友情?
「…ゼル?」
俺は背後をふり返ると、そこには斧を振り上げているゼルの姿があった。その刃先は、シェリルではなく、間違いなく俺に向けられて煌めいていた。
「…っ!」
次の瞬間、甲高い音が響き渡る。
鉄と鉄を重く打ち合ったような音だ。
「何をボーっとしているんですぅ!?」
俺の前の前には、両腕をクロスさせて、ゼルが振り下ろした斧を防いでいるシェリルの姿があった。
「ちっ!」
ゼルは舌打ちを鳴らすと、その姿がスーッと消えていく。
姿が消えた後の虚空をシェリルの回し蹴りが通り過ぎていく。
「っ!」
シェリルは蹴りをゼルに避けられたことで危機感を抱いたのか、地面を蹴り、すぐに部屋の奥まで移動する。そして、着地するや否や、すぐに魔法を発動させる。
「サーチ!」
シェリルを中心に円が広がる。
しかし、そのただ広がっていく円を見つめているシェリルの顔が段々と神妙になっていく。
「…気配が…ないですぅ」
円は村の奥にまで広がっていく、しかし、シェリルは手応えを感じていなさそうな表情を浮かべ、そう言いながら周囲を見渡している。
「消えた…のか?」
「そう遠くには行けていないはずなのですぅ」
俺の問いかけに怪訝な顔で返事をするシェリル
「そもそも、どうして私はここに?あなたは誰なんです?」
「は?お前は急に何を聞いてくる?」
「状況がうまく飲み込めてないですぅ」
「状況?そんなもんは俺が知りてぇよ!!」
混乱しているのは俺も同じだ。なんでゼルが俺を襲う?何が起きてる?
「兎に角だ。スターが言ってた刺客ってのはあいつのことだな」
「スター?」
「スターはスターだよ」
「誰ですか?」
スターはシェリルのことを知り合いだと言っていた。しかし、当のシェリルは知らない様子だ。もしかすると、スターという名前が偽名なのかもしれない。
「あー…ややこしいなぁ」
「それに、どうして刺客のことを知っているんです?」
「お前が俺にペラペラと話してただろ!?」
「え!?」
俺はシェリルのリアクションにむず痒さを感じて頭を掻く。
そんな時だ。
彼女の影がゆらりと不自然に揺らぐ。
「…っ!シェリル!!後ろだ!!」
俺が影に気付いて叫ぶと同時に、シェリルの背後にゼルがスっと姿を現す。
すでに両手で斧を振り下ろしている途中であり、その重たい刃先は、間違いなくシェリルの頭頂部を砕こうとしていた。
しかし…
「がっ!!」
ゼルの振り下ろした斧が跳ね上がる。
遅れて甲高い音が再び部屋中に木霊した。
斧が頭部に命中したのにも関わらず、ケロっとしているシェリルは、そのまま背後へふり返り、落ち着いた動作で拳を構える。
「っ!!」
体勢を崩したゼルに、シェリルから放たれる拳は避けられないだろう。
だが、俺は…
無意識に、そんなシェリルとゼルの間に飛び出していた。
「な!?」
俺が飛び込んでくることに気付いたシェリルは慌てて拳を止めようとする。
「…っ!」
シェリルの拳は俺の鼻先で止まる。
しかし…
「がっ!!」
脳内でトマトが風船のように破裂する音が響く。
視界が真っ赤に染まると、俺の意識は真紅に染まっていく。
真っ赤な世界が、だんだんと暗くなっていく、黒くなっていく。
そして、完全なる闇が訪れると、俺の意識はプツリと途切れた。
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ミンクフィールドを抜け、山道を進んでいくと、やがて奥に見える景色から長閑な村々が見下ろせるようになる。
「うわー…!」
「す、すごい…わぁ!」
ライトとチェルシーが感動した様子で高いところから見下ろせる景色に感動していた。
これこそ冒険の醍醐味だよな。分かるぞ。
「さ、いくぞ、ここからは山を下りることになるから、足元に気を付けろ」
「はい!」
「あ、はい!」
俺はライトとチェルシーの肩を叩いて急かす。
少し急がなければ、村に着くのは夕暮れになってしまう。
「ん?」
そんな時だ。
俺の肩からスターがピョンっと飛び降りると、スタスタと森の奥へと駆けていく。
「お、おい!!!」
俺は慌ててスターを追いかけると、そんな俺をゼルが呼び止める。
「待てクラッド!!どこへ行きやがる!?」
「ス…猫が森の奥に行っちまった!!悪いが先に行っててくれ!」
「馬鹿野郎!俺は護衛だぞ!!そんなわけに行くか!」
ゼルは俺について来ようと森の中へと進み始める。
そんなゼルへ俺は叫び返した。
「ライトとチェルシーを森の中に入れさせるわけにはいかないだろ!?だから!先に行っててくれ!」
「がぁあああ!!勝手しやがって!!」
「悪い!!」
「お前を置いて先には進めねぇ!!くそ!!あー!ここで少し待ってるぜ!」
「すまん!すぐに戻る!」
ゼルから強引に許可を得て、そのままスターが待っているであろう森の中へと進んでいく。
おそらく、スターは俺と内緒の話でもあるのだろう。そんな俺達の事情に巻き込んでしまってすまないと思いつつ、感謝しつつ、森の中を少し進む。
すると、俺の目の前にピョンっとスターが姿を現す。
「おわ!驚いた!!」
どこかで俺を待っているだろうとは思ったが、生い茂る木々の中から飛び出されると、流石に驚く。
「クラッド、伝わったみたいね」
「ああ、俺と内緒話がしたいんだろ?」
「ええ…その前に、会わせたい人がいるわ」
「会わせたい?」
匿っている体になっているスターが、俺に会わせたい人がいるってことは、こいつの事情と何か関係があるのだろうか。普段、かなり助けてもらっているから、俺が力になれることなら協力したい。
「わかった」
俺は素直にコクリと頷くと、俺の返事を聞いたスターはスタスタと森の中へと入ってく。