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ナゾノスター




 俺達はミンクフィールドを抜け、山道を進んでいくと、やがて奥に見える景色から長閑な村々が見下ろせるようになる。




「うわー…!」

「す、すごい…わぁ!」



 ライトとチェルシーが感動した様子で高いところから見下ろせる景色に感動していた。そういえば、2人ともベグマから出るのは初めてだと言っていたな。いつも仏頂面のチェルシーですら、微笑みを見せているぐらいだ。この大自然を感じられる景色に感動を覚えてくれたのだろう。正直、冒険者の醍醐味ってこれだよな。



「さ、いくぞ、ここからは山を下りることになるから、足元に気を付けろ」

「はい!」

「あ、はい!」



 俺がライトとチェルシーの肩を軽く叩く。

 すでにベグマの区域を抜けているため、この辺りは魔物が出没する。


 とはいえ、ゴブリンやコボルト、ハミングバードやウェアラットなどの種族レベル1から2ぐらいの魔物しか出てこないため、襲われてもゼルが簡単に薙ぎ払ってくれるだろう。


 それでも、油断していい理由にはならない。

 こんなところで足止めしているのはリスクしかないのだ。





「待って」



 これから進もうと言う時に、俺の耳元で囁くのはスターだ。

しかも、かなり焦った様子の声である。



「どうした?」



 俺がそうスターへ問いかけると同時に、俺の肩からスターがぴょんっと飛び降りると、1人で森を駆けていく。




「おい!スター!」

「にゃー!!」



 俺はスターの背後を追いかけようと走るのだが、そんな俺の肩をゼルが掴む。



「おい!一人で行動するな!」

「待て待て!俺の猫がどこかに行っちまう!追わせてくれ!」

「…っ!」



「すぐに捕まえてくるから、ここで少しだけ待っててくれ!」

「…わかった」



 ゼルはかなり困った顔をして頷く。

 こいつは俺の護衛でもあるから、護衛対象が散開するのは嫌なのだろう。



「待ってください!それなら私達も一緒に探します。私達がまとまっていた方が、ゼルさんも護衛しやすいですよね」



 チェルシーが気を利かせて提案してくる。

俺も確かにと頷くのだが…



「いんや、猫は森の中だ。てめぇら子供が行くのは危険だぜ」



 頷くところだったが、ゼルの言う通りだとも思った。ここまで通ってきた道はある程度切り開かれた道であるが、スターが行ったのは完全な森の中だ。ライトやチェルシーを危険な目にあわせるわけにはいかない。



「すまないな。すぐに戻ってくるから」

「ま、焦らず、しっかりと探してこいや!」

「ありがとう!悪いな!」




 何だかんだで、ゼルは優しいやつだな。







================

================







「おーい!!スター!!どうした!?」




 俺はゼル達から離れたところで、スターの名前を叫ぶ。

 おそらく、俺と内密の話があるから、こうした行動をとったのだろうと考えていた。



 そして、案の定




「意志が通じたわね」

「うおっ!」



 目の前の木からスッとスターが飛び降りてくる。

 急に現れたため、俺は危うく尻もちをつくところだった。



「…驚かせるなよ」




 俺は驚いて高鳴る心臓を押さえつつ息を吐く。

 すると



「クラッド」



 俺が文句の一つも言ってやろうとすると、スターがかなりあらたまった様子で俺を見つめる。何だか真面目な空気が漂うため、軽口が言える雰囲気ではなくなっていく。



「どうした?急にあらたまって」

「上を見てみて」


「ん?上…っ!?」



 俺はスターに言われた通り空を見上げる。

 すると、木々の上に、無数の影が潜んでいることに気付く。



「…コボルト!?」

「ええ、どうやら縄張りに入り込んだみたいね」


「お前が入り込んでたんだろ!!」

「で…あそこにいるのが親玉よ。銀色のやつ」



「コボルトが銀色…?」



 スターが前足で指し示す場所へ視線を向けると、確かに暗がりでも艶のある銀色の毛並みを持っていることが分かるようなコボルトがいた。



「変異種かよ…って!!このコボルト、全員が変異種か!?」



 銀色のコボルトに気付くと、俺達を囲っているコボルトも色が白いことに気付く。どうやら、銀色のコボルトが原因で変異が伝染したようだ。




「ええ…ね!!あなたがボス!?」



 スターは簡単に俺へ状況を説明し終えると、すぐに銀色のコボルトへ問いかける。まるで人間の言葉を相手が理解してくれると思っているような行動だ。



「コボルトが喋れるわけ…」



「オマエ…ナニモノ…?」



「喋ったっ!?」



 銀色のコボルトはスッと木から降りると、その護衛らしい白いコボルトも5匹ほどスッと木から降りてくる。そして、俺達と少し間を開けて立ち止まる。喋れることもそうだけど、コボルト同士でかなり統率がとれており、かなり知能が高いように見える。てか、そもそも猫が喋っているんだから、コボルトが喋れても、もはや不思議はないよな。




「ココ…ハ…ワレラ…ナワバリ」

「勝手に入ったことは謝るわ」


「ナラバ…タチサレ…」



 縄張り意識が強く、テリトリーに入ったものは誰彼構わず襲い掛かるような連中が、俺達を見逃すというのは奇妙な話だ。知性だけじゃなくて本能まで変化があるのか?



「でも、弱肉強食って知っているかしら?」

「ナニガ…イイタイ…?」


「私があなた達の縄張りを強引に奪っても、それが自然の摂理よね」

「おいおい…スター?」



 俺はちょっと乱暴なスターの物言いに怪訝な反応を示すのだが、冷静に考えれば、それはある意味で俺達の任務でもあった。コボルトを排除しようとここへ来たのだから。







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