刺客の正体?
俺はスターに連れられて、山のもっと深いところまで進んでいく。
生い茂る木々が日光を遮り、あたりが段々と暗くなる。暗くなるにつれて肌寒さすら感じるようになる。
そんな山の森の奥、そこに刺客はいた。
「た、助けてぇくださぁいぃ!」
太い木に逆さまで括り付けられているのは、シスターの恰好をした金髪の美少女であった。その青い瞳をウルウルと潤わせながら、震える声で俺達に助けを求める。
どうして、彼女が逆さまなのだろうと観察すると、どうやらスターの放った矢印が分裂して、手足や胴体を木に括り付けているみたいだ。貫通しているが、血は出ておらず、痛くもなさそうな様子である。
「うぇええん!このまま一人で寂しく死ぬんじゃないかと思いましたぁ!」
俺とスターへホッとしたような様子で泣き叫ぶシスター
いや、待て、こいつが俺達を毒で殺そうとした奴だろ?
視覚がターゲットに追い詰められて、その相手に助けを求めるか?それも毒を使うような奴がだぞ?
俺はそんな疑問を顔に出しながらスターの顔を覗き込むと、少し間はあったが、コクリとスターは頷く。そういうことらしい。俺達を騙そうとしている演技のようだ。
「…ね、私の代わりに、あの子へ語りかけて」
「え?」
「言ったでしょ。匿ってほしいって、私が喋る猫だってバレたら大変なの」
「あー…了解」
「コホン!」
俺は咳払いをすると、肩へスターが乗り、耳元で囁く。
その言葉を、そのまま俺は口にする。
「えー!まず!どうしてそんな恰好なのでしょうかー?」
「聞いてくださぁい!私!任務でここに来たんですぅ!そしたら!急に!この矢印がぁ!!」
シスターは隠す素振りもなく、素直に任務があって来ていることを告げてくる。
やや拍子抜けなのだが…
そんな俺の様子にも構わず、続けてスターは囁く。
「あー…えっと…その任務って何の?」
「そんなことよりも!助けてくださぁい!!頭が重たくなってきましたぁ!」
「正直に、話せば、降ろしてやる」
俺がそう話すと、シスターはキッと俺を睨む。
「やっぱり!貴方がこの魔法を私に放ったんですね!!この魔法!すごーく強い拘束と、いやらしーい追跡の術式が組まれてますから!外せるのは術者ぐらいですぅ!!」
プンプンとした様子で俺を詰めようとしてくるシスター
どう答えようか迷っていると、すぐにスターが耳元で囁く。俺はその通りのままで行動する。
「え…そうなの?じゃ…俺には無理そうだな…すまん」
そう言って、俺は踵を返す。
すると、背後から慌てたシスターの声が響く。
「ひぃいい!!ま、間違えましたぁ!!カマにかけようとしてすいません!!でも!!言ったことは本当なんです!!あの!!誰か助けを呼んできてください!!」
「…でも、それ、術者しか外せないんだろ?誰が術者で、どこにいるのかも、俺、分からないよ?」
「あ…えっと…その…ベグマのブログ教の教会に行って…やっぱりダメです!」
「何なんだ…?」
途中で言い淀むシスター
俺が怪訝な顔をしていると、そんな俺にスターが耳元で囁く。
「やっぱり…ブログ教の異端審問官みたいね」
「ああ、そういうことか」
「…ブログ教の司祭に外すように頼んでみるけど!俺には解術に払えるほどのお金なんてないぞ!?」
「お布施は!!私が…払います…」
「じゃ、その金は?前払いだぞ?」
「ひぃー-ん!!」
俺がスターに言われた通り話すと、シスターは再び泣き出してしまった。
「…調子が狂うな。てか、お前の鑑定スキルで調べられないのか?」
「調べられないように工夫がされているわ。一般の修道女じゃないのは確かよ」
「すまん。気を引き締める」
「ええ」
俺はスターと話終えると、再びスターは俺に話すべき内容を囁き始める。
「なぁ…悪いが…助けられそうにない」
「そ、そんなこと言わないでくださぁい!」
「そう言われてもな…」
「…うぅ!!そしたら内緒ですよ!」
「ん?」
「私!ブログ教の司教なんです!」
「…見え見えの嘘はやめろや」
「嘘じゃありませんよぉ!」
ブログ教の司教と言えば、かなりの幹部だ。こんなチンチクリンなはずがない。
「あ、あの!私!シェリルって言います!私の名前と、私がここで助けを求めていることを、ベグマの教会にいるレッドさんに伝えてくださいぃ!」
「レッドって…無理無理!門前払いだよ!一般人が会える相手じゃないぞ」
「私の名前とここにいることを伝えてもらえれば!会えるはずですぅ!」
シェリルと名乗る自称ブログ教の司教は、泣き叫びながら、恥と威厳を捨てて、俺に助けを求めてくる。
そんな彼女の様子に戸惑いを隠せないでいると…
「…正体が分かったわ。シェリルという名前と、ブログ教の司教のワードで、解析できたわ」
「うお?」
「一部、タレントやらライセンスが出てこないのだけど、本当のことを言っているわね。それに、姿は違うけれど、私の知り合いと同一人物のようね…また改造されたのかしら…」
「ん?改造?知り合い?え、ってことは、どうなんだ?」
「…もう少し話してみましょう。この子が刺客とは考え難いけれど、情報が少な過ぎて判断に困るわ」
「あ、ああ…いや、待て待て、本当に司教なのかよ…こいつ」
「ええ…こんなのでも司教ね。しかも、あの聖女の直属だから戦闘力はかなり高いわ。気を抜かないでね」
「あ、はい」
俺は再びコホンと咳払いすると、泣いているシェリルへスターに言われた通り語り掛ける。
「あー!えっとだな…なんで、そんなお偉いさんのシェリル様が、こんな辺鄙なところまで?」
「そ、それは…言えません!極秘任務なのですぅ!」
「あ、そうですか…それじゃ」
「あ!待って!待って!!」
俺が踵を返すと、再び背後からシェリルの鳴き声が響く。
「話しますぅ!話しますから!助けを呼んできてくださぁい!頭が!頭が破裂しちゃいますぅ!」