、確かに美少女だが…そんな暇はないだろ?」
「いいから」
「あー、はいはい。てか、こうしていれば、いずれはあの子に気付かれないか?」
「認識阻害の魔法をかけてあるから大丈夫よ」
「なるほど…だけど、何か、こうして少女を陰から覗くって、なんか犯罪者みたいだな」
「…あっちは、ただの少女じゃないから安心して」
俺とスターがそうして修道服の少女の様子を見ていると…
「むむ!?そこにいるのは誰ですぅ!?」
急に修道服の少女が叫び始める。
その視線は間違いなく俺達へ向けられていた。
「バレてるぞ」
「…」
スターは周囲を見渡す。
俺も一緒に周囲を見渡すが、他に誰もいる気配はない。
いや、達人が潜んでいたら、俺なんかじゃ分からないけれど…
「誰もいないわね」
スターがそういうのであれば、やはり他に誰かが潜んでいるなんてことはないようだ。
「…ってことは、やっぱり、バレてるぞ」
「いいえ、私の認識阻害の魔法は完璧よ」
「…」
しかし、それでも頑なに現実を受け入れようとしないスター
そんな彼女へ、修道服の少女がバレていることを叩きつける。
「ね、猫が喋ってますぅ!?」
「…」
「間違いなくバレてるぞ」
「そんなはずはないわ…シェリルが私の魔法を看破できるはずが…」
スターはどこかガッカリした様子で項垂れながら、こちらへ歩み寄ってくる修道服の少女を見つめる。
「久しぶりね」
「そ、その声は!?」
怪訝そうに俺とスターを見ていた少女だが、スターの声を聴いた瞬間、ハッとして驚きを隠せない様子だ。
「ご無事だったんですね!!プ「名前は言わない!!!」
そして、少女が続く言葉を、大声で遮るスター
「…お前の知り合いだったんだな」
「姿が変わっているから最初は気付かなかったけど、少しだけ一緒に冒険したこともあるわ」
「へぇ…姿が変わってる?どういうこと?」
俺は怯えているシェリルの様子を見つめる。もしかすると、激しいイメチェンをした末の格好なのだろうか。
そうとうスターに委縮しているようだ。上下関係はかなりハッキリしているのだろうと察する。
「私の認識阻害を見破るなんて、腕を上げたわね」
「認識阻害?」
「ええ…」
シェリルがきょとんとした顔を見せる。
まるで認識阻害なんて存在していないと言わんばかりだ。
「…そんなはずは」
すると、異変に気付いた様子のスターは顔を引き攣らせる。
「魔法が…使えない?」
そして、不穏な言葉を呟くのだった。