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刺客の正体




 俺は周囲を見渡す。

 気づけば、村人達も、周囲の木々と同じように真っ赤なドロドロの液体上に変質していた。


 皆の変貌した姿を目にすると、脳裏にライトとチェルシーが苦しんでいる姿が想像される。




「ちくしょう!!」

「待て!」



 俺はライトとチェルシーを助けるために走り出そうとするが、ゼルがそんな俺の肩をガッと掴む。



「っ!」

「…もう手遅れだ」


「どうして!?まだ助かる見込みはあるだろ!?」


「俺達はこのバンダナがある…だがな…他の連中はそうもいかねぇ!!」



 ゼルはそう言って口元を指で示す。

 どうやら気休め程度のバンダナではなく、ある程度の耐毒性はあるようだ。



「っ」

「今は一刻も早く!ここから撤退だ!ベグマに応援を求めるべきだぜ!」

「そ、それは…」


「この毒が…ベグマにでも使われてみろ!!大勢の人が殺されるぞ!」

「ぐ…」


「これ以上の被害を食い止めるためにゃ俺達は生き残らなきゃならない!違うか!?」

「それは…そうだが!?」


「俺達にどれだけ時間が残されているかはわからねぇ!一刻の猶予もないかもしれねぇ!酷なことを言うが、今はとにかく逃げるぞ!!」

「…」


「それが一番の仇討ちだろ!?」

「…」



 俺は何も言えなくなると、そんな押し黙った俺へ、ゼルは肩へ手を置いてから言う。



「わかってくれ」

「…ああ」



「しかし、まさか、コボルト連中が、こんなものまで使うとはな」



 ゼルはこの毒がコボルトの仕業だと思っているようだ。

 確かに、事情を知らず、賢い変異種とだけの認識であれば、コボルトの仕業に見えてしまうだろう。


 だが、実際は…違う!




「…くそ!くそ!!」

「おい!クラッド!?」



 俺はゼルの手を振りほどいて小屋へ戻る。

 すると、そこには目を開けて伏せているシェリルの姿があった。つまり、こいつは起きてたってことだ。





「シェリル!?」




 俺は彼女が起きていることを確認すると、その胸ぐらを掴んで起き上がらせる。かなり重たいのだが、そんなことにも頭が回らないぐらいの力を込めて、俺は彼女を引っ張り上げる。




「お前!?お前がやったのか!?」

「…違いますぅ」



 シェリルはそう言うと、急に俺の顔を険しい表情で見つめる。正確には、俺の顔というよりも、俺の口元に視線が行っているようであった。



「違う!?じゃ、誰がこんな真似を!?」

「あなたが…あなたが1番よく知っているんじゃないですか?」


「何だと!?」


 シェリルは悲しそうな瞳に怒りの炎を滾らせて俺を見つめる。そんな彼女の瞳に、俺は思わず口を閉ざす。まるで俺が毒を撒いたとこいつは思っているような反応だ…


 それは勘違いなどではなく…




「…何の罪もない人たちを…どうして殺したんですか?」


 シェリルは、俺が感じたことをそのまま言葉に乗せる。しかし、それはあまりにも耐え難い言葉だった。



「何を言う!?お前!!何言ってんだ!?」



 俺は再びシェリルの胸ぐらを掴んで揺さぶる。

 そんな俺に動じずにシェリルは言い放つ。



「シラを切らないでください」

「ああ!?何なんだよ!?お前は!?」


「この毒…かなりの劇毒ですぅ」

「そんなこと!わかってんだよ!!」


「どうして…そんなものを着けているんです?」

「何!?そんなもの!?」


「はい…その口と鼻を覆っているバンダナは対毒耐性のあるものですよね?」

「だからどうした!?」



「毒が撒かれるって知っていなければ、そのバンダナ、おかしいですぅ」

「冒険者だ!!備えぐらいするだろ!?」


「この毒は特殊です。汎用的な毒耐性は利きません。マッチする毒耐性でなければ有効に働きません。わざわざ何十種類もある毒の中から、今、まさに撒かれている毒に耐性のあるバンダナをたまたま持っていたってことですか?」



 シェリルは鋭く冷たい視線で俺を見つめる。

 まるで、俺が毒を撒いたと疑っているような素振りだ。


 いや、確かに、毒を撒いた現場に、その毒に耐性のあるバンダナを着けている奴がいれば怪しい。現に俺とゼルは他の人達と比べて明らかに毒の進行が遅い。


 むしろ、まるで毒が効いていないみたいだ。




 だけど…


 それじゃ?



 いや、だが、理屈は確かに…




「…ゼル?」



 俺はそんなはずはないと思いながらも、背後にいるだろうゼルへ視線を送る。







=====================

=====================






「…どうやら王国から教会に漏れたそうだ」

「へぇ…失態だな…大佐」


「近々、教会から調査が極秘で入る。そうなる前に、関係者を皆、処分してほしい」

「関係者?どこまでだ?まさかよ、デルタギルドの幹部連中を全員とか言わねぇよな?」


「現場にいる連中だけで構わない。検体と村人と、テスト中の冒険者3名だ」

「了解」


「それと、まだ1つ、ターゲットについて補足がある」

「あん?」


「まず、その村が国選で依頼を出している。内容はコボルトを討伐してほしいという内容だ」

「それがどうした?」


「インターンでその依頼を受けている奴がいる。もし、そいつがインターンを通過するようならば、ターゲットに加えろ」

「あー、了解」

「いや、まだターゲットの話は終わっていない」


「何だよ、まだあんのか?」

「ああ、そのターゲットに何か秘めた力がないかも調査してほしいのだ」

「あん?」


「もし、何の力もなければ同じように処分で構わない」

「力があれば?」


「…回収しろ」

「回収?変な言い方だな」



「…依頼内容は把握したか?」

「おいおいおいおい!説明不足!説明不足!!何だ?秘めた力ってのはよ!?すっげぇタレントでも隠しもってんのか?ああん?」


「お前が知る必要はない」

「おいおい!ツレねぇこと言うんじゃねぇよ!大佐!」


「依頼主の事情に、下手に首を突っ込む。それが暗殺者の流儀ではあるまい」

「おう、言うねぇ…だが、その秘めた力次第じゃ、俺も危険だ。知りてぇってのは当然だろ?」


「お前に権利はない。断ることも知ることも、何もな。ただ黙って任務を果たせ」

「けっ!」


「後は何かあるか?」

「ターゲットの処理だけでよ、証拠の抹消はやらなくて良いのか?」

「ああ、構わん。お前は言われた任務にだけ集中しろ」


「へいへい」

「後は?」


「ねぇよ」




「では、頼んだぞ、ゼル」




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