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黒幕登場?




 空から大量に降り注いでくるコボルト達



 奴らは一体どうやって上空へ飛び上がったのか見当もつかないが、事実として、大量に降下してきているのだから、今の問題はそんなことではないだろう。



 いや、だが、待て…

 そもそも、対処の必要あるか?


 あの高さなら地面と激突して、勝手に死ぬだろう。




「ゼル、どうする?放っておけば勝手に落下死すると思うが」

「ああ、自殺行為だぜ。奇を狙ったのかもしれねぇが…コボルトの考えた作戦だ。ツメが甘ぇ」



 ゼルが俺の言葉に頷くと、すぐに周囲にいる村人達へと叫ぶ。



「おい!お前ら!空からくるコボルト達とぶつからねぇように注意しろ!!」

「んなこと言われても!!」

「こ、こんな数!避けようがねぇだ!!」


「地面の影だ!地面の影にも注意しろ!!」

「え!?」

「どういうことですだ!?」



「上だけ見て避けようとすんじゃねぇ!地面の影だ!影でも落下位置を予測しろ!!それと!!互いに互いの影が重ねぇように!少し間隔を開けろ!!」


「はいですだ!!」

「お、おうです!!」

「は、離れるどぉ!!」




 かなりの高さから降りてきた様子のコボルト達だが、あの速度では間違いなく着地などできずに、地面と衝突して潰れたトマトみたいになることだろう。怖いのは、落ちてくるコボルトが村人に当たってしまった時のことだけだ。


 そう誰もが感じていたはずなのだが…




「…魔力反応!?」



 ゼルがそう叫ぶと、次の瞬間

 俺達の上空に緑色の魔法陣が浮かび上がる。魔法陣の色で属性を判別することができ、緑色は風魔法である。脳裏に風魔法と過ると、嫌な予感が次に浮かんでくる。




「来るぞ!!!武器を構えろ!!」



 ゼルは魔力反応が風魔法による攻撃だと捉えたようだ。

 


 しかし…



「っ!?」

「着地してくるぞ!!!構えろ!!」



 地面に激突する瞬間で、コボルト達はふわっと一瞬だけ持ち上がる。そして、ピタリと何事もなく続々と着地を始めた。



「グルルルルル!!!」

「ワォーン!!!」

「グルル!」



 至る所からコボルトの唸り声が響き始めると、四方八方から俺達へ襲い掛かり始める。





「斧旋風!!!」



 すかさず、ゼルが斧を振り回すと、斧から放たれた無数の衝撃波がコボルト達を切り刻んでいく。C級冒険者であるゼルにとって、コボルトなど相手にならないのだ。


 しかし、それは相手がただのコボルトならの話だ。




「…ぐ!」



 ゼルは周囲を見渡すと苦悶の表情を浮かべる。

 地面に着地したコボルト達は、集まった村人たちの陰に隠れるようにして向かってきており、ゼルの攻撃の射線を村人が塞いでしまっていた。



「お前ら!!一旦下がれ!!」


 ゼルがそう村人達へ叫ぶが、すでに農具でコボルトと交戦中の村人達は、ゼルの言葉に耳を貸す余裕などない。あっという間に、周囲は混戦状態となってしまい、大技の多いゼルが苦手とする戦場へと変わっていく。



 落下してくるコボルトを避けるために、村人たちが中途半端に散開していたのも悪い影響を及ぼしていた。そして、空から落下してくるコボルトに気付かなかったのも、奴らの作戦だろう。見えるように大群で押し寄せつつ、村人の一人を人質にすることで完全に注意を引き付けていた。



「くそ!!おい!!集合しろ!!おい!」



 ゼルが斧を小まめに振り回しながら、コボルトを切り裂いていくのだが、村へ着地したコボルト達が続々とこちらへ集まってくるため、ますます混戦模様は深まっていく。とても、素人の村人達が集合できるような状況ではなくなっていた。



「これは…かなりヤバイな…」



 俺はクワでコボルトの頭部を砕きながら、背後にいるライトとチェルシーへ叫ぶ。



「良いか!絶対にそこから離れるな!壁を背にしていれば、背後から襲われることはないからな!」

「はい!」

「わ、分かりました!」



 ライトとチェルシーは震える声で頷く。

 かなりマズイ状況であることは、2人も察しているようだ。



「…しっかし、こんな時に、スターはどこへ?」



 俺は、気付けばスターがどこにもいないことに気付く。

 どさくさに紛れて逃げたのか?それなら、無事に生き延びてくれればいいのだが…



 俺はコボルトと戦いながら、スターのことを気にかけていた。




 そんな時だ。





「…ライトニング エックス」




 しゃがれた声で詠唱が響き渡る。

 人間の言葉に聞こえるが、言葉を発したのは人間でないことがわかるような声色だ。言葉の意味は精霊を呼び寄せるものだ。




「っ!?」



 その詠唱に対して、ゼルの表情が引きつる。

 きっと、俺の顔も引きつっていたことだろう。



「な…まさか!?」



 俺ですら知っている。

 ライトニング系の精霊は、風魔法でも、かなり上位に属するものだ。




「ドローイング ライトニング」




 そして、精霊を実体化させる詠唱が木霊すると、タレントのない俺でも分かるほどのほとばしる魔力をどこかから感じる。明らかに、周囲の空気が変貌していた。空気に押しつぶされそうな間隔を覚えるほどである。




「魔法が来るぞ!!!」



 ゼルが叫ぶと同時に、黒魔法の詠唱が木霊する。




「エックス サンダーフレア」




 魔法の詠唱が木霊した瞬間、俺の目の前は紫色にすべてが染まった。




 空気を切り裂くような雷鳴と共に…







=================

=================







「…っ」



 目の前がバチっとなって、紫色に染まると、すぐに真っ暗になる。

 どれぐらいの間だったかわからないが、どうやら俺は立ったままで気を失っていたようだ。


 前後の記憶が曖昧だが、すぐに俺はコボルトの襲撃を受けていたことを思い出す。そして、直前までの記憶が蘇ってくるのだが、その直前までの記憶と、今の目の前の現実が一致しないほど乖離を見せていた。




「…嘘…だろ」



 俺は周囲を見渡す。

 そこには黒焦げになった死体が散らばっていた。

 村中、いたるところに死体が転がっている。



 手足はバラバラ、内臓はまき散らされ、俺の足元には、俺の足の甲が転がっていた。

 どうやら立ったまま気絶したのではなく、俺の足は千切れ飛び、腰から下が地面とくっついていたようだ。




「…ライト…チェルシー?」



 俺は感覚のない首を背後に回すと、そこには子供の影が2人分、地面にくっきりと残っていた。



「…ゼル?」



 俺はゼルがいた方向を見ると、そこには黒くなった斧が地面に突き刺さっており、地面にはゼルのようなシルエットがくっきりと残っている。




「…っ」




 そして、俺の目の前には、事の元凶たちが姿を見せる。




「おい…息のあるやつがいるぞ」

「あはははは、運が良いのか悪いのか」

「念のため、しっかりと引導を渡しておけ」


「イエス…マイ…ロード」




 俺の目の前には、銀色のコボルトを連れた3人の冒険者がいた。



 見間違うはずがない、こいつらはイータギルドの連中だ。俺が働いていた武具ギルドの親ギルドの連中なのだ。だが、なぜ、こいつらがコボルトを連れている?


 まるで、こいつらがコボルトを操っているような。

 まさか、人間が魔物を…?



 そんなことを走馬灯の代わりに考えていると、もはや数刻で死ぬであろう俺へ、銀色のコボルトが手のひらを向ける。




「エックス ショット」




 しゃがれた声で詠唱が木霊すると、すぐに俺の視界は真っ黒に染まる。




 そして、完全なる無が訪れた。








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