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襲撃



 俺達が村の外へ出ると、すぐに異変に気付く。




「何だありゃ!?」



 パソメは景色の奥で蠢く白い線に驚きを隠せない様子だ。

 そして、その白い線をまじまじと観察してみると、その正体に俺達も驚く。


 

「ありゃ、コボルトか!?」

「予想以上の数だぜ…」



「おーい!パソメさ!!」

「コボルト!!えれぇ大群で来やがっただ!!」

「やばいだ!やばいだ!!」




 パソメを筆頭に、村人たちは外から押し寄せてくるコボルトの数に驚愕しているようだ。彼らの反応から察するに、いつもの襲撃よりも、コボルトの数が非常に多いのだろう。確かに、あんな数で毎回襲撃を受けていれば、この村の畑はすぐに全滅していただろう。




「おい!パソメ!村人をここに集めろ!」



 ゼルは遠目に映るコボルトの群れを見つめると、すぐに隣にいる村長パソメへと指示を出す。かなり険しい顔をしており、かなりの緊張感が漂い始める。



「あ、集めてどうするだ!?」

「集団で行動するんだよ!それで、あいつらを撃退して畑を守るぞ!お前らが散り散りになられると、万が一に対処ができねぇ!」

「わ、わかりましただ!!おい!みなを集めてけろ!」


「わかっただ!」

「待ってろ!!」




 パソメが頷くと、近くにいた村人達が頷き合い、農具を片手に村へと散っていく。

 ゼル1人で村の全域をカバーできないため、村人を集めておいたほうが護衛しやすいということだろう。



「…逃げる選択肢はなくなったわけだな」

「ああ、ありゃ、逃げ道なんかねぇだろ。裏は崖みてぇな山だしな」



 コボルトの大群は、俺達がベグマからやってきた方向から向かってくる。

 その方向以外に通れる道はなく、他の道は断崖絶壁ばかりで決して人が通れる場所ではなかった。



 ベグマまで応援を呼ぶつもりだったが、まずはコボルトの襲撃を凌いでからでないと厳しそうだ。

 それに、あの数で畑が荒らされてしまえば、今度こそ壊滅的な被害となってしまう。当初の方針とは異なるが、畑が荒らされるのを黙って見ていれば、それは村人を見殺しにすることに等しくなってしまう。





「あいつら、もしかすると、この村を滅ぼしにきやがったのかもな」

「どういうことだ?」


「コボルト連中、あの数、総力戦ってな感じだぜ」



 ゼルに言われて押し寄せてくるコボルトを見渡す。確かに、この辺りに生息しているコボルトの数が、あれですべてじゃないと言われればげんなりする数だ。




「…まさか、俺達が来たことで、奴らを刺激したのか?」

「可能性はあるが、ま、そりゃ、村人の前で口にすんなよ」

「了解だ」


「で…わりぃが、クラッド、お前は一緒に戦ってもらうぜ」

「ああ、コボルト相手なら大丈夫だと思う」


 ゼルが俺にそう言うと、ライトとチェルシーが手を挙げる。



「あ、あの!僕達も闘います!」

「はい!」


「…お前らは、そこに引っ込んでろ」



 ゼルは先ほどまで居た村長の家を指さす。確かに屋内で隠れていてもらった方が良いかもしれないが…



「いや、一緒に行動した方が安心だ」

「…依頼主がそう言うなら従うぜ」


「ライト、チェルシー、積極的に戦う必要はない。だけど、万が一の時は…」



 俺は家の外に立てかけてある農具を手に持つ。クワのようなものである。



「これを使え」

「…わかりました!」

「はい!」



 俺とライトとチェルシーが農具で武装すると、そこまで広い村ではないため、すぐに村人は集合し始める。そして、パソメが村人の点呼を始めると…



「全員いそうか?」



 ゼルが頃合いを見て、パソメへと問いかける。

 しかし…




「…ロバートの奴がいねぇだ!」

「何だと!?」


「お、おい!あそこ!!」

「ん?」



 そして、村人の一人が気付く。

 押し寄せてくるコボルト達が何かを掲げていることに…




「…ありゃ、なんだ?」

「十字架?」




 木の板を2枚重ねて十字架のようなシルエットにしているものをコボルト達が掲げていた。そして、その木の板には人のようなシルエットが見え始める。



「おいおい…」

「まさか」



 俺とゼルは嫌な予感が脳裏に過る。

 そして、とある村人の叫びが、その予感を的中させた。



「ロバート!?」



 コボルト達は村人の一人である男性を、木の板にくくりつけて、空高らかに掲げているようだ。木にくくりつけられているロバートは、全身が傷だらけなのかボロボロな様子であり、ぐったりと項垂れていた。




「くそ!まさか人質まで取りやがるとはな!!」



 ゼルが吐き捨てるように言う。

 統率されているとは認識していたが、まさかここまでの行動をコボルトが見せるとは予想外であった。



「…どうする?」

「あいつらの出かたを見るしかねぇ」


「出かた?」

「ああ、ああして人質を取りやがったってことはだ。俺達と何か交渉がしたいんじゃねぇか?」


「交渉って…あいつらはコボルドだぞ?」

「ただのコボルトが人質なんて真似しねぇだろ」


「確かにな…だが、あいつらが交渉を考えてるとまで見るのは、どうだろう。俺達の動きを鈍らせるためだけの人質だと思うが」

「いずれにしろ、出かたを見るしかねぇ」



 俺とゼルが対応を考えていると、すぐ近くで、再び村人が叫びを轟かせる。



「…おい!あれを見るだ!?」


「今度は何だ!?」



 叫び声をあげた村人は、空を指さしており、その指先へ視線を向けると…




「コボルト!?」

「おいおい…まじか…おい!」




 空を覆うような白い雲

 よく目を凝らすと、その雲は蠢くような数のコボルト達で構成されていた。






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