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あっけない幕引き




 シェリルが筋肉魔法とやらで銀色のコボルトの黒魔法を粉砕させていた。

 冷静に考えれば、シェリルはゴーレムであり、魔力を吸収する特性があると言われている霊石アダマンタイト製なのだから、その特性が効いたと考えるのが妥当だろうか。



「ふふーん!」



 シェリルは様々なマッスルポーズをしながら、俺にドヤ顔を向けてくる。

 



「…ま、野暮か」



 俺は自慢気にしているシェリルへ、筋肉魔法は関係ないだろうと重ねて口にしても仕方がないと考えた。

 ポーズの数々は少しウザいが、窮地を助けてもらったのは事実だ。

 だが、何故だろう。助けてくれて、ありがとうと言いたくないのは…




 というよりも、そんなことを話している状況では一応なかった。

 銀色のコボルトの魔法を防いだだけで、状況に変化が生じたわけではない。俺達は相変わらず無数の変異種のコボルトに包囲されているのだ。



「…これだけ隙だらけだったのに、動きがないな」

「ビビってますねー!」



 俺は周囲を包囲するコボルト達を見渡す。

 誰もがポカーンとしており、肝心の銀色のコボルトですら思考が停止している状況だ。



「ま…拳で魔法が粉砕されれば、そんなリアクションにもなるよな」

「はい!コボルト達は筋肉魔法に圧倒されているようですぅ!」


「うん、そうだね」



「それよりも…コソコソと隠れていないで!出てきてください!」

「ん?」


 そんな時だ。

 シェリルが誰も何もない空間に向かって叫び始める。



「木陰に誰かいるの…いる!?」



 すると、スーっと、虚空から人の輪郭が浮かび上がってくると、やがて軽薄そうな男が姿を現す。



「…」



 軽薄そうな男は顔面が真っ青で絶望感に支配されているような印象で姿を現す。ずっと隠れていたのだから、味方ではないだろう。というか、コボルトに混ざって、何で人間がいるんだ?





「観念してください!」



 シェリルが軽薄そうな男へビシッと人差し指を向ける。



「…ぐぅ」

「洗いざらい話してもらいますぅ!」



「えっと、何が何だかわからないんだけど…」



 俺はシェリルへそう問いかけるものの、やはり、俺は蚊帳の外のようだ。

 ま、事態が終息するのを待とう。




「素直に降参すれば!命だけは取りませんよ!」

「…お、お前らに捕まったら最後!ここで死ぬか、後で死ぬか、その違いしかないだろ!?」


「むむ!」



 軽薄そうな男性の言葉に、シェリルは眉間にシワを寄せる。

 こいつが言葉に詰まるってことは、この男、シェリルに捕まったが最後、死刑か何かになるってことか…



 ってことは、この男、何としても逃げようとするだろうな。



「くそ!!これ以上!俺に近づいたら!!爆発させるぞ!」




「…あー、やっぱり、そういうのあるよな」



 軽薄そうな男性は、手のひらに隠していた魔石を取り出す。

 目に見えない力的なはずの魔力が、何かすごい技術で物質になったものが魔石であり、臨界状態になると、ちょうど、あんな感じで真っ赤な光を放ち続ける。


 そう、あんな感じで真っ赤な光をピカピカと…




「うおっ!!!本物!?」



 俺は思わず尻もちをついてしまう。

 慌てて立ち上がるとする中、シェリルの緊張感のない声が響く。




「わー!すごい!大きいですね!」


 小石ぐらいの大きさなのだが、あれでとんでもない魔力量を秘めているそうだ。

 シェリルの反応は当然と言えば当然だろう。いや、待て、目の前で大爆発を起こそうとしているんだ。その緊張感のない反応は当然じゃないぞ。




「おいおいおいおいおい!!!何で悠長にしてる!?魔石が爆発したらヤバイだろ!?…ヤバくないの?」



 あまり真剣さがないシェリルの反応に、もしかしたらと淡い希望がこみ上げてくる。



「いいえ!この辺り一帯が吹き飛びますぅ!」




 俺の希望を打ち砕くように、平然と言ってのけるシェリル

 いや、それなら、こいつはどうしてそんなに余裕そうなんだ?




「…お前がいれば大丈夫な感じか?そうだよな?」



「まさか!あの大きさだと…きっと、山のカタチが変わっちゃうどころの話じゃないですぅ!この辺りに大きな穴ができちゃうぐらいの爆発ですぅ!流石に無理ですよ!もう!えへへ!」



 シェリルは照れながら答える。

 いやいや、まったく褒めてないんだけどぉ!?




「え、お前…っあ?」




 そして、世界が真っ白に染まる。







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「がぁああっ!!離せ!!離せっ!」


「はいはい!暴れないでください!」


「…え?あ、あれ?」



 俺は目が眩んで動けないでいると、真っ白に染まった世界の中で、複数の男性の声と共にシェリルの声が響く。そして、キーンっと耳鳴りがする中、何だか物騒な物音も聞こえてきていた。



「…ぐ…目が…見えな…い」



「はーい!次の方ー!?」



「くそ!!メグメルド!!」

「ダメだ!置いて逃げっ・・・がぁ!!」


「お次はあなたですね!はいはい!!ほい!」


「ホワット!?くそ!!」


「はーい!次の方ー!?逃がしませんよぉ!!」

「うおおぉおおおお!!」


「とう!!」

「がぁああっ!!ぎゃぁつ!!」



「ふぅ!一仕事終えましたぁ!」




「…ん、あれ?」


 段々と、世界が色と輪郭を取り戻してくる。

 すると、地面に3人の人影が転がっている姿と、シェリルが俺の方に向かって歩いてくる姿が見えた。



「…クラッドさん、大丈夫ですぅ?」

「ああ…目も回復してきた」

「良かったですぅ!」


「ま、魔石は!?ば、爆発は?どうなったんだ!?おい!!」

「お、落ち着いてくださいぃ!」


「お、落ち着いてって!何がどうなって!?」


「まず、あの魔石は!爆発に見せかけて、こう!パーっと光が出てくるやつですぅ!だから、へっちゃらですよぉ!」



 シェリルの態度は、あらかじめ偽物だと分かっているような素振りだ。



「…お前、気付いてたな」

「はい!」

「何で教えてくれなかったんだよ!?めちゃくちゃビビったぞ!」


「てへへ、クラッドさんがビビっている姿が面白くて!つい!」



「…意外と性格悪いな、お前」






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