打ち合わせ
俺はスターに連れられて森の中へ進んでいくと、そこには金髪の美少女がいた。
修道服に身を包み、明らかに教会関係者のようだ。
「…何で、こんな山奥に?」
俺はそんな修道女を怪訝そうに見つめていると、俺達の気配に気づいたのか、少女は俺達へ笑顔を向けてくる。
「お待ちしてましたぁ!」
ブンブンと片手を振るう少女
口ぶりから、俺に会わせたい人ってあの子か?
「そうよ」
「また、俺の心を読みやがったな」
「流石の私も、そんな力はないわね」
「…」
ま、そんな表情をしていたのだから、読心術がなくてもわかったのだろう。
さて、どんな話になるやら…
「シェリル、後は、打ち合わせ通りにお願いね」
「はい!了解でありますぅ!」
「…打ち合わせ?」
どうやら、俺に会う前に、2人で何か相談していたみたいだ。
え、どういうこと?
「クラッド、コボルトの討伐はこの子にお願いしたわ」
「…ん?どういうこと?」
「任せてください!」
「…いやいや、状況がまったく分からないんだが!?」
何がなんだか分からない俺に、スターが端的に説明を始める。
「この山にいるコボルトは変異種で、数は100から200、変異元の種族レベルは5相当よ」
「えっと…ん?種族レベル5!?」
「だからシェリルにお願いするわ。この子はこれでもブログ教の司教だから、種族レベル5程度ならワンパンよ」
「えっへん!」
俺はスターに言われてドヤっているシェリルを見る。
どうみてのただの修道女であり、強そうにも、偉そうにも見えないのだが…
「この子、ゴーレムよ」
「ぶっ!!」
疑わしい目でシェリルを見ていた俺に、スターが彼女の正体を暴露する。
「ゴ、ゴーレム!?」
「そう、自立思考型ゴーレム タイプX 確か、それが正式名称だったかしら」
「タイプXXになりました!タイプXを超えるゴーレムなので!タイプダブルエックスなのですぅ!博士の最高ぅ!傑作なのですぅ!アダマンタイト製のボディになったので、とーても頑丈なのですぅ!」
そう言って胸をゴリラみたいに叩き始めるシェリル
確かに、少女から鳴ってはいけないようなゴツイ音が響き渡る。
「…嘘だろ、ゴーレムが司教って大丈夫なのか?」
「ええ、あの聖女の直属だから、拳で語れれば大丈夫なんでしょう」
「あー?いや?聖女と拳がまったく繋がらないんだけど」
「とにかく!この子がいればコボルトの方が何とかなるわ」
スターは強引に話をまとめる。
まぁ、こいつが言うのであれば事実なのだろう。確かに、ブログ教の司教は誰もが達人級と聞くから、種族レベル5ぐらいの魔物なら何とかしてくれそうだが…
「ん?スター?」
俺はシェリルの力を借りることに納得していると、そんな俺を見て、スターがスタスタとどこかへ去ろうとする。
「どこへ行くんだ?」
「私は私でやらないとならないことがあるわ。だから、コボルトのこと、お願いね」
「あ…ああ」
「はい!任せてください!プ…スター様!」
そう言って森の奥へ去っていこうとするスターだが、何かを思い出したかのように立ち止まると、俺達の方へスタスタと戻ってくる。
「肝心なことを忘れていたわ」
「肝心なこと?」
「ええ、これ」
そう言って、スターは目の前にポンっと2つのバンダナを虚空から取り出す。どうやらアイテムボックスに格納されていたアイテムのようだ。
「これは?」
「おまもりよ」
「おまもり?」
「ええ、一つは…そうね口と鼻を覆うように着けて、もう1つは腕にでも巻いておきましょうか」
「…ああ、ま、言われた通りにするが、何のご利益があるんだ?」
「安全祈願、災厄除け、そんな感じかしらね」
おまもりを渡すことが肝心なことか?
何かありそうだな、このバンダナ…
言われた通りにしとこ。
それにしても…
「なんか、今日のお前、少し変だぞ?」
「後で色々と…わかるわよ」
スターは歯切れが悪い様子で言う。
そもそも、こいつの別件が何なのかすごく気になるが、あまり立ち入ってほしくなさそうな感じだな。
「とにかく、俺は俺のできることをやるよ」
「ええ、それじゃ」
=================================
=================================
「ライトニング エックス」
銀色のコボルトは呪文を唱え始める。
まさか、黒魔法か!?
「クラッドさん!下がっていてくださぃ!」
圧倒されている俺の前に、スッとシェリルが立ちはだかる。
「あ…ああ!!」
邪魔にならないようにと、かなり後ろに下がる間、銀色のコボルトは構わず詠唱を続ける。
「ドローイング ライトニング」
銀色のコボルトは電撃を身に纏う。
間違いなく精霊の召喚に成功しており、明らかに空気が重くなったのを感じる。
そして、銀色のコボルトが俺の前に立つシェリルをギロリと睨むと、すぐに真打の黒魔法を発動させる。
「エックス サンダーフレア!」
バチバチと稲妻が迸ると同時に、周囲の色が紫色に染まる。
そんな膨大な魔力の塊を前に、シェリルは…
「その程度!!拳でどーん!ですぅ!」
シェリルが拳を突き出すと同時に、周囲の色がパッと元に戻る。あれだけ重たく感じた空気も、すっかりと軽くなっていた。
そして、周囲のコボルトは全員がポカーンとしており、事態が飲み込めない様子だ。
「え?えええぇぇ!?」
俺もリアクションがワンテンポ遅れる。シェリルが強いことは聞いていたけど、まさかパンチで魔法をかき消すとは想像もしていなかった。
「聖女様直伝のマッスル⭐︎マジック⭐︎パンチですぅ!」
俺の前でポーズとドヤ顔を決めるシェリル
「何だそれ?筋肉魔法ってことか?」
「筋肉属性の魔法ですぅ!」
「そもそもゴーレムのお前に筋肉はねぇだろ!?」