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赤い森



 シェリルがスターを探すと言い始めてから、ドロドロに溶けた真っ赤な景色が広がる森の中を進んでいく。このバンダナさえあれば、森の中に何時間と居ても平気なようだが、太い木々が毒に侵されてドロドロに溶けている姿を目の当たりにすると、本当に大丈夫かと疑いたくなるような不安がこみ上げてくる。



 それにしても、毒の広がりは凄まじい。

 この辺り一帯に毒が広がってしまっており、おそらく、依頼を出した村にまで被害は及んでいるだろうとのシェリルの見解であった。



 この毒を散布した犯人の狙いは、目撃者の処分だ。

 つまり、まだ息をしている俺とシェリルがターゲットである以上、まだどこかに潜んでいる可能性が高い。さらに言えば、犯人は短期決戦を考えているはずであるため、探さなくても向こうから俺達を襲撃するために、その姿を見せるはずだ。ならば、襲撃に備えてやらなければならないことは、スターと合流することであろう。



 毒を使って関係者をまとめて処分した都合上、ベグマが事態を発見するのにそう時間はかからないはずだ。ベグマから調査員が訪れるのを犯人は良しとしないはずであるため、それまでに片付けたいと考えているのであろう。


 俺達がスターと合流するのが先か、犯人が俺達を殺すのが先か。

 そんな戦いである。スターがいれば何とかなるという確証はないけど、何とかなりそうな気はどことなくしてくる。




「…この毒を撒いた犯人は、俺達が生きていることを知っているのか?」



 これほどの殺傷力を持つ毒だ。

 生き残っているものなどいないという気持ちが前に出るはずである。


 いや、だが、相手はプロか。そんな油断はしてくれないはずだ。生き残りがいないかは念入りに確認するだろう。


 だが、生き残りがいるのを知っていて探すのと、生き残っている者がいないか探しているのでは、探し方のモチベーションが異なるだろう。


 前者では目撃者を残さないよう虱潰しにしてくるだろうから、隠れるよりも逃げる方が効果的だ。後者であれば隠れるのも手である。



 俺のそんな言葉の意図を汲み取ったのか、シェリルは残念そうな顔を俺に向ける。



「はい。ゼルさんの持ち物を調べた形跡がありました。持ち物はそのままにしていましたが、バンダナが無くなっていることには気づいているはずですぅ」


「あー…これか」

「はい、ゼルさんの持ち物からバンダナがなくなっていれば、犯人は生き残っている人間がいないかどうか確認はするはずですぅ」


「そりゃ、そうか」

「でも、生き残りがいるかいないかに関わらず、殲滅的な方法を選んできそうですぅ」

「…迷惑野郎だな」


「っ!?」



 そんな時だ。

 急にシェリルが足を止める。そして、すぐに緊張感が漂い始める。



「…」


 俺も思わず無言になりながら、目だけ動かして周囲を探す。



「いますぅ」

「っ」



 そう小声で呟くシェリル

 どうやら、犯人に補足されてしまったようだ。



「…あそこです!」

「ん!?」



 シェリルが叫ぶと同時に、パッとその姿が真っ赤な景色の奥へと進んでいく。彼女が追う先には、黒いローブを頭から覆っている謎の人物がいた。



「おい!!」

「クラッドさんはスター様を探してください!私は犯人を捕まえますぅ!!!」


「あ…ああ!!」






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「全然…いねぇ」



 俺は少し息を切らしながら呟く。

 シェリルが犯人を追いかけてから数十分は経過したのだが、いまだにスターはどこにも見当たらなかった。確かに、小さな猫であるため、ドロドロに溶け切った森の中でも、その姿を見つけるのは一苦労なはずだ。



「くそ…こんな時に…どこに?そもそも…無事なのか?」



 スターなら何となく大丈夫だろうと思っていたが、こうまで姿を現してくれないと、だんだんとその安否も不安になってくる。シェリルの話であれば、スターほどの存在であれば、この劇毒ですら問題にならないそうだ。とはいえ…



「いや…信じよう…」



 俺は後ろ向きな考えを捨て、再びドロドロに溶けた森の中を進んでいく。


 すると…




「ん?」



 俺の目の前には、金髪の髪を揺らしながら歩いているシェリルの後ろ姿が見えた。


 俺はそんな彼女へ向かって小走りで進んでいき、距離が近づいてくると、叫んで呼びかける。




「おーい!シェリル!」



 俺がそう叫ぶが、彼女はハッとした様子でこちらへふり返る。


 後ろから呼びかけたせいか、驚かせてしまったようで忍びない気持ちがこみ上げてくるのだが、それよりも気になることがあった。



「おーい!犯人は!?」

「…」



「シェリル?」

「はい、取り逃してしまいましたぁ」



 シェリルは残念そうに項垂れながら言う。

 どうやら犯人を見失ってしまったようだ…


 ってことは!!

 単独行動していた俺!

 めっちゃヤバかった!?



「…あははは」


 そんなことが脳裏に過ったため、不安が後からこみ上げてきて、乾いた笑いが出る。こうして無事なのだから良しとしよう。




「俺もさ、スターが全然、見つからなかったよ」

「…そうですか」



 シェリルは一瞬だけ怪訝な顔を見せると、残念そうに頷く。

 まるでスターのことが分からないようだが、それを取り繕うような印象だ。




「…」



 俺は少し後退りをする。

 わからないが、わからないけど、何だか、シェリルから嫌な気配を感じていた。


 俺の勘違いかもしれない。言いがかりレベルの根拠だけど。




「…シェリル、お前、何か様子がおかしくないか?」







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