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シェリル



 俺はシェリルから事情を聴き終えると、概ね、メグメルド達の話と辻褄が合っていることを確認する。



「…なるほどな。つまり、帝国とデルタギルドの不正を調べに来たわけだ」

「はい…しくしく」



 脅されて極秘任務の概要を俺に話してしまったことで、かなり落ち込んでいる様子のシェリル

 ブログ教のお偉いさんだとは思えない彼女の様子に、何だか調子が狂ってしまう。


 今回、シェリルが極秘でここへ足を運んだのは、どうやら帝国が人造魔物の製造をデルタギルドへ依頼したことの証拠はなく、確証もなく、可能性も五分五分ぐらいで見ていたため、表立って活動してしまうと、教会と帝国、教会と冒険者、それぞれの関係が悪化してしまう可能性があったからだそうだ。


 ま、裏で動くってのは理解できる話である。



 そして、人造魔物の件が本当であれば、ブログ教としては見過ごすことができないため、シェリルの出番が来たということらしい。



「…人造魔物って禁忌レベルはどれぐらいなんだ?」

「ひぃ!?」



 俺がスターに言われて、彼女へそのまま尋ねると、シェリルは顔を引きつらせる。



「や、や、やっぱり!貴方!!一般人ではありませんねぇ!?」

「…何だよ、それ」


「禁忌レベルなんて言葉!堅気が知っているはずがありません!」

「堅気って…おいおい…正直に話さないと助けてやらないぞ」


「そ、そんなぁ!!色々と話しましたぁ!!もう助けてくださぁい!」

「いいから、ほら、話せ」



 何だか、俺らの方が悪いやつみたいな気がしてきた。

 いや、待て、こいつが無実だと決まったわけじゃない。こんな感じで、油断すれば、すぐに毒を撒いてくるかもしれないのだ。



「禁忌レベルは…A+です」



 シェリルは項垂れながら応える。

 正直、それが高いのか低いのか分からないので、俺は横目で肩のスターを見つめる。



「っ」



 スターはかなり顔を強張らせていた。こいつがこんな反応するぐらいヤバイみたいだ。



「人造魔物がそんなに脅威なのか?」

「いいえ、情報では、製造された魔物そのものは種族レベル5しかないですぅ」



 しか…

 いや、ま、上位の連中からすれば雑魚なんだろうけど。




「じゃ、何でそんなにヤバイんだ?」

「私にも…ちんぷんかんぷんですぅ」




 シェリルは本当に分からないと言った様子で首を横に振る。

 ここまで、何だかんだ正直に話してきた彼女だ。これを嘘と見るのは流石に忍びないが…



「…スター?」



「油断してはダメよ」

「だ、だけど…お前の知り合いでもあるんだろ?」



「それよりも…時間切れね」

「え?」




「おい!クラッド!」

「っ!?」



 俺はビクリと肩を振るわせる。

 声のする方向を見ると、そこには…




「ゼル!?」



 怒った様子のゼルと、疲れた様子のライトとチェルシーがこちらへと向かってきていた。


 そういえば、かなり長い時間、待たせてしまっていた…




「お前!!こんなところにいやがったか!!おい!!」

「すまない…いろいろと込み入った事情があったんだ」


「込み入った事情だぁ!?…ん?」


「ひぃいい!!目撃者が増えましたぁ!!」



 ゼル達が俺のところまで来ると、木に括り付けられているシェリルの存在に気付く。



 すると、誰もが怪訝な顔で彼女を見つめる。



「…何だ?こいつ?」とゼル

「泣いてますね」とライト

「何だか、可哀そうです」とチェルシー



 3人から憐みの視線を向けられている彼女

 その正体をみんなに打ち明けるのは危険かもしれないな。



「あー、何か、そういう趣味らしい」


「ひぃいいい!!違い…そぅです!そういう趣味ですぅ!」




「…放っておいた方が…良いのか?」



 そう困惑した様子で俺に尋ねてくるゼル



「あー…そうだな」



 俺はどう返答しようかと迷っていると




「やっぱり!嘘ですぅ!助けてくださ…あれ?」



 助けを求めているシェリルが、急にスッと拘束から解かれて、地面へストンと落ちる。



「おいおい…?」



 そして、シェリルはゆらりと立ち上がると不敵な笑みを浮かべる。




「クックック…」



 そして、彼女は手足をブラブラとさせる。まるでウォーミングアップしているかの素振りだ。




「…だ、大丈夫なのか?」


 俺は肩にいるスターへ小声で尋ねると、スターは怪訝な表情を見せていた。


 どうやら、スターが彼女を解放したのではないようだ。




「…ふっふっふ!!」



 解放されたシェリルは含みのある笑いを浮かべると、その青い瞳に獰猛な光が宿る。




「ふ…ふっ!ふっ!…ふぅ…うぅ…うっ」



 しかし、急に後ろのめりにドサリと倒れた。

 どうやら気を失っているようだ。




「何なんだよ…こいつ」

「さぁ…」




 俺とゼルが呆れたように気絶している彼女を見つめていると、構ってられないと、ゼルはこの場を立ち去ろうとする。


 すると、ライトとチェルシーが問いかけてくる。



「あ、あの…置いていくんですか?」

「村まで…連れて行った方が…」



「あー…」



 俺はスターの指示を仰ぐべく視線を送ると、コクリと頷いていた。

 どうやら、村へ連れて行くことに問題はないようだ。



「そ、そうだな。村まで運ぼうか」


 俺がそう言うと、ゼルも頭を掻きながらかなり面倒くさそうに頷く。



「おう…流石にここで放置はまじぃしな…おい!クラッド!お前は足を持て」



「了解…うおっ!重っ!」

「っ!!くそ重いぜ!こいつ!何でできてやがる!?」



 俺とゼルが持ち上げるのに苦戦していると、ライトがシェリルの腰の辺りを支え始める。



「え…わぁ!!重っ!」



 俺とゼルとライトの3人掛かりでようやく運ぶことができる重さだ。

 いや、これで山を下りるとか地獄なんだが…



「そもそも…こいつを村まで運ぶの、まずいよな?」



 と言いつつ、この子の正体を隠しながら、この子をここに放置することでみんなを納得させられる自信がない。

 正直に話すのも後々のリスクだし、こいつを連れて行くのも危険だし、どうしようかってのはある。



「大丈夫よ。さっきの会話の隙に、この子が敵意を見せたら気絶するように魔法を仕掛けておいたの」


「あー…なるほど…それで」



「そういうことね。油断はしないこと、何だか様子に違和感があるもの」

「変わったやつなのはそうだろうけどな…」



 シェリルはなぜか解放されたが、俺達へ危害を加えようとした瞬間、スターの魔法が効いて気絶したらしい。


 油断も隙もなさそうである。







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