昔話 その2
日光が反射して煌めく白銀の髪
その身に纏うのは漆黒の鎧だ。
この漆黒の鎧は精霊の鎧と呼ばれており、持ち主の属性に応じて、鎧に宿っている精霊が防御力や耐属性値を調整、その調整結果で色が変わる『マジックフェイズアーマー』なる技術が使われている。当ギルドで最も高価な鎧である。
そして、その鎧の色は黒に近ければ近いほど、防御力や耐属性効果が高く、日光の反射すらも許さないほどの漆黒であれば、精霊の鎧の性能を極限にまで引き出しているのだろう。
流石は、聖女ミシェルと並ぶ世界最強の一角である。
「ありがとうございました!!またよろしくお願いします!!」
「こちらこそ。すごく良くしてもらったわね」
俺はまっすぐに下げた頭を戻すと、勇者プラチナは女神のような微笑みを俺に向ける。
まさか、こんな大物が俺の話を聞いてくれて、買ってくれるとまでは思わなかった。
「長い時間、付き合わせてしまったみたいね…お礼を言わせてもらうわ」
「あ、いえ!そんな!」
「それじゃ…また何かあったらよろしくね」
「はい!」
勇者プラチナはそう言ってベグマの雑踏へと溶け込んでいく。
俺は最後まで彼女を見送ると、すぐにトラッジが待っているであろうギルド本部へと戻ることにした。
これで今季の売上上位は間違いない。もしかしたら、トップも狙えるかもしれない。
「うっし!」
俺は小さくガッツポーズするのだった。
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「えええぇぇええ!!!クラッドさん!!プラチナ様に会ったことがあるんですか!?」
「ずるい!!」
ライトが驚きを露わにし、チェルシーが頬を膨らませている。
そうか、子供からしたら、勇者プラチナはヒーローみたいなものか。
「ああ、ま、あれっきりだったけどな…」
「すごいです!!プラチナ様!!どんな感じでした?」
「ん?ああ、めちゃくちゃ強そうだし、気高く美しいって感じだな。何より人格者だった。タレントのない俺みたいな奴相手にも、分け隔てなく接してくれてた」
「人格者?」
「すごくいい人ってことですか?」
「あ、ああ…すごくいい人ってことだな。出会いも貧民街でさ、ライトやチェルシーみたいに困っている子供たちを助けてたところに、俺が出くわしたみたいな感じだったな」
「噂通り、すごく優しい人なんですね!」
「わー!会ってみたいなぁ!!」
「やっぱり!最強の勇者ね!」
「うん!」
「会ってみたい…か…」
勇者プラチナは、その後、大魔公ベリアルスと相打ちになったと言われている。
しかし、世間一般にその説は受け入れられておらず、ましてや子供にそんな話をすると泣かれてしまうかもしれない。
2人の反応を見るに、余計なことは言わないでおいた方が吉だろう。
「ん?」
俺はふとスターが真っ赤になっていることに気付く。
体調が悪いのかと思ったが、どこか照れているような印象だ。
「何でお前が照れているんだ?」
俺がそう囁くと、なぜか頬にネコパンチを食らわせてくる。
「うるさいわね」
「…?」
「精霊の鎧が売れたってことは、クラッドさんは無事に正規メンバーになれたんですか?」
「いや…それが…色々とあってな…」
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「おい!才能なし!やったじゃねぇか!!」
「ああ!ゼル!!ありがとう!」
「ちくしょう!負けたぜ!だけどな!負けたけど嬉しいってのは初めてだ!!かっかっか!!」
ゼルはそう言って大笑いする。
俺は今期トップの売り上げを達成することができた。精霊の鎧が売れたこともポイントだが、日々の地道な売上がやはりポイントであろう。
とにかく、これで正規メンバーの条件を満たしたことになる。
「ゼル…色々とありがとう」
俺はここまで成績を上げるのに、ゼルが色々と助けてくれていたのを知っている。俺の事が気に入らない連中によって仕入れを妨げられていた時も、こいつが裏でこっそりと解決してくれていたそうだ。他にも、トラッジに噛みついて、俺を公平に扱うようにも言っててくれたみたいだ。
「ん?何がだ?」
しかし、ゼルは俺の感謝にキョトンとした表情を見せる。
「いや…あははは!何でもない」
こいつにとってあれらは、俺を助けるってよりも、曲がった事が嫌いだっただけって感じだな。だから、感謝は胸に秘めておこう。
「とにかくよ!おめでとう!良かったな!」
「あ、ああ…だが、まだ確定したわけじゃない」
「なーに言ってんだよ!ほれ!」
ゼルが廊下の向こうを指差すと、そこにはトラッジがいた。
「クラッド、ちょっと来なさい」
トラッジはそう言うと、そそくさと会議室へ入っていく。
「ほら!正規メンバーの話だぜ!」
「あ、ああ…」
俺はゼルに肩を押されて、トラッジが待っているであろう会議室へと進む。ゼルには素っ気ない感じを出してしまっていたが、内心では嬉しさで心臓がバクバク鳴っていた。
「失礼!し!まーす!」
俺は胸の中で跳ね回る心臓の勢いのまま声を上げ、会議室の扉を開ける。
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「おい!昔話はその辺にしとけや」
ゼルはどこか照れくさそうに頭を掻きながら、俺の話を遮ってくる。
「もう時間か?」
「ああ、ほれ、いくぞ。夜になる前には村に着きてぇからな」
ゼルは手早く荷物を纏めると、出発を促してくる。
「えー!すごく良いところでしたよ!?」
「続き、聴きたいです…」
ライトとチェルシーは話の続きが気になるようだが、この先を話していては、夜までに村へ着けなくなってしまう。
「村に着いてからだな」
俺は苦笑いしながらライトとチェルシーの頭を撫でる。2人は渋々と荷物をまとめ始めた。




