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異変(夜)



「…っ」




 山の頂に到着し、ちょうど折り返し地点に差し掛かったところで、俺は周囲をコボルトに囲まれていることに気付く。




「囲まれてるな…ちくしょう」




 俺はナタを手に取ると、片手で構えながらコボルト達を見渡す。




「グルルル!!」

「ワンワン!!ウォー!!」

「グゥ!!ガウガウ!!」



 周囲から犬のような喚き声が聞こえる。

 そんな中、1匹だけ銀色のコボルトがいた。




「…あれが変異種の大元か」



 そう俺が感じたように、そのコボルトは堂々とこちらへ向かって進んでくる。




 そして…




「ライトニング エックス」



 しゃがれた声で精霊召喚の詠唱を唱え始める。

 間髪入れずに攻撃してくるようだが、まさか、コボルトが黒魔法を使えるはずがないと怪訝な顔をしている俺の前で、銀色のコボルトは続く詠唱を口にする。




「ドローイング ライトニング」



 銀色のコボルトは、バチっという轟音と共に、全身に紫色の稲妻を纏い始める。いわゆる雷纏状態だ。

 間違いなく精霊召喚に成功しており、明らかに周囲の空気が変わったのを感じる。




「ただの変異種じゃない…こいつ…」




 コボルトだからと油断していたことを自戒し、すぐに突破口を見つけ出そうと、俺は周囲を見渡す。

 ライトニングは上位精霊だ。攻撃力と範囲に優れる魔法だが、その特徴はそのままデメリットとなる。


 コボルトは群れで生活する特徴があり、仲間意識が意外と高い。ならば、かなり格好悪いが、お前の仲間を盾にさせてもらうぞ。




 俺はパッと地面を蹴ると、俺を包囲しているコボルトの群れに飛び込む。俺を迎撃しようと爪や牙を向けてくるコボルトだが、流石に、タレントのない俺でも簡単に避けられる。


 向けてくる爪を躱し、その腕を掴みながら背後へ回り込み、すぐにその細い首に片方の腕を回して首筋にナタを当てる。咄嗟にコボルトの1匹を盾にしたのだ。


 すると、俺を包囲していた周囲のコボルト達がざわつき始め、動きがピタリと止まる。やはり、コボルトは仲間意識が強い様子だ。



 しかし…



「…おい!」




 銀色のコボルトは、俺へ右の人差し指を向けてくる。



「こ、こいつがどうなってもいいのか!?」



 まるでド三流の盗賊ようなセリフを吐く俺だが、銀色のコボルトはまるで「構わない」と言いたいかのように、その指先に魔力を集中し始める。




「…エックス ショット」



「っ!?」



 俺は咄嗟に盾にしていたコボルトを突き飛ばし、すぐに回避を試みる。



「がっ!」



 焼けるような痛みが肩を貫く。

 空気を切り裂いて進む電撃が、どうやら俺の肩をかすめたようだ。




「…っ」



 そして、俺が咄嗟に突き飛ばしたコボルトは、奴の魔法の射線上にいたため、真っ黒焦げになっていた。

 間違いなく、銀色のコボルトは仲間と共に俺を殺すつもりだったようだ。それも躊躇などまるでない。



「…なんてやつだ」



 人質にしていた奴が言うセリフではないが、仲間もろとも殺そうとするのもどうかと思う。

 そんなことを考えている俺へ、銀色のコボルトは、その指先の照準を俺に合わせる。



「…ぐ」


 今の体勢では避けられない、万事休すかと思われた。

 その次の瞬間




「…?」




 銀色のコボルトは、全身を一気に赤く染め上げる。自分の首を自分で絞めるように押さえ始めると、地面をジタバタと転がり始めた。




「…え?何だ…?」




 急に苦しみ始めるコボルトに混乱しそうになる。





「何が…どうなってる!?」




 俺の周囲にいたコボルトも、同じような様子で、全身を真っ赤に染めながら、地面を苦しそうに転げまわっていた。気づけば、周囲の草木も段々と赤く染まっていく。



「…これは…毒!?」




 明らかに、ライトやチェルシー、村人、そして、ゼルを侵していた毒だ。

 コボルトが放った毒だと思っていたのだが、その毒でコボルト達がやられている。自分で撒いた毒に自分で侵される。かなり馬鹿な話ではあるが、このコボルト達は賢いはずだ。




「お、お前らがやったんじゃないのか?」




 俺は思わずコボルトへそう問いかけるが、銀色のコボルトは首を横に振る。

 まるで俺の言葉を理解しているような素振りだが、本当に理解しているならば、この毒はコボルトの仕業ではないことになる。ならば、一体…誰が?




「…おわ!」



 そして、上から液体の大きな塊が3つドサリと落ちてくる。

 粘着性が強いのか、地面に落下してもなお、人間のようなシルエットを保っていた。変わり果てた村人達の様子に近い状態だ。この3つの塊、元は人間であったのかもしれない。




「…何だ…何なんだ!?」



 俺は事態の異変に動けず、しばらく立ち尽くしていた。数分もしない内に、周囲にいるコボルトや銀色のコボルトも、段々とその体がドロドロと溶け始めてくる。そのころには、もはや動く体力も残っていないのか、ただ苦しそうに痙攣だけ続けていた。





「何で…俺だけ…無事なんだ?」









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 あれだけ凄まじい光景に遭遇しながらも、俺はいまだに全身に異変を感じず、五体満足なまま山を進むことができていた。肘や指先など、細かい部分も目視で確認するのだが、赤く変色しているようなことはなかった。




「…俺、もしかすると、毒抵抗でも本当は持っているのか」



 そんな楽観的なことが脳裏に浮かぶ。コボルトや木々があれだけ凄惨な状態になってもなお、俺が無事な理由が他に想像できない。




「…もしかして、ゼルがくれたこのバンダナ」



 俺は口元を覆っているバンダナを手に取る。

 毒に対する抵抗があると言っていたバンダナだが、気休め程度ではなく、かなりの効果があるのかもしれない。




「いや、それなら、ゼルは…」




 そんなことを考えて進んでいると、目の前には真っ白な草原が見え始めてくる。






「…もう少しだ」



 コボルトは全滅しているため、俺を追いかけてくるものはいないのだが、不可解な毒のことがある。ベグマギルドへの報告、そして、ギルドに毒の元凶を解決してもらうのが、あいつらへの弔いだ。









「あれ?」



 

 急に視界が360度に一回転する。




 そして、俺の目の前に何かの塊が振り下ろされるのが見えた。



「え?なん…」





 最後に、視界が真っ黒に染まる。





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